第4話

 「いらしゃいませー。」

笑顔で客を迎えるウェイトレスが一人。

「お客様は2名様ですね。どうぞご案内します。」

その笑顔に吸い込まれるように男性2人は店員の後について行き席に座る。

「ご注文がお決まりましたらお呼びください。」

店員がお辞儀をしたあとに早速返事がきた。

「こちらのおすすめは何ですか?」

「当店ははじめてでございますね。でしたらこちらマンゴーカレーがおすすめです。」

「ピリッとした辛さの中に、ほんのり甘いマンゴーの果実が香りと味わいを引き立ててくれて1番の人気メニューでございます。」

男性は納得した表情で

「へぇー、なんか美味しそうだね。俺それ1つお願いします。」

「あっ、じゃあ俺も1つ。」

「かしこまりました。マンゴーカレーを2つですね。ご一緒に食後のデザートにチーズケーキはいかがですか?チーズの柔らかい甘味とケーキの食感がカレーの刺激を包み込んでくれて最高の余韻を味わえます。」

男性は静かに唾を飲み込んだ。

「じゃあ、それも1つ。」

「あっっあ、俺も1つ下さい。」

一緒にいた男性も焦るようにお願いした。

「ありがとうございます。では、少々お待ちくださいませ。」

ウェイトレスは再びお辞儀をして厨房に向かう。

「マンゴーカレー2つにチーズケーキ2つお願いします。」

「了解!」

厨房内で声が響き渡り早速料理に取り掛かる。

厨房には2人。

一人が肉や野菜などの具材を適当な大きさにカットされると、すぐにもう一人の元に運ばれる。

丁寧にカットされた具材を熱したフライパンで火を通す。その間にじっくりと煮込んだであったルーを大きな鍋からお玉を一杯とりだし先程のフライパンにいれ一緒に加熱する。

ルーに含まれる香辛料の香りが厨房いっぱいに広がった時に、男から一言。

「そういえば、辛さの好みは分かるか?」

ウエイトレスはハッとした表情を浮かべすぐにフロアへと向かった。

「お客様失礼します。先程のご注文で辛さのお好みが選べますが、お好みはございますか。」

「そーだなー、俺は辛口でお願いします。」

「俺は中辛で。」

「はい、かしこまりました。」

私はお辞儀をしたあとすぐに厨房へと向かった。先程とは速度も早く足音も大きい。

「中辛と辛口を1つずつお願いします。」

シェフの2人は頷きすぐに皿に視線を移す。

オーダーミスをした私を責める事もなく黙々と調理に取り掛かる。

1皿目は盛り付けを終えて、2皿目はスパイスの分量を変え少し赤みが強くなっているのが分かる。

アメ色にまで炒めた玉ねぎから出る甘味がルーの辛さを和らげ、その中には更に甘く煮込まれたマンゴーが味をまろやかに仕立て上げられる。

私は出された料理を見ると、口の中から唾液がジュワりと溢れかえる。

何度も食べて味を知っているからこそ、見た瞬間に記憶が甦る。

目をつぶると食べてもいないのにはじめて食べたときの食感と味を思い出すことができる。

数秒間だろうか、思い出の記憶から声が聞こえる。

「...。...。...おい。」

なんだこの声は。

「...。...おい。」

声は次第に大きくなって。

「おい。」

目を開けると髭の生えた男の顔が目の前に。

「おい。お客さんが待っているぞ。」

ハッっと我を取り戻し、すぐに完成された料理をお客様のテーブルへと持って行く。

シェフの1人は頭を悩ませながら彼女を見送ったが、もう一人ははにかんだ笑みを浮かべて静かに堪えていた。

「お待たせしました。こちらマンゴーカレーでございます。」

テーブルで待っていた男性2人はスマホをポケットに仕舞い、運ばれた料理を目の前にすると唾を飲み込んだ。

クミンとターメリックの香りが嗅覚を刺激して脳へとダイレクトに呼び掛ける。

早く食べたい。

脳内から発せられた信号によって手はスプーンをとり、料理を載せそのまま口へと運び込まれる。

口に含まれた食材は舌の上で甘味、辛味、苦味をゆっくりと味わいそして。

「うまい。」

一言出すと2口目3口目へと次々とカレーを食べ進める。

「本当だ美味しい。マンゴーにカレーってどうかと思ったけど食べてみて分かったよ。」

二人「これはうまい」

私は二人のテーブルを離れた距離から眺めて幸せな表情になっているのを見つめながら厨房へと戻る。

笑みを浮かべながら厨房へ戻ると後ろから肩の上に手を乗せ声をかけられる。

「まーた止まっていたなお前。」

微笑みながら話しかけてきたのはさっき静かに笑いを堪えていたシェフの1人が声をかけてきた。

「料理ができるといつも固まるよな。ちなみにさっきは10秒ほど止まっていたぜ。」

「その前は5秒だったかな?記録更新だな。」

「美味選手は次はどこまで伸びるのでしょうか。」

からかうシェフに対して私は笑顔で相づちととるしかなかった。

そんな時にもう一人の髭のシェフがフォローに入る。

「まあ確かにうちの料理が美味しいと感じてくれて思い出に浸ってくれるのは嬉しいんだけど、ほどほどにね。」

私は気恥ずかしさに耐えられずに目線を下に下ろす。

「しかし美味ちゃんが働くようになってからうちのカレーのオーダーが増えて売り上げもアップしているから感謝しないとね。いつもおすすめしてくれてありがとう。」

おおらかな口調で誉められた事によって更に気恥ずかしくなり顔が赤くなる。

「なーに?照れてるの?顔がまるで辛口カレーのように赤くなってるぞ。」

「もー違いますってばー。」

からかうシェフに耐えきれず反抗する私。

このように私のアルバイトは食に囲まれ幸せになっているお客さんの反応を間近に見れて充実している。

ここも私が各レストランを回り実際に好評価を出しそのまま働かせてもらっている。

その他にも中華やイタリアンやカフェなど食にまつわるアルバイトを掛け持ちで働いている。

世の中には評価されているお店もあるが、一方では評判の悪いお店がある訳でそれがきっかけで私の人生に大きな変化を与えることになる。

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