盗賊

 暇だ。暇でしかない。街道を行く馬車から見る景色。木の葉の擦れる音、時々見かける村や町。


 一週間前までは良かった。しかし、もう飽きてしまった。たまに現れる魔物達は、皆揃って息の根を止められた。


 布袋から携帯食料を取り出して齧る。味は決して美味しいとは言えないし、どちらかというと不味い。


 しかし、枯れ木も山の賑わい。こんなに退屈してるときには、そんな不味さも無いよりはましに思える。


 一時は御者さんと会話もしていたのだが、双方話すネタが尽きてしまった。


「あとどれくらいで王都に着くんだ?」


「それさっきも言いましたよ。あと三日くらいですかね。」


「あと三日か……三日かぁぁーッ。」


 体を伸ばすと、身体中の空気が搾り取られていくような、そんな感覚がする。

 

 伸ばしきった体は、ドサッと音をたてて、背もたれに軽くぶつかった。若干ホコリが舞って、軽くむせる。


シャリッ ガキィィン!


 そのとき、遠方から金属同士がぶつかり合う音がした。どうも戦っているようだ。盗賊か?


「なあ、遠くで戦いが起こっているようだが、盗賊か?」


「私は聞こえませんが、おそらくその通りです。」


 やはりか。なら、襲われている人達もいるってことだよな。


「御者さんはここで待っててくれ。俺は行ってくる。」


「え?本気ですか!?」


 俺はすぐさま『ジグラの鎧』を装備して、馬車を出て駆け出した。その途端、音が遠くなった。


 そして、敏捷が六桁を越えている俺が走っているにも関わらず、視界は前の世界で走った時と同じように動いている。


 これが敏捷のステータスが伸びたことの影響だろうか。そんなことを考えながら、俺は走り続ける。


 やたら豪華な装飾が施された馬車と、護衛らしき人達と、襲っている側と思われる盗賊らしき集団が見えてきた。


(この距離なら、いける!)


 盗賊達の喉に酸をお見舞いした。彼らは、一人、また一人と、その場に崩れ落ちていく。


「大丈夫ですか!?」


 着いたときには、そこにいた盗賊達全員が倒れ伏していた。


「仲間が重症を負った!回復薬を持っていないか!?」


 鎧を着た護衛らしき人が叫んだ。視線を向けた先には、胴体が赤黒く染まっている、地面に寝かされている人がいた。鑑定をかけるている程の余裕は無いな。


 すぐさま駆け寄り、瞬時に『水魔法』で治癒をイメージして生成した小さな水の球を、その人の口の中に入れた。


「あれ?痛くないぞ?俺、生きてる?」


「おい、大丈夫か!?」


 すると、彼はすぐに目を覚ました。


「大丈夫だ。さっきまであった痛みも消えている。お前等、何をしたんだ?」


「俺がやった。元気そうで何よりだよ。」


「……君が治してくれたのか。助かったよ。君がいなかったら、俺達はここで全員死んでいた。礼を言う。本当にありがとう。」


「どういたしまして。でも、出ていった血は元に戻ってないから無理はせず、安静にしておいた方がいい。」


「そうさせてもらうよ。」


 彼は仲間達に木陰に運ばれていった。


「他に治療が必要なのは居るか?」


「いいえ、居ません。本当に、ありがとうございます。料金は後で私達が払います。」


「お前達が払う必要はない。雇い主の私が払うに決まっている。」


 そのとき、馬車から一人の男が降りてきた。

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