ロンリーハート (9)

「あの子は?」無邪気にきょろきょろする雷神だ。

「またですか」うんざりするアントワーヌ。

「なんだよ、減るもんじゃなし。ちょっとだけ拝ませろよ」

「拝ませろって、神のあんたが」

「いいじゃん」

 口をとがらせている。


 悪源太、アリアのファンなのだ。

 インスタはフォローしてるし、YouTubeもチャンネル登録している。

 いったい誰が配信してるんだって話だが、そのツッコミはなしだ。


「何よ、アリアちゃん鎌倉に連れてっちゃうの?」

「うわ、情報はや」

 ぎょっとするアントワーヌだが、しかたない。相手は神だ。しかも兄だ。お見通しなのだ。

 ていうか、アントンが事情をジャンにいに説明するシーンを省略しただけなんだけど、こういうちょっとした節約の心がけがまわりまわって地球規模のエコに貢献するんですよね。(何言ってる)


「じゃおれも行く、鎌倉。いざ鎌倉。イエーイ」

「バカですか」

「ああん? 言ったな」

「やめて、乱暴やめて。ああもう。あのね、神なんだから、神らしくお空にいてくださいよ」

「やだ」

「えー」

 このわがままでめんどくさい長兄が、しかしアントワーヌは嫌いではない。

 源家九兄弟(女子はノーカン)を並べて比較してみると、惣領の義平と末弟の義経がぶっちぎりで自由奔放だ。で、あいだにはさまれた七人が、この二人にふりまわされてる感がある。

 父親はみんな同じ義朝パパなのに不思議だ。じゃママのせいかというと、義平と義経は母親が違うし、むしろ全成と義経が同母兄弟。

 遺伝子の不思議を感じる。

 どうでもいい話だった。失礼。


「だって空、つまんない」とジャン=ポール。

「赤ちゃんかよ」とアントワーヌ。

「そう言うけどな。おまえも死んでみたらわかるって」雷神、ため息をついたりしている。「いろいろあっても、地上は楽しそうでいいよ」

「そう?」思わずほろっとしてしまうアントワーヌだ。

「あたりまえだ」

「そうなの? 神でも?」


「あのね」ジャン=ポールは腕組みをといてあぐらを崩した。「ここだけの話ね。おれこんなしてプチ雷神やらせてもらってるけど、ぶっちゃけ新規参入だから、シェア小っちぇーの」

「なにそれ」

「ビールで言うとキリンさんとアサヒさんみたいな道真公と将門センパイいて、もう一人尊すぎてお名前出せないかたが一人いて、おれなんて地ビールのクラフトビールはじめましたーみたいな? スーパーの棚のすみにちょこんと置いてもらってる的な?」

「その比喩かえってわかりにくい」

「だから使わせてもらえる雨の量のシェアが少ないのよ。あっというまに弾尽きちゃうの」

「あー? それでさっきの局所的ゲリラ豪雨?」

「そ」笑っている。


 ちょこっと解説。

 ニッポンの夏空を支配する雷電つかい、つまり雷神、つまり祟り神ビッグスリーと言えば、

 菅原道真

 平将門

 そして尊すぎる讃岐院こと崇徳すとく上皇だ。まあどなたがアサヒでキリンでサントリーかはてきとうに見つくろってください。

 讃岐院は源平がらみというかぶっちゃけ後白河ゴッシーのお兄さんだから、このおはなしにもぜひ登場してもらいたいと思ってずっとオファーを出してるのだが、ビッグネームすぎてなかなか実現しない。

 まあ悪源太くんだってじゅうぶんすぎるほどビッグなんで、いまは彼にカメラを戻す。


「アリアちゃーん」

「しっ! そっとしといてあげて。いま庭に出てる」

「あそ」

「ちょ待っ! だから何か着て! パンイチやめて」

「大丈夫。どうせ彼女にはおれ見えない」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る