無詠唱

「初級っていうと、最初に発動したあの魔法の事か?」


「そうじゃ。さすがにまだ覚えておるじゃろう? 形状、威力、大きさくらいはの。まあ消費魔力量がわからなかったら、もう一回詠唱して発動させてみるがよい。」


「さすがに、消費魔力量はわかってなかったな。もう一度発動してみる。」


 俺は『鑑定』で、魔力のステータスだけを表示させる。


「水よ、槍となりて、貫け。」


 ……うーん、中級と比べるとショボいな。まあ仕方ないか、初級だしな。さて、どれくらい魔力が減ってるかな?


 ……たったの10……少なっ! まあ初級だから少ない事くらいは予想していたけど、これは低すぎやしないか? 俺なら『ジグラの鎧』装備してたら一万回発動出来るぞ!?


 まあ俺がレベルお化け、ステータスお化けなせいで、感覚がおかしくなっているだけかもしれないが……いや、多分そうだな。


 まあいい、消費魔力量はよくわかった。では、詠唱無し──無詠唱、やってみるか。


 息を吸うと同時に両手を上げて、吐くと同時に両手をゆっくりと下ろす。いわゆる深呼吸というやつだ。


 目を閉じる。そしてこれから発動する魔法のイメージを固める。形状は大体30センチくらいの一本の槍、威力はあの木に傷一つ付けられないほど弱い、消費魔力は10。


 それが俺の目の前に現れて、真っ直ぐと、あの木へ飛んでいく……うん、何か生成しているような感覚がする。


 このまま……このまま…………って、これをどうやって飛ばせばいいんだ? イメージの時点で飛ばすことは完結している。


 うーんどうしよう。『発動』とか言ったら飛ぶのか? ちょっと恥ずかしいが、やってみないとわからない。


「発動ッ!」


 そして目を開ける。多分さっきまでそこにあったであろう水の槍は、俺の前から無くなっていた。


「どうだった? 大賢者? ちゃんと発動が出来てたか?」


「ちゃんと出来ておったぞ。じゃが、何で『発動』とか言ったんじゃ? 既に魔法は発動して、小僧の生成した水の槍は真っ直ぐに飛んでいっていたぞ?」


「え? それって、俺が『発動』って言ったのは無駄だったって事?」


「そうじゃぞ? 無駄じゃったぞ? 小僧が、魔法が発動したのに、それに気付かずに『発動ッ!』って、ちょっとカッコつけて言ったのは、無駄じゃったぞ? 結構恥ずかしいじゃろう?」


 彼は口元を押さえて体を左右に振っている。音を付けるとしたら、(プークスクス)という感じだろうか。


 駄目だ、考えれば考えるほどこっちが何故か悲しくなる。ああ! 次だ、次!

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