第二章 渦巻く陰謀、忍び寄る影
第13話 混乱の兆し
御前会議にて皇帝が譲位を示唆された。3年以内に第一皇子、第二皇子のいずれかに位を譲ると短く告げられ、部屋は一気に騒然とする。
現皇帝の祖先が即位し、この国が「和の国」と呼ばれるようになってから四百年余り。それ以前は「
私利私欲に溺れた独裁政治を行う神子勢力は、地方の有力貴族を集めて結成された皇帝派によって十年に及ぶ長い戦いを経て滅ぼされた。
皇帝一派に統治されたこの国は、封建制度が整備されたことにより、ここ数百年ほど比較的平穏な治世が続いていた。
しかし三年前、皇位継承順位一位であった皇弟が謎の死を遂げて以降、暗雲が漂い始める。
皇居の一室で倒れていた皇嗣の死は他殺か病死か……。医学が発達しているとは言い難いこの国では専門家の間でも意見が割れており、未だに調査が難航している。
いつまでも皇嗣の死の謎が解明されないことは国民に大きな不安を与えた。やむを得ず世間には病死だったと公表したが、皇帝はその責任を感じて退位を決意したと言う。
ただ成人して間もない年子の皇子−−側妃に産ませた第一皇子と正妃が産んだ第二皇子のどちらに位を譲るかを決めかねているらしい。
「3年以内に、余が皇帝の器と判断するような成果を上げよ」
2人の皇子にそう言い残し、皇帝は
上座に陣取って一連のやり取りを黙って聞いていた老婆は、鋭く光る猛禽類のような瞳で会議に参加している面々を観察する。
帝都人材紹介所の創設者であり、所員からタエ
御前会議には第一皇子、第二皇子とその側近達に加えて、公爵位を持つ鷲尾家、侯爵位を持つ
姓に鳥に関する文字を持つ彼らは四大貴族と呼ばれており、皇帝派が神子政権に反旗を翻した際に活躍した一族の子孫である。
その功績を称えられ、和の国筆頭貴族として代々政において宰相や参謀などの重要な役職を担っている。
……ふむ。流石にここで尻尾は出さないか。
困惑した表情を浮かべる年若い皇子やその側近達とは異なり、当主達の表情からは何の感情も読み取ることが出来ない。ただ辺り一体に息が詰まるような緊張感が立ち込めている。
これはまた……一波乱ありそうじゃな。
皇帝もまた、思い切ったことをするものだ。彼はどうも弟の死を他殺だと睨んでいるようだ。しかし、譲位を仄めかして犯人を炙り出そうと考える程に痺れを切らしていたとは……。
ここ最近、国の治安も良いとは言い難い状態だ。資源を巡った領地間の抗争や、領主の横暴な領地経営に領民が反旗を翻す事案が多々報告されている。
まったく……。こんな時に、新しい火種を撒いている場合なのか?
老婆は厳しい目付きで周囲を窺いながら、心の中で大きな溜め息を吐いた。
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