同郷との戦い

 広い演習場に、俺とテツヤは距離を離して向かい合っていた。『ジグラの鎧』は既に装備している。


「怪我をしても、死なない限りすぐに治せるので、安心して戦ってください!」


 ガゼンさんは一呼吸挟んで、


「勝利条件は、相手の戦闘不能、または相手の降参!両者、準備はいいですか!」


「ああ、いいぞ。」


「はい、大丈夫です!」


「では、……開始!」


 俺は、すぐにテツヤの喉に水を生成した。しかし、彼は倒れない。……何だと?


 倒れるどころか、聞こえないものの、口を動かしている。まさか、詠唱を紡いでいるのか!?……何故できる?喉には水が詰まっているはずなのに。


 その心の隙を突くためか、彼の周りから幾つもの五芒星の紋様が現れ、そこから魔法の槍を放ってきた。数は十や二十を軽く越えていて、風を切る音が伝わってくる。そして、速い!


 咄嗟に水の壁を生成して防御したため、被害は受けなかった。やがて槍は来なくなった。この間に考えよう。


 どう攻めよう?肉弾戦なら殺してしまうかもしれない。かといって喉に水を生成しても平気そうだ。


 彼は全属性魔法が使えるから、俺が生成した水すら、操作してしまうのかも知れない。


 水で時間を掛けて拘束しようとするのは、むしろ悪手になるかもしれない。


 俺が考えていると、テツヤが杖を捨てて走って来た。杖を捨てたことで、『格闘術』を発動させたようだ。今の彼は、全ステータスが1.6倍に跳ね上がっている。


 しかし、こちらへ真っ直ぐ向かってくるのは悪手だろう。なるべく殺さずに、攻撃させてもらう。


 俺は、テツヤの両肩と両足があるところに、酸の槍を生成した。


 テツヤが倒れる。


「あぁァァア!あァ!いだァあァ!」


 もうこれで良いだろう。校長の方を見た。


 すると、さっきも聞いた音が聞こえた。


「何っ!?」


 テツヤの方を向くと、俺の眼前に、色々な属性の魔法達が迫っていた。


 咄嗟に横に避けると、それらはほんの少し前まで俺がいた空間を通り過ぎた。


「おいおい、マジかよ……」


 酸で溶かされたはずの彼の体は、何事も無かったかのように元に戻っていた。まさか、治癒魔法を使ったのか?


 ただ、それも魔力が尽きれば終わりだ。

(鑑定)


魔力 3134/6753


 あと一、二回位が彼の限界だろうか。


 そのとき、彼の口が動いているのが見えた。今度は何が来る?俺は身構えた。


 幾つもの五芒星の紋様から、ゆっくりと槍達が出てきて、消えた。


─ピシュン─ボワッ─パアァァン!─

────

──


 その瞬間、俺の体に何かがぶつかった。吹っ飛ばされもせず、痛くもない。しかし何発も受けた感覚は伝わってきた。


 彼の表情は驚きに染まっていた。信じられないものを見るような目をしている。

(鑑定)


魔力 245/6753


 彼の魔力はあと少ししかない。今ならっ!

俺は彼の両肩両足に、再度酸の槍を生成した。


「───────!」


 魔力が足りなくて治癒できずに溶かされていくテツヤ。今度こそ演技ではない、声にならない叫び。


「テツヤ、戦闘不能!よってソウタの勝利!」


 模擬戦が終わった。俺はすぐに酸を消して、『水魔法』で生成した回服薬を彼に飲ませた。彼の体はみるみるうちにもとに戻っていく。


 そして、おそらく完治した時、彼が俺に向けた目は、まるで化け物を見るそれだった。


 俺の今の表情も、全く同じであろう。


 テツヤ、君は一体、何をした?


 何をすれば、敏捷が六桁を越えている俺に、こんなにも多くの魔法を当てられるんだ?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る