「リーフの異常な愛情」part2

「ねーねー、馬を連れて帰るなら他に食べ物も必要だよねぇ。ニンジンとかジャガイモとかタマネギとか」

「なんでカレー作る野菜ばっかなんだ。あと、動物にタマネギはダメだ。どう良くないのか知らないけど、身体に悪いと聞いたことがある」

「タマネギ中毒になってしまうのです。アリルプロピルジスルフィドという物質が原因で、動物の血液中の赤血球を変化させてしまいます。詳細は省きますが、結論から言えば貧血を引き起こしますから与えてはいけませんよ」

「く、詳しいな」

「リーフちゃん、はくしきー」

「危ないから身を乗り出すんじゃない」


 後部座席から顔を出すオリサを注意したが、実はこの注意は今ので三回目だ。ドライブ開始からたったの十分で。今後、オリサは助手席を定位置にしよう。

 そういえば昔、同級生に親がペットを飼わせてくれないからと好きな気持ちがどんどん高まり、やたらと動物のことを調べて詳しくなったやつがいた。リーフもそういうタイプなのだろうか。


「なるほどねー。アリルプロピルジスルフィドがだめなのか。初めて聞いたけど、悪いやつなんだね」


 一発で覚えたのか!オリサは魔法使いだけあって実は頭がいいのだろうか。普段、あまりその様子は見せないが。



「あの建物ですね?」


助手席のリーフが指差す先に『ホースパーク』の看板が見えてきた。

他に人がいないと駐車場は自由に使えるから気楽でいい。線は無視して雑に駐車し、厩舎きゅうしゃの方へ向かって歩いた。

問題はここからだ。餌を与えられず残念ながら力尽きてしまった馬が何頭も横たわっているかもしれない。やはり二人に見せないよう、俺が先陣を切って歩くべきだろうか。正直、そんなもの見たくないけど仕方ない。レディーファーストだ。


「あ、いたよー」

「もう少し警戒しろよ」


 見たくないものを見そうなので心の中でかなり気合を入れていたが、気づけばオリサがはるか前方を歩いていた。度胸があるのか、実は何も考えていないのか。


「見た感じ元気そうだな」

「そうですね。お世話をする人がいないのに」

「わかった。すっごくタフな馬だ」


 いや、ないだろ。だが、いったいなぜだ。


「トールさん、やはり、わたくしたち以外に人がいるようです」

「誰かいたのか?」


 思わず辺りを見渡してしまう。


「いえ、この子がそう言っているのです」

「この子?」


 真っ先にオリサを見た。


「ん?ちがうよ」

「この馬です。毎日、ご飯をくれる人がいると言っています。今まで面倒を見てくれた人とは違う人らしいのですが、男性が一人で面倒を見てくれているそうで」

「リーフ、馬と話せるのか?」

「はい、動物全般と心を通わせられますよ」

「リーフちゃんすごーい!お料理上手だし怪我のことも詳しいし、動物と話せるなんてなんでもありだね。あたしなんて魔法以外になーんも特技ないもん」


 その魔法も使えない俺への嫌味だろうか。オリサはそんな嫌なやつではないけど、ちょっとイラッとした。あと足が早くて無類のタフネスを誇るのも特技だろう。

 いや、そんなことより重要なのは、この馬たちを世話している人物は何者かということだ。


「それじゃあリーフ、世話をしている人はどこにいるのか馬に聞いてくれ」

「わかりました」


 リーフは馬を見つめたまま動かない。テレパシーのようなもので会話しているのだろうか。


「先程、別の馬を連れて出て行ったそうです。まだ近くにいるのではないでしょうか」


 驚いた。どんな人がいるのだろう。


「ちょっと探してみよう」

「おーよ」

「それにしても、馬が元気なのは良かったですが驚きましたね」

「ああ、他に人がいるだなんて」

「あれ?あの人そうじゃない?」


 遠くへ出て捜索するまでもなく見つけられたようだ。

 くだんの人物は茶色の馬にまたがり、乗馬クラブのコースを疾走しっそうしていた。印象的なのは遠目に見てもわかるその特徴だらけの服装。テンガロンハットをかぶり、そでにフリンジの付いたシャツ、ジーンズにブーツ。丁寧に、ブーツには拍車も付いている。カウボーイだ。まごうことなきカウボーイがいる。何者なのだろう。

 意を決して声をかけてみることにした。


「すみませーん!」


 さて、どんな人だろう。もしかしたら俺や彼の他にも残っている人がいるかもしれない。こちらに気づいた様子のカウボーイが馬に跨ったまま近づいてくる。近づくたび、自分の緊張感が増すのを感じる。正直、少し怖い。うまくお互いの状況を確認できるといいのだが。


「おー、おまえさんたち、どうしたんだね。おや、ルルがいないじゃないか。トイレでも行っとるのか?」

「あれー、神様じゃん。何してるの?」


 馬に乗って近づいてきたのは、全身カウボーイファッションに身を包んだ神様だった。


「はぁ?」

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