第14話 新しい任務
「ここ、どこだろ……」
目が覚めると、そこかに寝かされていた。確認すると薄汚い毛布がかけられている。寒い。
身体を起こすと殴られたであろう場所が痛んだ。そうだ、私はルドラ王に謁見して、その場で襲われたんだ。
理由は分からない。
「目が覚めたか」
声がした方を見ると、鉄格子の向こうにレンがいた。私と目が合いそうになると目を逸らす。
「魔法使いだったんだな、お前」
「……隠していてすみません。ここは牢屋ですか」
「そうだ」
コンクリートで囲まれた部屋に鉄格子。持ち物を確認したが、カバンも短剣も何もなかった。身体検査もおそらくされたのであろう、衣服はそのまま着ているがポケットの中にも何もなさそうだ。
「お前の指輪は回収させてもらった。諦めろ」
「そうですか。私はどうなるんですか?殺されるんですか?」
「……」
レンは答えなかった。それが何を意味するのか私には分からない。起き上がって鉄格子の近くまで行くと、レンがその場から立ち去った。
「見張りしなくてもいいんですか」
「魔法を使えないお前は脱走できない。必要ない」
そう言って奥の階段を登って行った。どうやらここは地下らしい。
「困ったな……」
本当に困った。まさか捕まるなんて思ってもみなかった。牢屋の中を見渡すと、隅の方にトイレがある。そしてその上には鏡があった。
なんとなく鏡の前まで行く。
ここで殺されるのだとしたら、リンやテレサニアと、もう話もできないんだ。昨日マリアに馬鹿にされてでも話しておけばよかったなあ。
「心残りができちゃった……」
鏡を叩く。八つ当たりなんかしても意味がないのに。
『ユーイ、いるのですか』
幻聴かと思った。だってテレサニアの声がこんなところでするはずがない。
「まいったなぁ……。耳がおかしくなっちゃった」
『ユーイ、聞こえているのなら返事をしなさい』
違う。幻聴じゃない。
ハッとして鏡を見ると、そこに映っているのは自分ではなくテレサニアだった。涙が出そうになった。そこにいた。
「テレサニア!」
『……静かにしなさい』
自分の口を塞ぐ。そうだ、ここは地下だから声が響いてしまう。さっきレンが出ていった方の気配を探ったが、どうやら気が付いた様子はない。いや、もしかしたら気が付いているが私の頭がおかしくなったと思われている可能性もある。
とにかく小声で話をしないといけない。
『ユーイ、まずは謝罪ですね』
「え」
『毎日連絡するよう、あれだけ言っていたにも関わらず、連絡回数は0です。おまけにあなたは今、捕まっていますね』
「な、なんで分かるんですか……」
『こちらから鉄格子が見えています』
「あはは……、ごめんなさい」
テレサニアが眉間を押さえて深くため息をついた。
『いいでしょう。無事なのだから今回だけは不問にします』
「ありがとうございます……」
『状況を簡潔に伝えてください』
私は現在の状況をできるだけ簡単に伝えた。
『成程、分かりました。ユーイ、そこにオドがいますね』
「そう言えば……」
「ユーイ、ここにいるよ」
服の中からオドが出てきて私の肩に乗った。良かった、オドも無事だった。
「よかったぁ、オド……」
『当然です。いなければ私と会話ができていません』
「それもそうですね……」
私はオドを撫でた。大丈夫、一人じゃない。
『オド、脱走は可能ですか』
「うん、可能だよ。いつでもいけるよ」
「え、そうなの?」
「ユーイ、いけるよ」
そう言ってオドが口から指輪を出した。そうだ、忘れていた。ソロモンの指輪はオドに預けていたんだった。つまり、彼らが奪っていった指輪は偽物だったのだ。一般人に、指輪の真偽はわかるはずがない。
『分かりました。では、ユーイ。あなたに新たな任務を与えます』
新たな任務。最初の任務もこなしていないのに何故と思ったが、それも承知の上での任務なのだから、サラサに関係があることに違いない。テレサニアの次の言葉を待つ。
少しの間があってからテレサニアが告げた。
『その城のどこかに存在するであろう、魔法兵器を破壊してください』
魔法、兵器……?
聞き慣れない言葉だった。
『時間がありません。オドのサポートを受け、目標を確認してください。そして破壊を最優先。障害があれば排除してかまいません。サラサ卿が敵に回っていた場合でも、魔法兵器の破壊を優先してください。マリア卿には連絡がつき次第、同じ任務を与えます』
「待ってください」
『何か質問がありますか』
「魔法兵器って何ですか」
『……東の国であった大量殺戮兵器の実験のことは覚えていますね』
「……はい」
忘れたくても覚えている。その科学兵器のせいで、村人たちは犠牲になったのだ。
『それと同じ、魔法を使った大量殺戮兵器だと思ってください』
そんなものが存在するのか。私は言葉が出なかった。
「そんな、私が、それを破壊する……」
『難しいことはわかっています。しかしやってもらうしかありません。使われれば多くのものが失われます。そして、私はその場に行けません……』
私が破壊できなければ、東の国でのように、多くの人々が死ぬということだ。
「そ、そんな……。そうだ、テレサニアなら、遠くからでも魔法で消せないんですか?」
『不可能です』
即答した。テレサニアは肩を震わせていた。
『私が消せるものは、私がこの目で見えているものだけです。例えば薄い壁が一つあれば、壁を隔てた対象は消すことができません』
テレサニアは、自分の魔法の秘密を明かした。そんなこと、絶対自分以外の魔法使いに教えるべきではないのに。
『私もできることなら今すぐそちらに行きたい。そしてあなたを連れ戻したい。しかし、それができないのです。今私にできることは、あなたが無事に帰ってくることを願うことだけです』
俯いて言った。
無事に帰ってきてほしいと、彼女は言った。できることならここに来て連れ戻したいと、握りしめた拳から血を流しながら彼女は言った。なら私の選択肢は一つしかない。
「……分かりました」
任務を成功させて、必ずテレサニアの元へ帰るんだ。
「私がやります」
『ユーイ……』
顔を上げたテレサニアの唇からも血が垂れていた。
心配性だなテレサニアは。ちょっと笑っちゃう。
「大丈夫だよ、テレサニア。私にはオドもいるから」
「そうだよ、テレサニア」
『……オド、お願いします』
「私は!」
『ユーイ、必ず帰ってきてください。リンと待っています』
「はい!」
私が返事すると、鏡は元の鏡へ戻った。
見栄を張ったが足は震えている。私の行動にたくさんの命がかかっているかもしれないのだ。両手で頬を叩いて気合を入れた。
「オド、やろう」
「うん」
鉄格子越しに辺りを確認するが気づかれた様子はない。魔法を使えない魔法使いなど、取るに足らない存在らしい。
後はどうやって脱走するか。
「ユーイ、僕が鉄格子の外に行って魔法を使うよ」
「そっか、牢屋の外なら魔法を使えるから……」
私はただ魔力を介するだけ。オドが牢屋の外で魔法を使ってこの牢屋を開ける。
「オド、お願い」
「ユーイ、任せて」
オドが私の肩から飛び降りて外に出た。目を閉じて集中する。
―――有限創生。
鍵が出現して床に落ちた。それを拾い上げ、牢屋の鍵を開ける。難なく鉄格子は開いた。
「魔法使いを舐めたこと、後悔させてあげなくちゃね」
任務を成し遂げて必ず帰ると心に誓った。
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