「リーフの異常な愛情」part7

 普段は四人で囲んでいる食卓がオリサと二人になってしまい、なんとも寂しい夕飯となった。食後しばらく取り留めのない話をしてオリサは風呂へ、俺は洗い物にとりかかった。リーフが帰宅したのは皿を一通り棚に戻し終えた頃だった。


「ただいま戻りました。遅くなってしまい、申し訳ありません」

「おかえり。お疲れさま。さっきオリサが風呂に入ったから、夕飯食べて次に入るといいよ。疲れただろ?俺は最後でいいから」

「ありがとうございます。それではお言葉に甘えさせていただきます」


 そう言って脱いだブーツを丁寧に並べてから洗面台に歩いていった。どこの世界でも手洗いうがいは大切だ。俺はその間に夕飯を温め直そう。

 今日の夕飯は野菜たっぷりポトフ。適当に切ったいろいろな野菜とソーセージ、ついでにベーコン、それにコンソメを混ぜて煮込んだだけでそれなりの形になるから料理スキルの低い俺にも優しいそれはそれは大層偉大な料理だ。もし世界が激変せずに進学して一人暮らしをしていたら、こればっかり食べていたんだろうな。

 俺は料理そのものをあまり知らず、母や妹に教えられてやっとわかり始めたところだった。肉に関しても、例えば煮込み料理に適した肉、炒め物に適した肉など、いろいろ食べてきているはずなのに何も考えずに『肉』という塊でしか考えていなかったから今になって困ることになってしまった。

 俺は知らないことだらけだ。

 毎日、野菜の世話を頑張ってくれているオリサ。

 今この瞬間も一人で機械の勉強をしているであろうルル。

 動物の飼育を始めるため、こんな時間まで骨を折ってくれたリーフ。

 彼女たちは俺を助けに来てくれて、今もがんばっている。俺も、もっと精進しなければ。


 切ってある肉は真っ先に回収して冷凍庫にぎゅうぎゅうに詰めていたが、それもだいぶ減ってきた。今は冷凍の肉ばかり食べているが今後は新鮮なものが食べられるはずだ。ただ一点の問題さえクリアすれば。

 神様の言葉によれば、人がいなくなった農場では動物たちが時を止められ今も生きているそうだが、それはもちろん加工しなければ肉にはならない。

 要するに、家畜の命を奪い、皮を剥いで肉を取り出すということを誰かがやらねばならないという事実に、俺は尻込みしているのだ。俺は三人に申し訳ないぐらいサバイバル能力が低い。なので、やはり俺が覚悟を決めてその技術を身につけるべきだろう。今まで目を背けてきたが、この機会にはっきりさせなければならない。俺には今の所明確な役割がないわけだし、飼育の話が出たのはいい機会だ。リーフから家畜の状況を聞いて、明日にでも詳しく話そう。リーフは飼育大臣だから、俺は畜産大臣といったところか。


 今後やらねばならないことに考えを巡らせているうちに、鍋の中が温まってきた。温めすぎるとソーセージが破けて中の肉汁が出てしまうからこのくらいでいいだろう。リーフに少しでも楽をさせたいと多めに作ったので、明日の朝もポトフの予定。単に分量を間違えて多くなってしまったと言ってもいいが。

 簡単な料理ではあるが、それでもオリサと二人で四苦八苦しながら作った。我が家の住人の料理の腕はリーフが一位、次いで銀メダルをもらうのもおこがましいが俺が二位、ついで一応ルルが銅メダルで、オリサは予選敗退といったところ。お世辞にも三位とは言えない腕前という意味だ。まあ野菜や肉を切る、焼く程度のことはできるけど。

 だが、今日のようにリーフ不在ということも今後あるかもしれないし、リーフが体調を崩す可能性だってゼロではない。だから今こそ料理道に精進しようとオリサと共にがんばった。


「すみません、温め直しもお願いしてしまって。お二人はもう召し上がったのですよね?」

「ああ。さっき食べ終わったところだよ」

「それでしたら、あとは自分で支度しますので、トールさんはどうぞお休みください」

「それならそうしようかな。俺は自分の部屋に戻ってるよ。オリサが風呂から上がった頃にまた来るね」

「はい、承知しました」

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