「ルルの赤い手」part5
「願い?」
「どこか別の世界に行きたい。わたしのことを知っている者が、いや、ドワーフ自体がいない世界に行きたい。叶わぬ願いと知りながら、毎晩寝る前に自然とそう考えていた。家族は優しかった。味方になってくれる友人だっていた。だが村にいるのも辛かったしな。親は陰口を言われても毅然としていた。弟や幼馴染は私のために心無い連中に対して日々怒ってくれていた。嬉しかった反面で彼らにそうさせるのもまた心のどこかで
そう言って、ルルは力なく笑った。
「確かに願いは叶った。この世界にはドワーフはわたしだけ。わたしを笑ったり不気味に思うものはいない」
「ルルより小さいやつもいない」
「小さい言うな!」
そう反論しながら、ルルは笑ってくれた。
「……なあ、あの、弟さんとか幼馴染さんとか、あと親御さんはお前がここに来るの反対しなかった?」
「した。……お前が気にすることじゃないからな。わたしの意思で来たのに、妙な責任感を燃やすなよ。迷惑だ」
頭に浮かんだ不安が一瞬で吹き飛ばされた。そこまで読まれるとは思わなかった。
「反対されたが、自分を試してみたかったんだ。『私がいると迷惑がかかる』なんて綺麗なことは言わん。家族に二度と会えなくなろうとも、異世界とやらに飛び込み自分に何ができるのか模索したかった。単純にそれだけだ。まぁ、でも……、お前はいいやつだ。リーフもオリサも一緒にいて嫌なことがなにもない。だからこそ金属に好かれる、金属と会話のできるドワーフとして、役に立てる身の上でお前たちに会いたかった」
「そんなん気にすんなよ」
「え?」
「お前の世界ではドワーフは金属の加工が得意な種族かもしれないけど、ルルは料理とか裁縫とか畑仕事とか、別のことが得意なドワーフでもいいんじゃないのか?」
「失望しないのか?」
「ぜんぜん。あ、今更だけど、作業中にこの物置に入るなって言ったのはそれが理由か」
「そうだ」
「俺たちがそんなの気にすると思うか?オリサなんか走り回って飯食って寝ての繰り返しで、ぜんぜん魔法使いっぽくないぞ」
「お前は案外無礼なやつだな。だが、その通りだ」
立ち上がったルルにはもう不安も迷いもない様子だった。
「できないことを嘆いていても仕方がない」
「そうだ。ドワーフとエルフと魔法使いに挟まれる、特徴なんて何もない俺が実は一番悲惨なんだぞ」
「はは、そうだな。そうだ、できることを増やせばいいんだ。わたしはわたしだ。世にも珍しい、金属加工は不得手なドワーフだ」
そう言ってルルは笑顔を向けてくれた。出会ってから一番の笑顔だった。今日は一日で彼女のいろいろな顔を見た。
「腹が減ったな。すっかり暗くなってしまった。帰ろうか」
「そうだな。お前は昼飯も食ってないし、夕飯にしよう。いい機会だし、一緒に料理するか?」
「包丁か。斧以外の刃物は苦手だったが、克服するいい機会だな」
「その意気だ」
俺たちは、どこか暖かな気持ちで物置を後にした。
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