「ルルの赤い手」part2
「よく寝てるな」
時刻は午後三時すぎ。昼食をとり、午後の勉強に疲れて爆睡中のリーフとオリサに毛布を掛けてやり、俺はリビングを出ようとした。
「んー、もう食べられないよぅ」
「え」
急に喋ったと思ったら何事もなかったように寝息をたてるオリサ。ギャグ漫画のような寝言だ。起きているのかと思ったが、どうやら本当に寝言だったようだ。なにか音を立てて彼女たちを起こしても悪いし俺は散歩にでも行こうか。
「いい子ね。覚悟なさい」
「え」
今のはリーフの声だったが、内容は普段の彼女からかけ離れたものだった。楽しそうに何かを追い詰めていたようだが、いったいどんな夢を見ているのだろうか。
気になるがこれ以上の寝言は聞きたくなかったので俺はそそくさとリビングを後にした。
・・・・・・・・・・・・
「うわぁぁぁぁっ!」
どこへ行くか考えながら物置を通り過ぎようとしたそのとき、叫び声が
仲間の異常を察知し俺は反射的に駆け出していた。この中ではルルが朝から作業をしているはずなのだ。
「ルル!大丈夫か!」
扉を開けた俺の目に飛び込んできたのは、辺り一面に散乱する
「おい、ルル!」
怪我でもしたのか?ただでさえ小さな彼女の身体が一層小さく感じられた。駆け寄って顔を覗き込むも、彼女は目を閉じすすり泣いている。
「ルル!おい、ルル!」
「トール……?」
肩を掴み声をかける俺にやっと気づいたのだろう、ルルは驚きとも悲しみとも取れる顔をしてからばつが悪そうにうつむいてしまった。
「なぜ……、入ってきた」
「なぜって、たまたま物置の前を歩いてたらルルの叫び声が聞こえて、すごい物音がしたから。心配になったんだよ。大丈夫か?」
「も、問題ない」
「何があったんだ?」
彼女は俺の手を振り払って立ち上がり背を向けた。一瞬だけ掌に視線を送り、すぐさま床に落ちていたグローブに手を伸ばす。グローブをつける前になにか掌を擦り合わせる揉み手のような動きをしていたのが妙に印象に残った。
「ど……」
「ど?」
「ドラゴンが出たから戦っていた」
いるはずがない。オリサが戦ったことになっているドラゴンはオリサ自身が気合を入れすぎて生み出してしまった幻だ。
相変わらず騙されている様に思わず吹き出してしまう。
「お前、嘘が下手だな」
「わ、笑うな!」
こちらに振り向いて怒るルルだが、元気が無いのは火を見るよりも明らかだ。
「なぁ、ルル。何があったんだ?俺でも何か役に立てるかもしれないぞ」
「どうせどうにもならん。わたしは無能だ、役たたずだ」
吐き捨てるようにつぶやき、また俺に背を向けてしまった。どうしたものだろうか。
「どうしたんだ」
返事はない。
「一緒に頑張る仲間なんだし、俺の世界とルルの世界は別物だから常識も違う。ルルが今悩んでることがもしかしたら俺には解決できるかもしれない。ほら、俺たちは違うことだらけだろ」
彼女の背中からは『関わらないでくれ』という無言の圧力を感じた。余計なお世話だろうしお節介な自覚はあるが、何か彼女の役に立ちたいという思いで俺の胸はいっぱいだった。そのためには、まず彼女が抱える問題を教えてもらわなければ。どうすればいい。今はまだ俺の話を聞いてくれているから、なんとか会話の糸口を掴めれば……。
「あー、例えば」
とにかく話し続けろ。
「んー、そうだな」
何か彼女の心を開くきっかけになる言葉を。
「えーと」
何でもいい、絞り出せ。
「俺とドワーフの違い!ドワーフはトイレに行かないらしいが、俺は毎日何度も行く!」
瞬間、ルルが大きく身体を震わせ吹き出す。手応えありだ。
「ふふ、お前は馬鹿だな。本当に馬鹿だ」
穏やかな顔で再びこちらに振り返ったルルの顔は、どこかスッキリした顔だった。
「……ありがとう」
そう言って涙を拭うと俺に近づいてきた。
「そうだな……。そこまで言うなら聞いてもらおうか」
「おう」
・・・・・・・・・・・・
「トール……。ここでのことは……、あの二人には言わないでくれ。お願いだ」
「本当は俺に言うのもためらってたことだろ。言わないよ」
不安と安堵が複雑に混じった目で、まっすぐに俺を見つめながらルルはつぶやいた。
「ありがとう……」
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