黒髪黒目
彼の口からその事が出てきた時、俺は驚くと同時に、納得もした。
考えてみれば、俺以外の転移者達も沢山いるわけだし、「俺は違う世界から来たんだ。」みたいなことを言ってしまう奴や、自重の欠片もないやつがいたっておかしくはない。
「…………何故、それを俺に聞く?」
「知るべき事だからだ。いいから質問に答えてくれ。」
「……その通りだ。俺はこことは違う世界から来た。」
「解答に感謝する。まあ、何となくわかっていたが、念のため答えてもらった。」
「……やっぱり、他の奴等がしゃべったのか?」
「その通りだ。半年ぐらい前から、黒髪黒目という珍しい容姿の人々が、熟練の冒険者パーティーでも苦戦するような魔物を軽々と倒してくるという事例が数多く報告されていてな……」
そんなことだと思った。まあ、お金がなくてチートがあるのだろうから、そうなるか。
「だろうな。それで?」
「そいつらの中でも、特に戦闘能力が高い奴等が組んでいるパーティーが、『自分達は異世界から来た者で、邪神を倒すことを目的としている。』と、公言しているんだ。」
……やってるな、奴等。
「そのパーティーは、クラギス帝国の皇都、クラギスを拠点にしている。そして、そのパーティーのリーダーは、何と絶世の美女と呼ばれている、第三皇女リーシャ様と婚約しているそうだ。」
「マジか。……帝国に留めておきたいという魂胆が丸見えだ。」
「まあそういう事だろうな……次の話に移るぞ、バラン伯爵殿が、お前宛に報酬を出している。金額は……黒曜貨100枚だな。」
マジか……日本円に換算したら約1億円だぞ。
「ありがたく頂戴する。冒険者証に入れておいてくれ。」
「わかった。これで終わりだ。帰っていいぞ…………ああ、三日後に来るのを忘れるなよ。」
「了解。ところで、おすすめの宿ってある?」
「そうだな……冒険者ギルドの向かいにある、『元祖寝床』なんかが良いんじゃないか?」
「では、今夜はそこに泊まるとしよう。」
────
──「お前の謁見の手続きは終わった。謁見は五日後に行われる。当日の朝八時に、ここに来い。遅れるなよ。」
「わかった。それまで俺は、何をしてれば良いんだ?」
「そうだな……冒険者ギルドの依頼をこなすも良し、観光するも良し、武器や防具を買うも良し、まあ犯罪でないなら何でもやって良し。」
「わかった。じゃあ俺は観光してくる。」
────
──ぶらぶら歩くこと体感で数十分、看板に『魔道具専門店』と書かれた小さな店を見つけた。
「魔道具……か。ライターみたいなのはあるかな?流石に可燃性の水とか危険度高すぎるしな。」
ドアを開けて内に入ると、一人の老婆がいた。落ち着きのある笑みを浮かべて、
「いらっしゃい。何が入り用かね?」
「小さな火を起こせるものが欲しい。」
「そうだねぇ……これなんかどうだい?」
そう言って渡されたのは、縦長の直方体。よく見ると、小さな赤い五芒星が掘られている。
「この出っ張りを押している間、先から親指くらいの火が出てくる。中の魔石の魔力が尽きれば使えなくなるがの。でも魔石を取り替えれば、また出てくる。」
「魔石って、魔物の中にある小さな石のことか?」
「そうさ。ゴブリン程度なら一個で十秒、ホブゴブリン程度なら一個で百秒といったところかねぇ。」
コスパ良いな。
「買おう。いくらだ?」
「銀貨三枚。」
安いな。ポケットから銀貨を三枚出して、老婆に渡した。老婆は白い歯を見せて、
「毎度あり。」
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