「リーフの異常な愛情」part6

「トールも聞いたんでしょ?ルルちゃんが元の世界でどんな目に遭ってたか」


 彼女の世界には『アレルギー』という概念自体がなかったため、金属アレルギーを持つ彼女は原因もわからず辛い日々を過ごしていたと教えてくれた。俺がルルの腫れた部分を触ったとき、彼女は『移る』という理由でそれを拒んだ。それはつまり、彼女が故郷でどのような扱いを受けていたのか示すのだろう。

 俺の世界では『アレルギー』で済むものが、ルルにとっては理不尽な『呪い』になっていたのだ。今更ながらルルの世界の住人に腹が立ってきたが、それもまた『アレルギー』を知っていて対処法もわかる世界の住人から見た意見だろう。


「聞いたよ。だいぶ辛い生活だったみたいだな」

「うん。リーフちゃんもルルちゃんの世界の人に怒ってた。まだ『はじめまして』から短いけど、あのリーフちゃんが激怒してたんだからよっぽどだよね。でもさ、それを救ったのがトールなわけじゃん?トールはルルちゃんにとって英雄なんだよ」


 英雄と言われても、俺は優れた武勲ぶくんを残したわけではないのだが。


「トールがどう思ってるかはわからないけど、ルルちゃんにとっての英雄、それは忘れないでね。それに、あたしにとっても」


 ルルは納得したが、オリサが俺に感謝する理由が検討もつかない。


「そんで、俺はお前に何かしたっけ?」

「忘れてしまったの?あの夜、あたしの耳元であんなにも愛をささやいてくれたのに!」

「いや、そういうのいいから。身に覚えがねぇよ」

「クールだなぁ。しょーがない、教えてしんぜよう」


 なんでこいつが偉そうなんだろう。


「ほら、あたしが最初に魔法を見せた日のこと覚えてる?」

「生涯忘れらんねぇ」

「偉大な魔法使いであるあたしの魔法を見たんだから、まぁ当然だよねぇ」

「畑の中転がりまわって泥だらけになったんだから、まぁ当然だよねぇ」

「もう!ほじくり返すなよ!」

「畑だけに?芋だけに?上手いな」

「話が進まないじゃん!それでさ、あたしが使える魔法は四つって言ったでしょ?」

「ああ。お前実はすげぇんだよな」

「『実は』ってなんだよ!ふふ、トールはそれを笑ってくれるからいいヤツだ」

「でも、ちょっと思い出してきた。お前、属性の話をしたとき少し悲しそうな目をしてたよ」


 ルルも自分が名工の娘だと話したとき、自慢げながら悲しそうな目をしていた。


「ありゃ?できるだけ隠してるんだけどなぁ。そう。あたしの世界で、一人でいくつも属性を操る魔法使いなんていなかったんだ。あとはルルちゃんと同じ。みんな自分と違う存在が近くにいると怖がったり、見て見ぬ振りしたり。要は拒絶。あたしさ、最初よくわかんなくてね。たーっくさん魔法が使えたら凄いから、みんなが受け入れてくれるって思ってたんだよね。でも実際にはみんなあたしのこと普通じゃないって驚いちゃって。大魔法使いとして地位は手に入れたけど、他の人達との壁は消せなかった。魔法使いなのに魔法を使えば使うほど避けられるんだもん。変な話だよね。だから、魔法使いの里にいるのがなんか楽しくなかったんだ……。ビックリするかもしれないけど、あたしって肩書上は里で一番偉かったんだよ?」

「嘘だろっ!?」

「へへ、ほらビックリした。ま、肩書上はだけどね。冗談だと思いたかったらそれでもいいよ。でもね、楽しくなかったんだぁ……。ホントに、毎日ぜーんぜん」


 今の明るいオリサしか知らない俺としては到底信じられない話だが、あの悲しそうな目を見るに本当なのだろう。


「辛かったんだな……」

「何を辛気臭い顔してんのさ!なんちゃって!だよ。はい、今の話は冗談!トール、だーまさーれたー!」

「今更ムリだっつうの」

「それでまぁ、魔法使いのいない世界に行きたい!って毎日思ってたらいきなり神様が現れてね。人間がいなくなっちゃって大変な世界に行くことを提案してくれたの。どーせ夢でも見たんだと思ってOKしたら神様が『荷造りして別れを済ませろ』って。それであっという間にこの世界に来ちゃった。嬉しかったなぁ。ホントにぜんぜん違う文化の世界に来ちゃったんだもん。嬉しすぎて一人でその道思いっきり走ったのが懐かしいね。まだそんなに時間経ってないけど。だからねトール、大丈夫!あたしは今すっごく楽しいよ!トールも、ルルちゃんも、リーフちゃんも、あたしを受け入れてくれてるから。それだけで本当に幸せ!だから……、んー。改めて言うと照れくさいけど、サンキューね」


 いつも明るいオリサに限ってそんなことと思ってしまったが、本当なのだろう。それにしても、俺自身は何かしているつもりはないのだが。


「感謝するのは俺の方だ。不甲斐ない俺だけど、力を貸してくれてありがとうな」

「へへ、感謝したまへ」

「なんだこいつ」


 俺たちは笑いながら自宅の玄関ドアを開けた。


「あ、そんなわけで、もしかしたらリーフちゃんも何か故郷に居たくない理由があったのかなぁって思ったんだ。あたしとルルちゃんは『違う世界に行きたい!』って考えてたらトールの世界に来たわけだから、何か共通するものがあるのかもしれないって思ってたの」

「なるほどな。まぁ、俺から聞くのはちょっとな。これから先、リーフともっとたくさん話す機会があれば詳しく聞けるかも」

「うん、それでいいと思うよ。時間はたくさんあるんだし」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・


元ネタ集


・「サンキューね」

 2009年、新日本プロレスG1クライマックス初優勝を果たした真壁刀義選手(スイーツ真壁として有名)のマイクより。

『ホントはよ、おめぇらみてぇなやつら(観客)には死んでもいいたくねえんだよ。でも今回ばかりはサンキューな』

さすがにこのままオリサちゃんに言わせるのは無理がありほとんど原型を留めず。

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