第13話 入城
「ユーイ、起きなよ。もうお昼だよ」
「え」
オドの声で目が覚めた。起き上がろうとすると頭痛がした。
何か酷い夢を見ていた気がした。頭痛が少し治まるのを待って身体を起こす。
「私、ずっと寝てたの?」
肩に乗った相棒に尋ねると、呆れたように答えた。
「うん、部屋に来てすぐに眠ってそのまま今まで」
「嘘だ……。テレサニアの教育で眠れなかったからかな……」
「テレサに言っておくね」
「ごめん、冗談だから言わないで」
ベッドから立ち上がって伸びをする。本当に昨日ここに到着した後すぐに眠ってしまったようだ。北の国に来てから眠りすぎな気もする。とにかく急いで行動を始めないとまた日が暮れてしまう。慌てて靴を履いてコートを羽織ってマフラーをする。
「ユーイ、お願いがあるんだ」
「うん?どうしたの、オド」
「指輪を僕に預けてほしい。必要になったら渡すから」
「え、指輪を?」
両手につけた指輪を見た。銀色に鈍く輝いている指輪は合計7個。これを外している間は魔法を使うことはできない。とは言え魔法を発動させるのはオドなのだが。
「オドが言うならいいよ」
「ユーイ、ありがとう」
オドに言われたとおりに指輪をすべてはずした。
「これどうしたらいい?」
「僕に貸して」
オドに指輪を差し出すと、オドが自分の身体の大きさと同じくらいに口を開けて指輪をすべて飲み込んだ。
「え」
「ごっくん」
「そんなことできたの?」
「空き容量がある時しかできないよ」
「容量?」
「うん、容量」
容量とは。
「そうなんだ」
「ユーイ、代わりにこれをつけといて」
オドが口からさっき預けたのと同じ銀色とデザインの指輪を吐き出した。
「これをつけるのやだな……」
「ユーイ、汚くないよ」
「分かってるんだけどさ……。気分的な問題かなー……」
「ちなみにそれはただの指輪だよ」
「流石にそれはわかるよ」
指輪からは何の魔力も感じない。とりあえず7個の指輪を両手にはめた。一般人には分からないだろうが、魔法使いから見れば一目で偽物とわかる。しかも、偽物なので魔法の使用も制限されてしまう。
「よく分からないけど、これって意味あるの?」
「用心だよ」
「まぁ、オドが言うならいっか」
扉がノックされた。マリアかもしれない。寝坊したことを怒っている可能性もある。
「はい、起きてます」
私が返事すると扉が開けられた。そこには昨日私を送ってくれた兵士が立っていた。
「君は一日の大半を寝て過ごしているのか……」
呆れたように言った。事実ゆえに反論する言葉が出てこない。それでも毎日こんなに眠って過ごしているわけではないのだけれど。
「とにかく、城に来てくれ。王様がお待ちだ」
「え。王様に会えるんですか?」
「ああ、君に興味がおありのようでな。連れてこいとの命令だ」
「すぐに行きます!」
願ってもない展開だった。やったねオドと小さな声で言ったがオドは何も反応してくれなかった。外で待つ兵士のところに行く前に宿代を支払う。ふと、気になったので宿の主人に聞いてみた。
「あの、私と一緒に泊ってたマリアっていう人はもう出ましたか?」
「ええ。お連れ様なら、今朝早くに発たれましたよ」
「……そうですか」
また置いて行かれた。部屋には書置きも何も残されていなかったし、別に一緒に行動したいという訳でもないが、何だかちょっと腹が立った。
しかしマリアのことだ。どこかで私を監視している可能性もある。
とりあえず私がいくら気を張ってもマリアのことは見つけられそうもないので、主人に挨拶をして宿を出た。そのまま自動車に乗せられ城へと向かう。
ノースブリッジ城はとにかく大きかった。城門の前で自動車を下りて兵士の後に続く。
まだこの兵士の名前を聞いていなかった。
「そう言えばあなたの名前は何ていうんですか?」
歩きながら尋ねた。兵士は振り返ることもなく歩き続ける。
「何故そんなことが気になる?」
「私しか自己紹介をしてないなと思いまして。えっと、無理に答えていただかなくても結構です」
私は名前を聞かれたのに聞き返さなかったのは失礼かなと思って聞いたのだが、余計なお世話だったのだろうか。
「……レンだ」
「レンさんかぁ」
「何だ」
「いいえ、私の友達と一文字違いだったので、ちょっと友達のことを思い出してしまいました」
西の国、協会で今もリンは元気にしているだろうか。リンの笑顔が浮かぶ。東の国でリンは記憶を失った。けれど、それで良かったのかもしれない。大切な家族や村の人たちを一気に失ってしまったのだから。
「大切な友達なのか」
一瞬思考が飛んでしまっていて、気が付くと、兵士が私の顔を見て苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
「はい、私の生まれて初めての友達なんです」
「そうか」
レンはそこで立ち止まったが、すぐに歩き始めた。
「行くぞ」
「はい」
そのまま謁見の間に通される。兵士であるレンは、謁見の間の手前までしか来なかった。結局最後まで苦い顔をしていた。
通されたそこには赤い絨毯が敷き詰められていて、その奥にある豪華な椅子に誰かが座っていた。
「よく来たな。私がこのノースブリッジを統治するルドラだ」
この人がルドラ王。外見だけを見ると20代半ばほどであろうか。黄金を至る所に装飾品として身に着け、蓄えた髭からは威厳を感じた。王の側には屈強な兵士が二名控えている。
「兵に聞いたのだが、探し人がいるそうだな」
「はい」
どうやら昨日の私の発言をレンが伝えてくれていたらしかった。
「それは誰か」
「サラサという人です。二年前にここを訪れたと聞いています」
「ほう、サラサ」
一瞬空気が変わった気がした。やはりここにサラサがいるということだろうか。
「はい、このお城にいらっしゃいますか?」
「いる」
王が玉座から立ち上がった。
「本当ですか!会わせてくださ」
ガンと頭に衝撃が走った。何だろうと振り向こうとしたが、次の瞬間には身体が床に倒れている。背後から頭部を殴打されたと気が付いた時には、身体がうまく動かない。目も霞んできた。
誰かが目の前に立っている。この豪華な靴はルドラ王のものだろうか。
「やはり魔法使いか」
声が聞こえた。床についた私の手から誰かが指輪を外したのが見えた。万に一つも動けないよう、身体を上から押さえ付けられている。
「どう、して……」
やっと声が出たが、誰も私の問いに答えてくれる人はいなかった。
「殺すでない。魔法使いには利用価値がある」
「は!」
私の問いに答える者は誰もいなかった。持っていたカバンを取られるのが見えた。
「ソロモンの指輪さえ奪ってしまえば魔法使いなど脅威になりえぬ」
「しかし、こんな子どもが……」
「子どもではない。魔法使いは不老である。中身の年齢などはかり知れん。現に協会の長であるクロックエンドなど、1200歳を超えているという」
「ではこの者も……」
「魔法使いの年齢などどうでも良い。とにかく拘束し隔離するのだ。予備として置いておけ」
「承知しました」
何の話をしているのかよく分からなかった。何故昏倒させられたのかもまったく分からないまま、私の意識はそこで途絶えた。
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