帝都人材紹介所へようこそ！〜運び屋少女の勤務録〜

第2話 帝都人材紹介所へようこそ！（1）

　帝都の中心部に位置する繁華街の一角、人の流れが始まる場所にその建物は位置していた。

「帝都人材紹介所へようこそ！　本日はご依頼ですか？　ご登録ですか？」

　重厚な扉を開くとチリンと澄んだ鈴の音が聞こえ、明るい声に出迎えられる。その声を辿るように視線を移すと、正面のカウンターで愛らしい少女が微笑んでいた。

　後頭部の高い位置で結い上げた長い髪を揺らし、丸い大きな瞳を嬉しそうに細める美しい少女に思わず頬が熱を持つ。吸い寄せられるように受付嬢の元へと足が動く。

「こんにちは！　当紹介所の利用は初めてですか？」

　キラキラと瞳を輝かせながら真っ直ぐこちらを見つめる少女の視線にどぎまぎしながら首肯する。

「来所ありがとうございます。では、簡単に説明させていただきますね！　当紹介所では、求職中のお客様に希望に沿ったお仕事を紹介し、人員調達を希望されるお客様には求める能力を備えた人材の紹介を行っています」

　つまり、仕事を求める労働者と、働き手を探している雇用主を繋でいるのだと受付嬢は説明する。理解したと頷くと、少女は笑みを深めカウンター越しに「利用案内」と書かれた紙を取り出し、言葉を続ける。

「求職者様と雇用主様の円滑なマッチングのため、当紹介所への登録を希望される皆様には希望業務を申告いただき、まず始めに部門登録されることを推奨しています。

　例えば、執事の仕事を希望するなら【執務部門】、侍女や家政婦の仕事を希望するなら【家政部門】、庭師や料理人希望なら【職人部門】、農業や酪農、製造などの経験を活かせる【産業部門】、腕っぷしを活かして働きたいなら【警備部門】……などなど。

　当所を利用される皆様が素敵な職場や人材に出会えるよう、誠意を持ってご紹介させていただいております」

　利用案内に記載されている内容を丁寧に説明した少女は「当所は今や帝都で一番の登録者数と紹介数を誇っています」と胸を張った。

「……本日、お客様は部門登録と人材紹介のどちらをご所望ですか？」

　接客モードに戻った少女に再び美しい笑みを向けられ、緊張でゴクリと喉が鳴る。返答は予想以上にか細い声になってしまったが、なんとか「人材紹介をお願いしたい」と告げた。

「紹介、ですね。かしこまりました！　ちなみにどのような人材をご希望でしょうか？」

　紹介希望であることが意外だったのか受付嬢は一瞬目を見開いたが、直ぐに笑顔に戻って言葉を続ける。ここからは慎重に対応しなければ。警戒するように周囲を確認した後、少女だけに届くよう身体を屈めて声を潜める。

「実は……厄介なことに巻き込まれているんです。私の警護を任せられる人材を紹介して欲しい。それから、裏（・）部（・）門（・）の仕事を依頼したい」

　そう告げると受付の少女は目を細め、探るような目付きでこちらを見上げた。

　突如変化した少女の雰囲気に内心動揺しながらも、こちらを見定めるような強い視線を根気強く見つめ返す。暫くして受付嬢は「なるほど」と小さく呟き、はっきりとした口調で言葉を続けた。

「ご希望を承りました。詳細は担当者が伺います。こちらの通路から奥の部屋へお越しください」

　そう言うとカウンター越しに、建物の奥へと続く通路を指し示す。細かい所作も美しいのだな……と少女の白くて細い指先に見惚れながら、男は案内された部屋へと歩みを進めた。