第2話 施設 上

 2話施設 上

これは、私が小学校4年生の時の出来事である。

 とある街道から少し外れ、少し行ったところにある山の斜面を切り開いてできた、総合施設。

 施設は新築ほやほやで、当時県内の小学4年生のお泊り課外学習にその施設はうってつけだったらしく、県もそれを推進して、そこでの1泊2日の課外活動を推進していた。

 そう、これが私にとって最も地獄ともいえる忘れもしない恐怖体験をすることになる場所だとは、この時小学生だった私は全く想像もしていなかった。

 強いて言えば、仲のいいクラスメイト達と楽しい楽しい1泊2日の旅行になるのだとその時はみじんも疑っていなかった。

 当日、5月も中旬のころ、日差しもわりと暑く、夏がすぐ目の前だと言われているような連日25度の陽気の中、私の小学校は課外学習のため、1泊2日で行くK施設へと向かうため、学校に全員が集合していた。

 私たちのクラスは2クラスだったが1クラス39人と多く、それはそれで楽しいクラス人数だったが、2クラスで80名ほどの10歳児がいるのだ、それを引率が私たちと隣のクラスの先生、それから保険の先生に、一つ上の学園の教師2人の合わせて5名での引率。

 何を思ったのか、私たちの学校からK施設まで80人もいる生徒を歩いて向かわせようという話になっていた。

 施設までは歩かせよう、という話になっていた。

 施設までは片道8キロほどと割とあり、上り坂なため、かなり体力がいるのだが、遠足気分でみんな楽しく出発となったが、私はなぜバスじゃないんだぁ、と嘆いたのを今でも鮮明に覚えている。

 初夏が近く、汗ばむ陽気の中、ただひたすらに進んでいく中、途中、わが県でも有名な動物園の横を通り、外側からでも見える動物たちに、手を振りながら先を急ぐ中、私は動物園を過ぎたあたりから、なんとなく、進先にいやな気持を抱え始めていた。

 楽しい課外活動、そのはずなのに、向かう足は妙に重く、気が進まない、周りでは、友人たちが楽しそうに会話しながら先へと進んでいく。

 そうこうしている間に、時刻はお昼時、ちょっと休憩の取れそうな場所を探し、全員で休憩しながら、持参したお弁当を食べる。

 空は晴天で、まさに絶好の遠足日。

 だが、私は向かう先の山々を見て、妙な違和感を覚えた。

 緑が青々と茂り、まさに生命の息吹と、5月の爽やかさを見て取れる光景のはず、なのだが、妙に山が暗く感じるのだ。

 不思議に思い、空を見る。

 青空が広がり、気持ちのいい陽気だ。

 山を見る、光はしっかりとあたり、太陽も明るい、でも暗い。

「何してんだお前?」

 私が空を見上げ、山を見て首をかしげる、を何度か繰り返していたものだから、訝しんだ友人Aが不思議そうに声をかけてきた。

「なんかさぁ、あれ、暗くない?」

「は?・・・何言ってんの」

A君は不思議そうに私を見て、私の言った山を見て鼻で笑っていた。

「気のせいだよ、そろそろ出発するらしいから、お菓子食べたら頑張ろう!」

 昼食を終え、お菓子を食べて、再度出発。

 出発して1時間ぐらいだろうか、やっと目的地のK施設入口に到着。

 入り口といっても、まだ駐車場で、そこからさらに少し上ったところが目的地だった。

 その時に、先ほど感じていた、暗いが、さらに暗く感じ、施設のたってる空間は新築という事でとても綺麗で新しく、まさに新しい施設ですといった雰囲気であったのだが、駐車場から登っていき、左手の森、そこがまさに墨汁を白い紙に垂らした様な、そんな暗さがあった。

 普段、学校が森に囲まれた場所にあり、森はいわば遊び場だった私にとって、この違和感は今まで感じたことがなかった。

 森は昼間でも明るく、遊ぶには最適な場所で、今の時期ならば涼しく、公園とかで遊ぶよりも過ごしやすい場所、という認識があったのだが、その森はまさに入りたくない、近寄りたくないと感じていた。

 この時の感覚をもっと重要視するべきだったのかもしれないと、あとで後悔するのだが、それを後悔するのは数年先だった。

 施設につき、それぞれの班に分かれ、ペンションに向かう。

 ペンションにつき、荷物を下ろして1時間は休憩時間となり、皆思い思いに、写真を撮ったり、ほかの班のペンションに遊びに行ったりと楽しんでいた。

 私の班は、知人のA君、その他にB君、C君と私の4人でのペンションでの班んで、ペンション組、テント組とで2クラス色々な組に分かれていた。

 B君がテント組に遊びに行くと言って出て行き、A君C君もほかのペンション組を見に行っていた。

 ペンションの窓際から、湖らしき小さい畔が見え、一見おしゃれそうに見えるのだが、ナニアレ?とつぶやいたのをよく覚えている。

 何となくそこを眺めていると、白いワンピースを着た髪の長い女性が視界の端のほうに見えた気がして、私は慌てて閉めかけたカーテンを開けて外を覗いたが、どこにもそれらしい人はおろか、人影もなく気のせいかと思った。

 当時、井戸から出てくる髪の長いホラー映画が異例の大ヒットをとばし、世間でかなり話題となっていたり、学校の怪談という、まんまなタイトルの子供向けホラー映画がはやっていたりと、ホラー映画が元気な時期だったこともあり、こういう所はいるかもなぁぐらいに思ってたので、無意識のうちに、そう思った自分の考えが幻でも見せたのかもしれないとそう思っていた。

「ただいまぁ・・・あれ、私君一人?」

「そうだよ、皆遊びに行っちゃった」

 テント組に遊びに行くと言っていたB君が、戻ってきて、そう言った。

「ねぇねぇ、今怖い話聞いたんだけど」

 B君が興奮気味にそう言ってきたので、なんとなく先ほど視界の端に見えたものの話なのではと思った。

 すると、彼はこの先のちょっと行ったところにあるトイレに白い服を着た女が夜な夜な現れる、という内容の話をしだした。

 確かに先ほど視界の端に見えたのは白い服の女ではあったが彼が言うトイレは、窓から見える畔から左手の坂を上がった先で、私が先ほど視界の端にとらえたのは右手の、テントが立ち並ぶ場所のほうだった。

(動いてる・・・・)

 そうとしか思えないが、なにぶん何も確証がないが、B君の話はそれだけにとどまらず、そいつに見つかると追いかけられて、呪われる、などと言う。

 まぁどこにでもある旅行先のホラーの定番的な流れだったが、他所のペンションに遊びに行っていたA君、C君も戻ってくるなり同じような話をし始め、いよいよいるんじゃねぇ?

ってな具合の流れになったのをよく覚えている。

 その後、施設内にあるアスレチックなどの遊具をうかうか外学習やなどを行うと、自今も夕刻、夕飯の時間となり、施設内にある食事処での夕食となった。

 夕食は県内有数の某ステーキハウスさんが入っており、何とも小学生には贅沢なサーロイン食べ放題という、とんでも使用だったが、当時の私たちにその価値のすごさが分かるわけもなく、食べ放題という事で男子全員は、胃袋全開で好き放題食べたのは言うまでもない。

 その後、腹ごしらえも兼ねて肝試しという流れを在ろう事か小学生たちがではなく、担任教師たちが計画していたらしく、施設の色々を回って、夕飯を食べたところに帰ってくるというものだった。

 しかも、途中の中継ポイントが今考えてもあほだろと言えるようなところが多く。

 山間を進み、その先に人口の洞窟があり、そこを抜けるとさらに大きな橋があるというルートで、正直暗がりにそこを通るのは危なくなかったのかと今でもなぜやれたのか不思議で仕方ない。

 この時、私は盛り上がる皆とは裏腹に。

「マジ。行きたくないんだけど」

 とつぶやいたが、幸い誰にも聞かれなかったらしく、皆は誰と行くよとかそんな話をしていた。

 ここで、行きたくないなどと聞かれようものならば、弱虫だのなんだの言われるのは目に見えていた。

 だが、私には行きたくない明確な理由があった。

 昼間視界に移ったあの女だ。

 ルートの途中、山頂に入る手前がちょうどあの畔を横目に通り過ぎないと入っていけないので、いやでもあの場所を通る。

 さらに、B君やほかの人が行っていたトイレの前も通るので、どちらにしろ噂の場所は嫌でも通る羽目になりそうでした。



 各々が班ごとに肝試しルートへ出発し、私とA,B、Cの4人組も出発する事となりました。

 普通肝試しなのだから、女子と行って(きゃぁ、怖いよぉ)とか言われながら抱き着かれる嬉しイベントを選ぶのが普通ですが、小学生の男子なんて馬鹿の集まりで、そんな事に頭が回るわけもなく、それどころか昼間の怖いうわさ話をあろう事かしながら進みだしたのだから、怖いもの知らずも良いところである。

 食事処を出て、進むか先をペンション方面へと足を向けた時でした。

「・・・・」

 誰かに見られている、そんな気がして振り返ると、それは施設の向かって左側の森でした。

 よるという事もあり、そこは漆黒の闇が広がり、何かがいるというよりも不気味な感じがしてなりませんでしたが。

「何してんだ、置いてくぞ!」

 A君にせかされ、気のせいだと思いながら、私は皆の元へと走り寄り、すぐに目的地のつり橋、と洞窟があるチェックポイントを目指す。

 ルートはこうだった。

 食事処からペンション方面を行き、畔の左横の道を山頂に入り、洞窟へと向かう、洞窟を抜けるとチェックポイントがあり、大きな橋を渡って、下を目指すと、すぐに食事処に戻るというルートで、整備もされているため迷う事もないだろうという話だった。

 イメージとして右回りに大きな円を描く形で進む感じである。

 ペンション区画に入り、最初のB君が言っていた女の幽霊が出るらしいトイレの前を横切るが、特に変な感じもなく、誰もおらず。

 皆口々に、ここだぜ。ヤバいよなぁ。幽霊出たらどうするよ。

 などなど実に楽しそうに話をしているが、私としては正直気が気ではなかった。

 というのも、幽霊かどうかは定かではないけれど、それに近しい物を何度となく感じたり、実際に怖い思いもしていたりするので、正直関わらないのが正解だと常日頃から自分で思ってはいた。

 なので、昼間一瞬でも視界に入ってきたときには、冷や汗が出ていたのはごまかしようのない事実だが、なるべく考えないようにしていた。

 でも、視界に入った、程度だったのと、特段いつもヤバいのに遭遇したりした時のあの独特の、体全体が妙な悪寒というか、心臓には物でも突きつけられているようなそんな嫌な感覚は感じなかった。

 それよりも、肝試しで食堂施設を出た直後の背後の森、あっちから感じた視線のような気配が、私にはいつもの危険な時の感覚に少し似ていたように感じていた。

 そんな思考を巡らせながら、気のせいだと自分に言い聞かせ、畔の横を通り、山道に入る。

 辺りは街灯もないため、薄暗く持参しているライトの光だけが頼りだが、それも特に強いというわけでもないので、妙に薄暗い。

 フクロウの鳴く声。

 足を踏みしめる音。

 虫の鳴き声だけが妙に耳障りなぐらいはっきりと聞こえる。

 次第に私以外の3人も口かづが妙に減っていき、その場の雰囲気にのまれ始めたころ、目的の洞窟が見えてきた。

 話をしながらも何とかたどり着いた私たちに、洞窟から、妙な、ごうぉぉぉぉ、という声が聞こえてきたが。

 私を含め4人全員が顔を見合わせると同時に吹き出し、大爆笑し始めた。

 何故笑っているのかと言えば、この声を出しているのは先生だからだ。

 結構有名な先生で、私たちの上の学年を担当している、和知という先生で、その先生の声が特徴的なのもそうなのだが、なによりもいつも怒るという(だまらっしゃい!)という口癖のような言葉の声色と、今洞窟から聞こえてきている声色が全く一緒だったのだ。

 私たちは顔を見合わせると同時に、誰が示し合わせたのでもないのに、一斉に「♬だ~まらっしゃい、だまらっしゃい、だまらっしゃいったらだまらっしゃい~♬」あろう事か歌いだしながら全員で洞窟へと足を踏み入れていったのだ。

 先ほどまでの妙な空気がなくなり、柔らかな雰囲気のまま洞窟迷路を抜け、橋の前に付くと、声の主和知先生がそこに折り、苦笑いを浮かべながら(勘弁してくれぇ)と言ってチェックポイントのしるしのハンコウをそれぞれの手に押す。

 手に押したところで、私はふとその先の端を見やった。

「え・・・・」

 見なければよかったとすごく思ったのを今でも覚えている。

 橋の先、私たちがこれから向かう施設のある方向の端の出口、要は向こう側にそれはたっていた。

 手招きするわけでもなく、ただじっと、薄闇の中に妙な白さが際立つ白い服を着た女が、ただじっと立っていた。

 私が呆然とそれを見てると。

「ねぇねぇ、あそこに女が橋の下から手を伸ばしているぜ!」

 C君がふざけ半分にそう言いだし、反対がの端ではなく、橋の欄干を指さしてそう言いだし。

「うわ、マジかよ、早く渡っちまおうぜ!」

 そう言いだすA君はすでに走り出しており、橋へと向かう、あわててB君もA君を追いかけて走り出し、ふざけたようにC君もしれに続くが、私は硬直していた。

 それじゃない。本物はあそこにうっすらと見えている不確かな、女なのか何なのか分からないやつだと、そう言いだかった。

 でも言葉は出ず、どうしていいかわからないでいると。

「私君おいてくよぉ!」

 すでにC君たちは橋の中央まで進んでおり、そこで追ってこない私を不思議に思い、呼びかけたのだった。

「ほら、行きなさい。おいていかれてしまうよ」

 和知先生もそういい促すが、私が見た先にはいまだに何かわからないものがそこに居る。

「先生」

 助けを求めるように声を出し、先生を見た後、橋の先を見るが、やはり消えているわけもなくまだそこにそれはいた。

「そのまま気がつかないふりをしていけば大丈夫だ」

「え?!」

 不意に先生はそう言い、強く頷く。

 一瞬何を言われたのかわからなかったが、先生はどうやらこちらがなぜ動かないのか察したらしく、優しい声色でそういう。

 色々聞きたいことも、言いたいこともあったが、この手の話はあまりいい結果を生まないのは見に染みて知っていたので、黙って頷くと、私は皆の元へ向かった。

 橋の中腹まで来ると、皆が渡っていたときは何事もなかった橋は大きく揺れており、一瞬落ちるんじゃないかという恐怖にとらわれ、必死にワイヤーを掴み叫んだ。

「おい、揺らすなよ!」

 すると3人はすでに渡り終えており、揺らすも何も、橋の上にいなかったのでB君が。

「俺たち揺らしてないよ!」

 と声を張り上げ、そう言ってきたので、そんなはずはと皆のほうを見ると、そいつがはっきりとは見えないが、妙な笑みを浮かべているのがはっきりと見えた。

 マズイ、アレは間違いなく私を狙ってやってきている可能性がある。

 そう思った。

 だが、次の瞬間、私の耳に猫の声が聞こえた。

 その声は、私に大丈夫だというような、そんな落ち着けるような声だった。

 こんな所に猫など居るわけがないのに、なぜか私は、猫がいて、その猫は私の味方なのだと何の根拠もなく信じていた。

 ふと顔を上げ、皆のほうを見やると、先程彼らの横で蠢いていた何かは、すでにその姿を消しており、嫌な感じもなくなっていた。

「へ?!」

 あまりの出来事に間抜けな声が漏れる。

 腑に落ちない気持ちを抱えながら、皆の元へ着くと、そこになんか小さい白いものが足元に見える。

 何がいるのだろうと思うと、そこには大変毛並みの良い猫がいた。

 何故猫?

 そう思い、皆に猫がいる事を言おうと思うが。

「何ビビってんだよ、さっさと行こうぜ!」

 A君がそう言い。

「なんか気味悪いし早くいこうぜ」

「そ、そうだな」

 B君が焦ったように言い、C君は明らかにビビった声音で同意しているが、皆一様に足元に入るねこには一切触れないし気がついているわけでもなかった。

「あ、悪い、行こうぜ」

 猫の事を言おうか迷ったのだが、なぜか触れないほうが良いと思い、そのまま皆に合わせ、その場を立ち去る。

 猫は俺の歩調に合わせ、ついてきたかと思うと、しばらくするとその姿は消えていた。

 あまりの出来事にびっくりはしたものの、猫に関しては嫌な感じというよりも、何というか太陽の陽だまりのような温かさすら感じる、そんな安らぎのようなあんしんかを抱けるような猫だった。

 幽霊、にしては先ほどのわけのわからないものとは違いはっきりと見えていたので、何ともはっきりとはしなかった。

 その後、特に何のトラブルもなく全員が肝試しを終えた。

 余興も終わり、施設内にある浴場で汗を流し、ペンションに戻ってその日は終わった。

 あんな事があったので、眠ることなどできないと思っていた私だったが、いつもよりも落ち着いて眠りにつくことができていた。

 翌朝も特に何事もなく、その後の課外活動も無事に終わり、帰りはバスを用意していた学校側に感謝しつつ、その施設を後にするのだった。

 だがこれが、この施設との別れになればどれほどいい思い出になったのかと、この数年後絶望とともに思う事となるのだったが、それはまた、別の話である。


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