「『常盤色のオリサ』と黒龍」part7
「んんんっ!ふぃ~」
コンビニから出て駐車場で大きく伸びをする。単に食事しただけなのに案外疲れたな。思っていたより休憩にならなかった。
三人がこの世界に慣れてくれるまでは質問攻めが続くのを覚悟しておこう。まだ彼女達がこの世界に来て半日だし。
「ねえ、トール」
ほれ来た。
早速次の質問だ。疲れはしたが、彼女たちには珍しいものばかりなのだから顔と態度に出ないようにしないと。
「どうした?」
「あの大きい建物も何かのお店?」
オリサの指差す先を辿るとそこには大きなホームセンターがあった。田舎のホームセンターはデカい!……らしい。都会のホームセンターと比べたことがないから話に聞いたことでしか知らないけど。
「あれね。あれはホームセンターって言って、建築とか家庭菜園とか……ん?」
あれ?ホームセンター?
「菜園って、お野菜?」
ホームセンターってことは、あそこに行けば種も苗も肥料も道具も手に入るってことじゃないか?いい所にいい施設があるじゃないか。
オリサ、でかした!新しい質問に少し面倒とか思ってごめん。
「あそこは農業に関するものをいろいろ売ってる店だ。ここにあるのをすっかり忘れてたけど、あそこなら俺たちに必要な物がかなり揃いそうだ。行ってみよう!」
農業高校へ行ってからどうしたものかと思っていたが、これは助かるぞ。
「な、なんか楽しそうだね」
「行けばわかるさ」
いろいろ売ってるホームセンターは見てるだけでテンション上がるんだよなぁ。彼女たちもそうだといいけど。
果たして、三人も俺と同様に広く商品豊富な店内に興奮した様子だった。
ルルは『ここまで大きな店は想像していなかった』と仰天していた。野菜の種や苗、家庭菜園の書籍やカタログなどの役立ちそうなものも多く見つかり、今日は農業高校へは行かずにホームセンターの散策をして帰宅と相成った。本格的な荷物の運搬はまた後日ということで。
ただしここでもやはり質問攻めに遭い、終盤は三人で店内を歩かせて俺は座って休憩させてもらったのだが。
今日という日はイベントが多すぎて疲れた。
・・・・・・・・・・・・・・・・
部屋の割り振りを決め、夕飯まで少し休憩としてリビングでお茶をすすっていたらリーフに声をかけられた。
「トールさん、陽が傾いてきたので
確かにもう少ししたら暗くなる時間か。それにしても、しょくだい?しゅくだい?なんだそれは。
「あの、ごめん。『しょく?だい?』ってなんだろう?」
俺の返答を聞いた途端、リーフが眉を
「え?ああ、失礼しました」
即座に平時の穏やかな表情に戻る。俺の質問は最初から一貫して礼儀正しいリーフをもってしても眉間に皺を寄せてしまうようなことなのだろう。
「あの、燭台というのは
あー、蝋燭立て!
野獣のお城で言うとアイツか、ベルをもてなしてくれた歌と踊りが好きなアイツ。いい声で『ようこそ、お客様!』って言う感じの。仏壇に置いてある蝋燭立てでもいいのかな?
あれ?そもそも周りを明るくするのが目的なら、ロウソクじゃなくてもいいんじゃないか?
「あの、ロウソクじゃないけど灯りはあるよ。ほら」
そう言って壁のボタンを押すとリビング全体が明るく照らされる。
「これは!驚きました。天井に蝋燭が?いえ、でも揺れていませんし火の色ではありませんね?これはいったい?」
「あれ?昼間コンビニとかで見てなかったっけ?電気っていうもので……、えーと『電気』は、あのぉ」
そこまで話して説明に困ってしまった。電気とは何なのかを他人に解説したことが今まで一度もない。どう説明すればいいんだ?
「なるほど、理解いたしました」
あれ、何か伝わった。
「トールさんも魔法が使えるのですね!『デンキ』の魔法使いですか」
違う違う違う!
説明に
「あの、そうじゃなくてね」
「みなさん、どちらですか!?見てご覧なさい、オリサさん!ルルさん!こんなに美しい魔法ですよ!」
なんか今の台詞聞いたことあるぞ。
「リーフ、あの、そうじゃないんだ」
「どうした?大きな声を出して」
「魔法って言ってたけど、どうしたの?あたし何もしてないよ」
「こちらをご覧ください。蝋燭ではないそうです。トールさんの『デンキ』の魔法だそうです!」
「魔法!?トールも魔法使いなの!?」
あー、すっげぇめんどくせぇことになってきたぞ。
・・・・・・・・・・・・
元ネタ集
・「見てご覧なさい~こんなに美しい魔法ですよ!」
アニメ『ドラゴンボールZ たったひとりの最終決戦』終盤のフリーザ様の台詞より。
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