恐ろしいもの

 完治したであろうテツヤだが、確証はまだ無く、しかも服は溶けたままで、かなりよくない格好になったため、他の生徒達が叫んでいる中、保健室へ運ばれていった。


「ソウタ様、さっき何をなさったんですか?」


 学園長がたずねてきた。


「何って……テツヤを戦闘不能に追いやったあれか?」


「それのことです。」


「あれは、『水魔法』を使っただけだ。」


 彼は目を見開いた。


「何と……!しかし、ただの水があそこまでの効果をもたらすとは考えられません。」


「水質を変えただけだ。人間を溶かせるほどになるようにな。多少のアレンジだ。」


「水質を変えただけで、あそこまで恐ろしくなるんですね。……」


「……違う。……元々、水は恐ろしいものだ。水質なんて変えなくてもな。真水でも、集まれば家を破壊するし、喉に留まれば呼吸を止めて、人を、魔物を、死に追いやる。そして、その恐ろしいものを飲んでいかなければ、少なくとも人は生きていけない。」


 一呼吸置いて


「人も魔物も、運が悪ければコップ一杯の水でも死に至る。それは彼らが弱いからではない。水というものが、それだけ強いものであるからだ。」


────

──「今日は色々と世話になった。感謝する。」


「いえいえ、私は当然のことをしたまでです。こちらこそ、ありがとうございました。テツヤは、ここに来てから勝ちしか知らない少年だったのです。今日貴方に負けたことは良い経験になりましょう。」


 違うんだ。ステータスがモノをいっただけだ。作戦や魔法の応用力なら、あっちの方が上だろう。俺も戦闘の経験を積まないとな。


「それならいいんだがな。ああ、ところで、俺は名誉学園長に就任したわけだが、毎日ここに来なくてもいいんだよな?」


「はい。言いにくいことですが、名誉学園長はあくまでも『名誉』学園長ですので。」


「それでいい。俺は冒険者だからな。」


 話しているうちに、門まで着いた。


「最後に一つ聞いてもいいか?」


「はい。何でしょうか?」


「魔法にはどんな属性があるんだ?」


 彼は驚いた様子で、


「知っておられなかったのですか?…………ゴホン、失礼しました。魔法の属性は、基礎属性の火、水、風、土、光、闇の六つ、特殊属性の雷、氷、無の三つと、神話に登場する聖光、常闇、時の三つの計十二に分けられます。」


 一呼吸置いて、


「最後の三つは、あくまでも神話上の属性で、存在自体が怪しいとされていましたが、およそ半年前に全ての属性においての使用者が確認され、存在が証明されました。」


 ん?まさかそれって……


「その使用者って、もしかして俺と同じように、黒髪黒目なのか?」


「そうです。クラギス帝国の皇都クラギスが拠点の、全員が黒髪黒目の冒険者パーティーに所属している中の三人が、使用者として確認されています。」


 またあいつらか……って、テツヤは!?

『全属性魔法』持っているのを俺は知ってるぞ!?


 まさか、隠しているのか……いずればれるぞ……


────

──翌日、ギルドに行くと、何やら騒がしい。受付嬢さんに聞いてみた。


「何で今日はこんなに騒がしいんだ?」


「それが……ドバンの町が、スタンピードに襲われたそうです!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る