第5話:ゴブリン来襲!(とばっちり)
タイカ王国・ダイエンジョー森林。
王都にほど近いこの森にあるエルフの隠れ里で村長を務める俺は今、とても苦しい状況にある。
立場的にも、そしてお財布的にも。
全てはあのクソ皇子のせいだ。今度会ったら立て替えた10万ゴールドを返してもらって、その後にぶっ殺してやる!
「アスベスト、あの人間たちが来たぞ!」
「やっと来やがったか! 待っていたぞ!!」
具体的に言えば二週間待った。その間、皇子が村に姿を現せなかったことによって10万ゴールドを回収できず、俺は仕事帰りのちょっと一杯も楽しめずに直帰するしかなかった。
辛かった。とても辛かったぞ、こんちくしょう!
今日こそ皇子から金を取り返し、さらには首を刎ねて、祝杯をあげてやる!!
「なんだこれは……」
現場へ駆けつけてみると、そこは戦場と化していた。
「アスベストさん! やばいですよ、これは!」
「マジで洒落になってないッス!」
「どうしたらいいッスか!?」
村の自警団たちが各々に応戦しながら、俺に指示を仰いでくる。
戦場とは冗談でも誇張でもなんでもない。
何があったのか知らないが、我がエンジョー村に興奮したゴブリンたちが大挙して押し寄せてきていたのだ!
「一体なにがあったんだ?」
「うむ、説明すると長くなる」
「うおっ、貴様いつの間に! って、なんだその恰好は!?」
思いもよらず近くからクソ皇子の声がしたのであやうく飛び上がりそうになったが、それ以上にそのトンデモナイ格好に思わず目を見開いた。
「うむ、これか。これは我が王家に伝わる伝説の装備『馬鹿にはうっすらと中が透けて見える最強の羽衣』である」
「なんだそのふざけた名前は!」
確かにぼんやりと透けてて、クソ皇子のちいさなポコチンがぼんやりと見える。
でも俺は馬鹿じゃない! むしろこんなものを堂々と着ている皇子の方こそ馬鹿そのものだろ!
「ふっ、吾輩のネーミングセンスを理解出来ぬとは、これだから愚民は困る」
「誰が愚民だ!? てか、お前が名付けたのかよ!」
「ああ。ちなみに一般的には『えっちな羽衣』と呼ばれておる」
「それでいいじゃねぇか! まさに『えっちな羽衣』そのものだよ!」
そんな俺のツッコミに身体をびくんと震わせて反応する者がいた。
今の今まで気づかなったが、皇子の侍女のアヅチ嬢だ……ってオイオイ、どうして君まで皇子と同じエロ衣装を着ているんだ!?
「あうう、見ないでくださいぃぃ」
「あ、ご、ごごごめん!」
胸と股間は必死に両腕で隠しているけれど、半透明の羽衣から身体のラインがうっすらと透けて見えてしまって……ああっ、こういうのはエルフ倫理的によろしくない!
「なるほど、その反応からして君にはうっすら見えているのだな、アスベスト君。残念だよ、まさか君が馬鹿だったなんて。アヅチよ、吾輩の背に隠れるのだ」
ささっと皇子の背後に隠れるアヅチ嬢。馬鹿に馬鹿呼ばわりされるのは癪に障るが、これはこれで助かった。
「まったく馬鹿なのをいいことにアヅチの裸を見ようとはアスベスト君、見損なったぞ」
「アホか! そんな事これっぽっちも考えてないわ! それよりも貴様、この前のカフェでの代金を――」
「よいかアヅチよ、世の中には善良そうに見えて腹の中では何を考えているのか分からない人間が多いのだ」
おい、俺の話を聞け! それに俺を指差すのはやめろ! 俺は善良だし、そもそも人間じゃなくてエルフだ!!
「ううっ。はいぃ、ホンノー様」
「うむ、良い返事だ。吾輩だけを信じるがよい」
そう言って背後のアヅチ嬢をチラっと振り返る皇子。
その顔がなんともエロそうな表情に変わったのを俺は見逃さなかった。羽衣の中が透けて見えていないと説明が出来ない、実に子供らしからぬスケベオヤジみたいな表情だ。
ふざけんなっ! てめぇこそやっぱり馬鹿なんじゃねぇか!
そもそもその羽衣、アヅチ嬢の裸を見る為に持ち出したんじゃねぇのか、貴様ッ!!
「アスベストさん、一体何をしているんですか! 早くこちらを手伝ってください!」
仲間から声をかけられてハッと我に返った。
そうだ、今はクソ皇子の変態趣味を糾弾してる場合じゃない。なんとかしてゴブリンを撃退しないと、このままでは村が大変なことになる。
しかしどうしてゴブリンが村を襲ってきたんだ?
結界は人間にしか効かないので、ゴブリンたちが村へ迷い込むことはたまにある。
が、それでも刺激しなければゴブリンたちが襲い掛かってくることはない。
それなのに一体どうして? しかも一匹や二匹ならばともかく何十匹も大挙して襲い掛かってくるなんて、よっぽどのことがあったとしか……。
「……なぁ、クソ皇子。お前、何かした?」
「吾輩の名はクソではない。ホンノーだ」
「……ホンノー皇子、お前、ゴブリンに何かしたよな?」
「うむ。父上から吾輩もそろそろゴブリンの一匹や二匹を倒せるようにならねばと言われてな。それでアヅチと共にゴブリン退治へとこの森へやってきたところ、いい具合に奴らの群れを見つけたのだ」
「まさか群れに攻撃を仕掛けたのか?」
「うむ。一番弱っちそうな子供のゴブリンにな」
「アホか! そりゃあ奴らが激怒するのも当たり前だろうがッ!」
「しかも奴ら、アヅチの姿を見て興奮しよって『メチャエロイ!』『オレノコヲウメ!』とか叫びながら襲い掛かってきよった。まったく、ゴブリンってロリコンなのか?」
「違う! ゴブリンにとってそこのお嬢ちゃんみたいなのが奴らの成人体型なんだよ!」
「ほう。そうなのか。でな、さすがにこれは多勢に無勢、どうしたものかと考えた結果、援軍を求めてこの村へと逃げ込んだわけだ」
「援軍? おい、ちょっと待てまさか……」
「うむ。我が朋、アスベスト。ここは人間とエルフの共同戦線と行こうじゃないか」
「ふざけるな! 俺たちを巻き込むんじゃねぇ!」
ああ、ちくしょう。やっぱりこんな奴はやく殺しておけばよかった。なんだかんだで見逃し続けた結果、まさかこんなことになるなんて……。
くそっ、とりあえずこいつは殺そう。今すぐ殺そう。
「危ない! ゴブリンの矢が!」
と、誰かの声でふと目線をあげると、まさにゴブリンの放った矢がクソ皇子を射抜くところだった。が。
カンッ!
当たる直前、不思議なことに矢が何かに弾かれてしまった。
「ふっふっふ。この『馬鹿にはうっすらと中が透けて見える最強の羽衣』を甘く見てもらっては困る。誰もが身に纏うのを嫌がって王宮の宝物庫で埃をかぶっていたが、実のところその防御力はずば抜けて最強! ゴブリン如きが何をやってきても傷ひとつ受けぬわ!」
「だったらあのゴブリンの群れに突っ込んで行ってなんとかして来い!」
「愚か者! いくら最強であっても捕まって脱がされたら万事休すではないか!」
ああ、そりゃそうだ。
「アスベスト大変だ! ゴブリンの奴らが火矢を放ってきた!」
「何!? ただでさえ燃えやすいエルフの村にそんなのを放たれたらひとたまりもないぞ!」
「うむ。エルフの村と言えば焚き火の着火剤に最適とまで言われるぐらいだしな」
うるせぇ、黙れこの野郎!
「あちらこちらで火の手が上がっている。早くなんとかしないと」
「分かった。村の者総動員で火を消せ。俺と自警団でゴブリンを追い払う!」
クソっ、皇子の相手なんてしてる場合じゃなかった! 早くゴブリンを追い払わないと本当に村が焼け落ちてしまう。
俺は皇子に背を向けると、自警団たちと切り結ぶゴブリンの群れへと駆け出した。
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