「リーフの異常な愛情」part5

「リーフ、悪いけど後は任せていいかな?具体的にどんな道具や施設が必要なのか俺にはわからないし、特にアドバイスできることもないと思うから。余計な口出しはしないで先に帰ろうと思う。リーフの決めたことなら、何も文句は言わないよ」

「ありがとうございます。全力でがんばります!」

「じゃ、あたしも帰ろうかな。リーフちゃんがんばってねー!晩ごはんはトールが作ってあたしが盛り付けるよ」


 このやろう。


「ありがとうございます。助かります。どうぞお先に召し上がってください」

「オッケー、まかせて」



 オリサを助手席に乗せ、俺たちは一足先に帰路についた。本来なら車で移動するまでもない距離だ。


「リーフちゃん、ホントに嬉しそうだったねぇ」

「そうだな。俺も安心したよ」

「神様がいろいろやってくれるから?」

「それもあるけど、みんながそれぞれ楽しみを見つけたから安心したんだ。みんな俺を助けるためにこの世界に来てくれただろ。俺は魔法は使えないし、金属の加工もできないし、料理もたいしてできない上に、動物の飼育も経験がない」


 言っていて情けないが、自分でも何ができるのかよくわからないぐらいだ。


「だから、そんな何もできない俺を助けにわざわざ来てくれたオリサたちには、せめて何か楽しいことを見つけてほしいと思ったんだ。よし、着いた」


 自宅に到着し、定位置に車を止めた。時刻は午後四時過ぎ。いつもならお茶の時間だがどうするか。二人でコーヒーでも飲もうか。


「ねぇねぇトール、あたしたちが一緒にいて楽しい?」


 助手席から出て俺の前に回り込んだオリサが聞いてきた。唐突になんだろう。


「ああ、楽しいよ」

「そんならよかった」


 笑いながらオリサは母屋に向かって歩き出した。俺もそれにならう。


「なんか楽しそうだな」

「楽しいっていうかね、嬉しいんだ。あとは安心かなぁ。トールがこの生活を気に入ってくれてるみたいで。リーフちゃんはわからないけど、あたしとルルちゃんはトールに感謝してるんだ。ホントだよ」


 二人が俺に感謝?考えてみても、まったく身に覚えがない。


「何か感謝されるようなことしたっけ?」

「ふふふ。やっぱ自覚なしか。当ててみてよ」


 悪戯っぽく微笑んでこちらを見つめるオリサ。

 先程の嬉しそうなリーフは女神のように美しかったが、笑顔のオリサも本当に可愛らしい。言ったら調子に乗るのは目に見えているから口が裂けても言わないけど。今度、昼寝してるときにでも言ってみようかな。いや、わざわざ言う必要ない。


「どう?」


 オリサはわからんが、ルルに関しては予想できる。


「ルルは、アレルギーって概念とゴム手袋を教えたから?」

「んー、まあ正解でいっか」

「お情けで正解って感じだな」


 イマイチ達成感はないけど、一応正解らしい。


「オリサは、そうだな。農業大臣を辞任するって言ったとき、俺が慰留いりゅうしたから?」

「あの日の失敗、必死に忘れようとしてるのに!」


 抗議されてしまった。


「でも、それも含めてかもなぁ。あたしもルルちゃんも答えはおんなじ。トールがあたしたちを受け入れてくれたこと。ホントに感謝してるんだよ」

「なんだそれ。当たり前じゃん」


 そんなに感謝されるようなことだと思えないのだが。


「そう言えるのって、トールがいいヤツだからだよ。それから、トールをこんな人に育ててくれたご家族にも感謝しなきゃね。みんなに会ってお礼を言えないのが残念」

「褒められてるようだが、よくわからん」


 本当にわからない。親の望み通りか否かはわからないが、俺はかなり普通の人間だと思う。

 苦手なもの。ないかもしれないし、全部かもしれない。勉強が特別できるわけでもない。まあ悪くもないはずだけど。芸術のスキルも特にない。他の人たちもこんな感じなんじゃないか。

 一応子供の頃から空手をやっているしそれは特技と言っていいかもしれないけど、今のこの世界じゃ護身術の出番はないな。ドワーフ相手じゃ手も足も出ない。うめき声は出るけど。

 今となっては俺が唯一の地球人になってしまったので俺が頂点であり、底辺であり、平均でもある。


「ほら、あたしとルルちゃんって同じ部屋で寝てるでしょ?だから寝る前とかにたくさんおしゃべりするんだけどさ、そのときにルルちゃんのこと詳しく教えてもらったんだ」


 オリサとルルには元々両親の使っていた部屋で寝泊まりしてもらっている。単純に、リーフに比べて身体の小さい二人に両親のダブルベッドを使ってもらった方がいいと思ったからだ。そのような環境だからか、オリサとルルは普段から仲がいい。

 一方のリーフには妹が使っていた部屋のシングルベッドで寝てもらっている。彼女だけ仲間はずれのようで申し訳ないが、リーフは文句も言わずに受け入れてくれた。今更だけど、足がベッドから飛び出ていないか心配になってきた。

 もしかして、部屋割は逆のほうが良かったかな?リーフに申し訳ない気持ちが湧いてきた。

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