第三章 「リーフの異常な愛情」

「リーフの異常な愛情」part1

筆者前書き

 本作品は縦書きで表示すると多少読みやすくなるかと思います。画面右上にある「ぁあ」というボタンを押して、ビュワー設定の「縦読み」を選んでからお読みください。併せて背景色も「生成り」が比較的目が疲れにくいかと思います。もちろん、横書きや背景色の白がお好みの場合は、どうぞそのままご利用ください。


 お読みいただく方に操作をお願いし恐縮ですが「逆異世界転移物語」をお楽しみくださいませ。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「ルールちゃーんげーんきかなー」


 昼食後、ゴロゴロ転がりながらオリサが呟いた。


「この国には『食べてすぐ横になると牛になる』という言葉があるんだがな」

「そうなのですか!」


 注意を促そうと思ったのとは違う人物から驚きの声が上がった。


「行儀が悪いからやめろって意味の言葉であって、本当に牛になるわけじゃないけど」

「そうなのですか……」

「リーフちゃん、なんでちょっとしょんぼりしたの?あたしが牛になったら食べちゃいたかった?」

「そ、そんなことございません」

「何を恐ろしい会話をしているんだ、お前たちは」

「牛の睡眠時間は二、三時間程度らしいので、たくさん寝るオリサさんとは違いますね」


 牛の睡眠時間ってそんな短いのか!


「牛ってあんま寝ないんだねぇ。あたしはたくさん寝ないとムリー」

「お前は寝過ぎだ。ルルはまぁ、特に心配いらないだろ。他に人もいないし、あの辺りは野生の動物なんていないだろうし、いざとなれば護身用に斧もあるし、クッソ力強いし」


 現在、団らんの中にルルはいない。勉強に行っているのだ。


 ・・・・・・・・・・・・


「トール、頼みがある。わたしを工業高校なるところに連れて行ってくれ!」

「なんだいきなり」


 四時のお茶の時間、リーフ作の種入りケーキを食べていたら、突然、送迎の依頼をされた。


「この世界に来てから思っていたが、お前の世界は工業の発達が目覚ましい!車にせよ電気にせよ、農機具にせよ、機械というものの種類や機能、正確性には目を見張るものがある。せっかく金属に触れられるようになったのだ。この世界での金属、いや工業全般に関する幅広い知見を得たい。もっと学びたいんだ。この前行った農業高校のような場所があるのだろう。ここだ、ここ」


 そう言ってルルは県内の地図の一箇所を指差してきた。どこから持ってきた。地図には、俺の通っていた高校から少し離れた場所に『工業高等学校』の文字があった。

ルルが金属アレルギー対策を確立、つまり『ゴム手袋』を持ち歩くようになってから数日。彼女はより一層勉学に励むようになった。故郷で金属と接する時間が少なかった分、まるでそれを取り戻すかのように昼間は物置に籠もり農具の修理や加工に精を出し、夜は本棚にかじりつくように読書に勤しんでいる。嬉しくて堪らないのだろう。


「じゃあ、明日にでも送っていってやるよ。ただ、ちょっと距離があるから、明日中に帰ることを考えるとあんまり長居できないな。悪いけど、暗くなってからの運転はまだあまりしたくないし」

「なら、わたしを置いて帰ってくれてもいいぞ。向こうに着いたら食料と寝床の準備を手伝ってくれ。それから、酒も忘れずにな。施設も軽く紹介してくれると助かる。泊まってしまえば時間を気にせず勉強できるだろう」

「学校に酒を持ち込むんじゃねえよ」


 自分でも行ったことのない高校だからうまく紹介できるかわからないが、難しいことではなさそうなので了承した。



「なあ。本当に迎えは七日後でいいのか?」

「くどいぞ!問題ない。お前は心配してくれて三日後と言ったのかもしれんが、それでは到底足りん。七日後、再び会うときはより一層お前の役に立つ存在になっていると約束しよう。では行ってくる。『唸れ!ドワーフの斧よ!』はーっはっはっはっはっはっ!」


 そう言い残してルルは校舎へと走り去っていった。心配だ。

『唸れ!ドワーフの斧よ!』なるフレーズは興奮すると口を衝いて出るようで行きの車中でも何度も叫んでいたが、勉強するのに斧は関係ないだろう。

 まぁ仕方ない。本人があれほど大丈夫だと主張しているのだから、信じて後日迎えに来よう。


 ・・・・・・・・・・・・


 というのが、昨日の出来事。オリサは早くもルルが恋しくなっているようだ。


「あー、それにしても毎日本読んでばっかりでつまんなーい」


 確かに、毎日同じようなことの繰り返しで面白みはない。


「そういえば、初日に畑の様子を見に行ったときに動物を飼う話もしたよな」


 もううろ覚えだが、たしかオリサが畑の近くに動物小屋を設置しようと言ったのに対し、リーフが何かアドバイスをしていたような。


「リーフは動物の飼育について詳しかったりするの?」


 牛について詳しかったし。


「馬は里でも飼っていましたから飼育方法を心得ています。他の動物は経験がないのですが」

「元の世界ではその機会はなかったと」

「はい。わたくしがいたエルフの森では移動手段の馬以外に家畜を飼う習慣がありませんでした。」


 そういえば、前にこの世界では馬は主要な交通手段じゃないと話したら驚いていたな。車の動かし方は俺しか知らないけど、馬なら彼女たちにも馴染みがありそうだ。


「馬、飼おうか」

「よろしいのですか!?」

「いいねぇ。馬がいてくれればあたし達も一人でお出かけができるよね」

「他には何を飼いますか?牛やヤギや鶏など?あと豚もいいですね。実はわたくし、野菜よりも動物のお世話の方がしてみたくて。でも、トールさんのお宅に厄介になる身としては、あまりわがままを言うべきではないと思って言わずにおりました。家畜を飼う以上、匂いの問題はもちろん、飼料を作るための労力も増えますし、皆さんに迷惑をかけてしまうのではないかと心配で心配で。しかしながら、しかしながらです!今回トールさんご自身より家畜を飼う提案があり、わたくし、今現在、天にも昇る想いでおります。そうだ!オリサさんが農業大臣ならば、飼育大臣には僭越ながら不肖、わたくし、エルフのリーフめを任命してはいただけませんか。必ずや、すこやかに育ててみせると誓います。何卒なにとぞ、よろしくお願いいたします」


 リーフが一度にこんなに話したのは初めてかもしれないし、こんなにテンションが上がったのも初めてだ。


「もちろんいいよ。やる気がある人がやるべきだと思うし」

「ありがとうございます!話の途中ですみませんが、快哉かいさいを叫んでもよろしいですか?窓から外に向けてですので。ちょっと失礼いたします。ヒャッホゥ!今こそ我が世の春が参りましたっ!はい、失礼いたしました。スッキリしました」


 お前本当にリーフか?


「とこでさ、動物って生きてるのかなぁ?」


 オリサが突然、当然のことを言い出した。そりゃあ『生きている物』と書いて『生物』だろう。不思議ちゃんめ。


「というと?」

「だってさぁ、家畜って世話をする人がいなきゃご飯食べられないよね?」

「あ」

「そ、そうですね」


 この世界から人が消えて、十日か二週間程度だろうか。俺たちは行動を起こすのが遅すぎたかもしれない。オリサだけがそれに気づいたようだ。

 さっすが知恵者のオリサちゃんだぜ!


「やばいかも」

「だよねぇ」

「ですね……」


 何も行動しないのが一番良くない。幸いにしてこの市内には乗馬クラブがあるから、とりあえずそこに向けて車を走らせることにした。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・


元ネタ集


・「四時のお茶の時間」「リーフ作の種入りケーキ」

 言わずとしれた名作『ホビット』より。

 『お茶は4時。とはいえ、いついらっしゃってもあなた方なら大歓迎ですとも!』


・「我が世の春が参りましたっ!」

 ∀ガンダムのラスボス、ギム・ギンガナムの台詞より。

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