-52- 「大迫商事」

 今は肝試しなんて絶対に行かないけど、少し前までは、時々郷田君に強引に誘われていた。


 ある日、おじいちゃんから何があっても絶対に近付くなと言われていた、大迫商事と言う看板のかかった廃ビルに連れて行かれた。


 夕方で薄暗かったけど、外から覗くと、一階はフロア全体が事務所になっていて、事務机がたくさん並んでいるのが見えた。


 郷田君が破れたガラス扉を躊躇いなく開け、ズカズカと中に入って行くので、僕も続いた。


 薄暗いビルの中に入ると、外から見た時には気付かなかったけど、たくさん並んだ事務机それぞれの上で、何かが、ぶらぶら、揺れていた。


 目を凝らしてよく見ると、それは首を吊った人だった。


 たくさん並んだ事務机一つ一つの上に、それぞれ人が吊って揺れていた。


 事務机がない場所にも、天井からぶら下がって揺れていた。


 広いフロア全体に所狭しと何十人も、天井からぶら下がって、どこを見回してもぶらぶらと揺れていた。


「ちょっと暗いな」


 目の前の有り様が何も見えていないのか、郷田君は暢気に懐中電灯を点けた。


 パッと明るくなり、吊っている人達を明るく照らし出す。


 その瞬間、何十もの首吊り死体が一斉に、ぎょろりと郷田君を睨んだ。


「みんな逃げて」


 僕は大声をあげ、郷田君の腕を掴み、一目散に逃げ出した。


 郷田君をビルの外に引っ張り出すと、一緒にいた他の子達も尾いて来た。


「何だよ水鏡、玄関を潜っただけなのに、もうビビったのか?」


 郷田君が、馬鹿にする様に言った。


「人が首を吊ってたんだよ、多勢。見えなかったの?」


 教えてやると、郷田君は黙り込み、その日はそのまま帰る事になった。


 帰り際、野火君が「僕も見たよ。あれはヤバかったね」と言っていた。


 その日の晩、そのビルは何故か火事になり、焼けてなくなってしまった。

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