《閑話》 大雨の日の過ごし方(2)

 受付カウンターの裏に場所を変え、時間勤務のお姉様方を交えて談笑していると、背後からげっそりとした表情の岳斗と海斗が姿を現した。大分源太にこってり絞られたらしい。




「ちょっと……なんて顔してるのよ」




 忍が苦笑しながら声を掛けると、力の無く半目に開かれた瞳が動く。紬も疲れ切った表情を浮かべる双子がなんだか気の毒に思え「お疲れ様」と労う。




「ちょっとした冗談だったのに、あそこまで怒る必要あるかぁ?」




 岳斗がブツブツと文句を言うと、海斗も渋い表情で同意した。




「大体何が、神の領域は侵せない! だよ。自分が一番侵してんじゃねぇか?! どう見たって二十五の男に見えねぇだろ。アイツぜってぇ若返りの薬かなんか飲んでるぜ?」




 真剣な顔をして、訳の分からない悪態を吐く海斗の様子に思わず吹き出してしまった。本人は不服そうに顔を顰め「なんだよ」と口を曲げる。




「あ、ごめんごめん。ちょっと納得しちゃって」




 どう見ても十五、六歳の少年にしか見えない天才発明家の姿を思い出し、また顔がニヤけてくる。


 確かに若返りの薬を服用していると言われた方がしっくりくる程の詐欺具合だ。本人が若く見える見た目を隙あらば自慢してくるのも怪しい。




「紬……面白がってんな? 源太に言いつけてやろ。」


「わぁ〜! 違うから! 面白がってないって!」




 どう見ても年下にしか見えないからと、双子は四つ上の源太を呼び捨てにしている。源太も最初はいちいち咎めていたが、流石にもう諦めたらしい。


 そういう微笑ましい光景を思い出して微笑んでいたのだ。断じて面白がったり、馬鹿にしてたりしている訳ではない。





「ちょっと、紬で遊ばないでよ!」




 双子に押され気味の紬を庇うように、忍が割り込んでくれた。すると岳斗は悪びれる様子も無く「だって暇じゃん」と言い放つ。




「あんたねぇ……。もっと有意義なことに時間を使いなさいよ」




 忍が溜め息を吐き、呆れたように告げると、海斗がムッ唇を尖らせる。




「いや、お前らだってここで駄弁ってただけだろ。おばちゃん達の仕事の邪魔してさ」




 そう言われてしまうと耳が痛い……。「おばちゃん」呼ばわりされたパートのお姉様方がキッと目尻を吊り上げたが、双子は気付いていないようだ。




「有意義な過ごし方ねぇ……」




 岳斗の呟きに、紬もう〜んと頭を捻る。でもこんな天気の日に出来ることなんて……などと考えていると、隣でパンッと手を打つ音が聞こえた。



 皆の視線を一斉に浴びた忍が、丸い大きな目をキラキラと輝かせ、嬉々とした声を出す。




「じゃぁさ、皆でゲームをしない?」



「「「…………ゲーム?」」」




 数秒の沈黙の後、紬と双子が同時に疑問を口にした。




「そう! でもゲームと言っても遊ぶ訳じゃないわよ。こんな悪天候の中、外仕事に向かわれた上司の皆様を労う為のゲーム。


 ルールは簡単よ。男子チームと女子チームに分かれて所長達をもてなして、より感謝された方が勝ち。幹部の皆様が帰所するまでに掃除を終わらせるなり、料理を作るなり……感謝されることなら何をしてもいいわよ。


 ただ、これだけだと双子あんた達は絶対サボるから、より感謝された方は負けた二人から千寿堂の高級みたらし団子を奢って貰えるという特典を設けます」




 どうだ! とでも言うように忍が得意気に胸を張る。




「「いや、面倒くせぇだろ……」」




 嫌そうに顔を顰める双子に向かって、悪戯っぽく微笑みながら忍が続ける。




「あら、上司に媚びを売っておいて損はないわよ。いつもお世話になってることには変わりないし。たまには感謝の気持ちを行動にしないといけないんじゃない? 


 それに、普段しないことをやらなねばいけない程暇だったんだと思って貰えれば、積極的に仕事を回して貰えるかもしれないでしょ?」




 確かにここ最近、任されるのは通常メニューの補助業務ばかりで、双子は不満そうだった。


 忙しそうにしている幹部達に手が空いていることをアピールする良い機会かもしれない。




「……なんか上手くのせられてる気がするんだけど」


「世の中深く考えない方が幸せになれることも多いわよ」




 それでも納得いかなそうな双子の背中を叩き、忍が「さぁ!」と声をあげる。




「所長達は夕刻までには戻ると言っていたから、そんなに時間がないわ。私達に高級みたらしを奢ってくれると言うなら別にそれでもいいけど……」




 ニヤリと意地悪く口角を上げる忍に、双子は諦めたように「はぁぁぁ〜」と深い溜め息を吐いた。




「それでは、最高のおもてなしを目指してお互い頑張りましょう!」




 謎に張り切る忍に若干困惑していた紬だったが、千寿堂の高級みたらし団子が懸かっているとなると話は別だ。


 普通のみたらしの二倍の値がするので滅多なことがないと口に出来ないが、これがとにかく絶品なのだ。


 程よく弾力があるのに、スッと溶けて消えるような滑らかな口溶けの団子。そこに絶妙な甘さのタレが絡み、一口で幸福感を味わえる至高の一品……。



 これはご褒美の為……いや、日頃世話になっている恩を返す為にも絶対に負けられない。


 紬は高級団子に想いを馳せながら、「頑張ります!」と気合いを入れた。




*****


この後、報酬として高級みたらしをぶら下げられた紬達は若干張り切りすぎたようで、帰ってきた幹部達から有難がられたり、がられなかったりしたそうです……(笑)



紹介所メンバーの関係性や性格が分かるお話を書いてみたかったのですが……いかがでしょうか?


次話から第二章がスタートします。

引き続き、よろしくお願い致します◎

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