第17話:エルフ、魂の座
タイカ王国・ダイエンジョー森林。
王都にほど近いこの森にある我らエルフの隠れ里に先日、新村役場がクソ皇子からプレゼントされた。
木の香り漂う新しい職場に、それまで仮設テントでの作業を余儀なくされていた職員たちは大喜びだ。
が、俺は皇子の冗談なのか本気なのか分からない爆弾発言に、今にもハゲ散らかしそうな日々を送っていた。
だが、しかーし!
俺もただ指を咥えてハゲになるつもりはない。
実はナナカマー様にはナイショで他のエルフ村の村長へ相談を持ち掛け、本日、皇子撃退を目的としたネット会議を開催するに至ったのだ。
くっくっく。クソ皇子め、まさか自分が贈った役所の一部屋で、このような会議が行われようとは夢にも思うまい。
今こそ浅はかな人間に、長命を誇るエルフ族の深い知恵を見せつけてやる!
『エンジョー村が
『なんとしてでも
『その為の特務機関エルフだ、それは理解しているなアスベスト司令』
「はい。でも、あの、どうして皆さん、音声だけなのでしょうか?」
予めの指示に従い、真っ暗闇の部屋に俺をぐるりと囲むようにしてユグドラシルネットに接続した水晶版を配置した。
これで音声だけでなく映像も送られてくるはず。だが、何故かどの水晶版も『さうんどおんりー』とエルフ語で表示されている。
『そんな些細なことはどうでもよい。それよりも運命を仕組まれた子供たちは見つかったかね?』
「あ、はい、一応」
『よろしい。では後は計画通りに』
「計画って、あの、人類ボカン計画っていうアレですか?」
『左様。期待しているよアスベスト司令』
そう言うやいなや一斉に全ての水晶版が真っ暗になり、ユグドラシルネットが切れた。
……あれ、これで終わり? エルフ族の深い知恵は?
「やぁ、今日は俺の奢りだから何でも腹いっぱい食べてくれ」
後日、俺はエルフ小学生たちをエルフオープンカフェへ誘って、親睦会を装ったクソ皇子対策秘密会議を開催した。
ちなみに会計事務が認めた今回の予算は五千ゴールド。それ以上は俺の自腹となる。
「はい! 私、エルフにんにくラーメンチャーシュー抜き!」
「チャーシューを抜いても値段は変わらないけどいいかな?」
「いいよー」
いや、よくないよ! 二百ゴールドぐらい安くしてくれ。
「ワリィなぁ村長、こんなにご馳走になっちゃって」
「いやいや、日頃から君たちには皇子の良き遊び相手になってもらっているからな。そのお礼なのだが……出来れば君、もう少し加減してくんない?」
さっきからエルフハンバーグだの、エルフ寿司だの、エルフピザだの頼みやがって。エルフイノガシラゴロウか、お前は?
「それにしてもオープンカフェなのにラーメンとか寿司とかおかしくありませんか、ここ?」
「うん、ツッコんだら負けって奴だな」
ごく普通のエルフコーヒーを飲みながら、皇子にインテリショタエルフと呼ばれる少年が鋭い意見を飛ばしてきた。
うん、いいぞ。君にはエルフ小学生とは思えないぐらい理知に富んだ意見が期待できる。出来ることなら君にだけご馳走したかった。
「ウンメー!!」
そんな事を考える俺の傍らでエルフイノガシラゴロウが舌鼓を打つ。
まさに
「なるほど。皇子を撃退する方法ですか……」
懇談会が始まってから約一時間。
ロリエルフ少女はお腹がいっぱいになって眠ってしまい、エルフイノガシラゴロウはもはや言葉も忘れて店のメニュー制覇へ驀進している。もはや自腹は決定的だった。
「そもそもの話なんですけど、どうして皇子はこの村へ入って来れるんです? この村ってタイカ王国の人間たちは侵入はおろか認識も出来ない通称
「そんな通称、初めて聞いたんだけど。まぁ、とにかく色々あって、あいつには効かないんだ」
「色々ですか……何か深い理由がありそうですね」
残念ながら深くはない。ただ子供に聞かせるにはどうかと思うだけだ。
「しかし、あの皇子を退けるのは難しいかと。ああ見えて村人たちのウケもいいし」
「そうなんだよな。役場でもあんな立派な建物を寄付してくれたから、最近はみんな歓迎ムードでさ」
「なので撃退よりも村が燃やされないよう、建物を強化した方がいいかと思います。とにかくエルフ村のはどれも異常に燃えやすい」
「そう言えば風魔法で火を消せるって皇子の侍女に教わったんだ」
「真空のかまいたちで火を覆うんですね。空気がなければ燃えませんから」
「その魔法で村全体を覆うってのはどうだろうか? ナナカマー様を上手く言いくるめれば、面白がってやってくれるかも」
「それだと中に住む僕たちも呼吸できなくて死んじゃいますよ」
「そ、そうか……」
それは考えていなかったな。相談せずナナカマー様に頼まなくてよかった。あの人はなんだかよく考えずノリでやっちゃいそうなところがあるから怖い。
「でも建物の周りにかまいたちを発生させるアイテムを埋めておいて、いざ火を放たれそうになったら発動させるって方法はありかもしれません」
「お、いいなそれ! それなら時間はかかるけどなんとかなりそうだ」
「でも全ての建物にそれをやったらかなりの予算が必要だと思いますけど……」
やめて!
今、お金のことは考えたくないの!!
「あとさっき話を聞いた人類ボカン計画ですけど……人間たちを自滅させ、世界を彼らの手から取り戻すって本気で言ってます?」
「少なくともあの人たちは本気だと思う。なんせエルフ至上主義を唱える人たちだから」
「出来れば僕たちは巻き込まれたくないですね。そんなの一時的に人間をやり込めても、最終的には逆にこっぴどくやり返されると思います」
「俺もそう思う」
俺はただ皇子に好き勝手させず、村が無事ならそれでいい。エルフによる世界支配とかどうでもいいわ。
「それよりも僕、前からずっと気になっていることがあるんです」
「なんだ?」
「どうして人間たちは僕たちエルフの村を燃やそうとするんでしょう?」
「単純にエルフが嫌いなんじゃないか?」
「ですが人間の街では普通にエルフが暮らしているんですよね? エルフ嫌いなら速攻で殺されそうな気がします」
「それもそうか。あ、でも君は知らないと思うが俺たち成人の男エルフが街に行くと、人間の女に襲われるんだぞ。エルフ狩りと言われて恐れられている」
「それでも街に住む男エルフは襲われませんよね。それに女性のエルフも。何かその辺りに村を燃やされる理由が隠されているように思うんですよ」
うーん、街に住むエルフと言えばケツアゴエルフのマスクだが、確かにあいつがエルフ狩りにあったという話は聞かない。
ケツアゴになると襲われなくなるのだろうか。
「実はこれ、皇子にも理由を尋ねたことがありましてね」
「へぇ。で、あいつはなんて?」
「魂に刻みつけられている、と。エルフの村を見かけたら無性に燃やしたくなるのが人間の男の本能だそうです」
「なんだそりゃ。理由になってないじゃないか」
「皇子も不思議がってました。『今まで深く考えてこなかったが、言われてみれば何故であろうな。少し調べてみるか』と言ってたのですが……」
と、不意にインテリショタエルフ君が声を潜めて、テーブル越しに俺へ顔を近づけるようにと手で合図してきた。
「調べていたら脅迫されたそうです」
俺の耳へインテリショタエルフ君が小声で話しかける。
「馬鹿な。あいつはああ見えて王族だぞ。それを一体誰が?」
「皇子の話だとどうやら長兄の手のものだそうです」
なんだそれ? エルフの森を人間が燃やそうとすることに、王族でも一部にしか知らされていない隠された秘密があるのだろうか?
なんだかきな臭い話になってきたな。
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