第5話 裏部門の任務(1)


「裏部門の依頼を受けようと思う」



 冬至が単刀直入に本題を切り出すと、忍と双子が揃って椅子から腰を浮かせて歓声を上げた。しかし、それぞれの上司に睨まれすぐに口を噤む。



「紫苑、岳斗、海斗、それから……紬。君達に今回の仕事の実働を任せたいと考えている。流華と忍はそれに伴って必要になる情報を集めて欲しい。ちょっときな臭い内容だから、源太はいつもより多めに護身具を用意してくれ。」



 裏部門の仕事に初めて指名されたことに驚き、紬は目を丸くする。双子達は嬉しそうに「はいっ!」と威勢の良い返事をし、忍も流華と顔を見合わせ頷いている。



「「で、今回はどんな依頼なんですか?」」



 机の上に身を乗り出し、岳斗と海斗が早く早くと冬至に詳細の説明を促す。彼らの上司でもある紫苑がその行儀の悪さに眉を顰めるが、冬至は気にする様子もなく言葉を続けた。



「詳細はせっかくだから依頼主本人に説明してもらおう。今タエばぁと一緒に僕の執務室で待機してもらっているんだ。忍、彼らを呼んできて貰えるかい?」



 タエ婆という言葉に「げぇ……」と顔を歪めた双子と源太を無視して、冬至が忍へと微笑みかける。忍は「はい!」と元気よく返事をして小走りで部屋を後にした。




****




「はぁ、相変わらず頼りなさそうなガキ共の集まりじゃこと」


「まぁまぁタエ婆、そんなこと言わないで。あ、お客様、ご心配には及びません。こう見えてここにいる人材は僕イチオシの優秀な者達ですから」



 忍に連れられ、真っ赤なドレススーツに身を包んだ老婆とやや緊張した面持ちの青年が会議室に姿を現した。開口一番に毒づく老婆に苦笑しながら、冬至が生真面目な雰囲気を纏う青年へ声を掛ける。


 このいかにも高位貴族ですといった身なりをした老婆は、冬至が引き継ぐ以前に帝都人材紹介所を切り盛りしていたやり手の経営者である。平民の紬にはよく分からないが貴族の中でもかなり有名な家の女主人だと聞いている。現在は相談役として度々紹介所を訪れては、年若い幹部達をサポートしているようだ。


 経営者としての手腕や彼女が持つ人脈は申し分ないが、いかんせん口が悪く、接客には向かない上に双子達や源太のような血の気の多い若者にちょっかいを掛けたがるのが玉に瑕だ。その所為もあり彼等はタエ婆に強い苦手意識を持っており、極力顔を合わせたくないと思っているらしい。



「今回は貴殿の護衛要員として副所長である沖恒とこちらの双子……岳斗と海斗、そして例のものを安全に運ぶ運搬役として彼女……紬に任務を任せようと考えています。皆歳は若いですが、その分余計な柵などはありませんし、護衛としても運び屋としてもしっかり経験を積んでいます。その辺のごろつきよりもしっかりと任務を全う出来るでしょう」



 そう言って冬至が双子と紬を順々に依頼主に紹介する。真面目そうな青年は紬達を見て不安そうな表情を浮かべていたが、冬至のはっきりとした物言いに安心したのか最後には「よろしくお願いします」と頭を下げてくれた。



「では、今回の任務について皆に共有しておきたいのでもう一度詳しくお話し頂けますか? 状況によっては応援人員も検討する必要があるかと思います。


 彼……流華とこちらの忍には諜報員として任務を遂行する上で不足している情報を集めさせたいと考えています。


 そちらの少年……はうちの技術スタッフです。帝都の発展に源太ありと言われている……あ、そうです、そうですその彼です。幼く見えますがちゃんと成人してますよ。


 ここにいる面々は紹介所で直接雇用している素性のはっきりとした信頼出来る所員です。なので裏切りなどの心配は無用です」



 時折驚いたような反応を示しながら冬至の話を聞いていた青年は、彼が言葉を切った後、深く息を吐き、覚悟を決めたように緊張した面持ちのままゆっくりと口を開いた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る