「『常盤色のオリサ』と黒龍」part6

「トール、お疲れさま」

「はいよ。入ろうか」


 朝から二度も入っているので、さすがにもうコンビニに目新しさはないのだろう。三人ともスタスタと弁当コーナーへと進んで行った。

 朝は冷蔵庫にも冷凍庫にも飲み物の保温容器にも興奮した様子でしんどかったけど、流石に落ち着いたもんだ。先程の自動車もそうだったけど、今後しばらくは『あれ何?』『これ何?』に答え続けることになるんだろうな。覚悟しておこう。


「今更だけど、みんな食べられないものとかない?辛いものとか、肉とか酒とか」


 ルルはガバガバ酒飲んでるしリーフも肉を食べているのを見たから今更だが、宗教的にムリなものもあるかもしれないし。


「特にありません」


 だよね。


「あたしもないから大丈夫!」


 良かった。


「いま挙げたものは全部好物だ」


 まぁ知ってるけど。


「辛いものか……うむ、そうだな。せっかくなら辛いものがいいな。どれがいいだろうか?」


 辛いもの好きなのか。弁当コーナーにあるもので良さげなのは……麻婆豆腐とかどうだろう。『シビ辛』とか書いてあるし。


「これは?ご飯の上に麻婆豆腐っていう少し辛い料理が乗ってるやつ」

「ならそれにしよう」


 俺の手にある四角いパッケージを受け取ろうとするが、俺はそれを制する。電子レンジはカウンターの中だな。


「温めるからちょっと待ってろ。えーと、何分だ?」


 レジカウンターに入っていくのももう躊躇ちゅうちょはない。ずいぶんアッサリ慣れたものだ。指定の時間に合わせボタンを押して、これでよし。


「動きが止まって音が鳴ったら取り出して食べられるぞ」

「トール!これは何だ!何が起きている!」


 めんどくせぇぇぇ!


「食べ物を温めてくれるステキ機械……」

「『ステキキカイ』というのか。ふーむ、面白い。中を調べたいものが増えてしまった」


 めんどいから当分は『ステキキカイ』でいいや。


「そこの奥に食べるスペースあるから、温まったら先に食べてていいんで。はい、スプーン。飲み物は好きに取ってきてな」

「わかった」


 さて、他の二人はどうしているのか。



 リーフは弁当を二つ手に持ち悩んでいる様子。どんな料理かわからないのだろうか。


「大丈夫?何かわからないことがあれば教えるよ」

「ああ、すみません。どちらにしようか悩んでおりまして」


 リーフが持つ弁当箱を覗き込んだ。

『大盛り焼肉弁当』と『チキン南蛮弁当』。ハイカロ系だな。背が高いとはいえ細身のこの体で食べられるのだろうか。残してもいいとは思うけど。どうアドバイスをすればいいものかわからん。


「決めました。二つともいただいてしまいましょう」


 嘘だろ!その二つを?一気に?俺でも重いぞ。胃もたれ不可避。カロリー大丈夫か?

 この世界に移動する前に激しく運動してたのか?ラグビーとか柔道とか。部活終わり?そんな雰囲気はないけど。


「すみませんが、ルルさんがお使いの『ステキキカイ』の使い方を教えていただけますか?」


 俺のテキトーな命名をしっかり聞いていたらしい。


「あ、ああ。もちろん」

「ふふ、楽しみです」


 マジで食べる気だ。エルフは見かけによらないもんだなぁ。



 オリサはかごを持ってデザートコーナーにいた。


「何か気になるものはあったか?」

「この辺りは気になるものだらけだよ!あーもう、全部食べちゃいたいなぁ。うー、なやむー」


 甘いもの好きなんだな。籠の中にはレタスのサンドイッチとサラダが入っている。野菜メイン!ヘルシーだな。デザートもガンガン食べるっぽいけど。


「よし、トール!トールが好きなものってどれ!?それにする!」

「お、おう。俺が好きなものかぁ」


 難しいなぁ。和菓子が好きだから、おはぎかな。常温商品の棚から取ってきてオリサに渡す。


「どうぞ」

「ありがと!他には?」


 あれ、悩んでたからどれか一つなのかと思った。


「まだまだ食べたいの?」

「うん、甘いの好きだから!」


 満面の笑みで返された。三人とも個性強めだなぁ。


 ・・・・・・・・・・・・


「ルル、どうだ?辛すぎない?」

「いや、それがあまり辛くない。調味料のところにあった七味唐辛子しちみとうがらしなるものをかけたが、なんというかっぱくなるものの辛くはならないんだ。厳密には辛味を感じはするものの、まだまだというか……。まあ味そのものは悪くないが」


 料理が一面オレンジ色なのにそんなことが!?


 ・・・・・・・・・・・・


「トールさん、あの、大変申し上げにくいのですが……」


 食べきれないからちょっと食べてくれってことかい、お嬢さん。ほれ見たことか。男らしく全部受け入れてやるぜ。


「なんだね?」

「その器具の扱いを見せていただけませんか?二本の棒だけで器用に召し上がっているので驚いております」


 あれ、思ってた反応じゃない。


「あ、ホントだ。スプーン使わないの?」

「器用にハンバーグを切っていたのが大変印象に残りました。ああ、申し訳ございません。お食事の様子を見つめるなど不躾ぶしつけ極まりないことは重々承知なのですが……」

「いや、いいけどね。使ってみる?」

「その道具はまだあるのか?わたしも試してみたい!」


 その後レジから取ってきた割り箸で三人とも練習したが、オリサは早々にギブアップ。ルルも頑張ったが上手く扱えず無念のリタイア。リーフは一番長く練習したが、諦めてスプーンとフォークに戻していた。


「使えるようになるにはまだまだ精進しょうじんが必要ですが、この道具は大変おもしろいですね」

「気に入ってもらえてよかったよ」


 ちなみに二つの弁当は滞りなく全てリーフの胃に消えていった。想像以上の健啖家けんたんかっぷりに驚いた。


 ・・・・・・・・・・・・


「ねえ、トールの国ってすごく豊かなの?」

「なんだいきなり?」


 口の端にあんこを付けたオリサが尋ねてきた。


「んー、どうだろう?まあ先進国って言われてるわけだから、豊かなのかもしれないな。生活に特別困ったこともないし。どうして?」

「このお店、甘いものたくさんあったでしょ?国が豊かになるほど砂糖の消費量は増えるらしいから、この国って豊かなのかな?って」


 そういうものなのか。知らなかった。


「わたくしの世界でも同様に言いますね。では、わたくしも甘味をいただきましょうか」

「せっかくだし、わたしも行こう。オリサが美味そうに食べているとわたしも食べたくなる」

「シュークリームっていう丸いの取ってきて~」

「お前、まだ食うの!?」


 既におはぎ2個とプリンとヨーグルトを1パックずつ食べているのだが。

 これだけ食うのにへそ出しコーデって、相当自信がなければできないよな。


「あたしのお腹見つめてどうしたの?」

「ご、ごめん、なんでもない」


 ダメだ、セクハラになってしまう。


「なるほど、あたしのかわいいおヘソが気になっちゃったか」

「言ってねぇっす」


 この子と話しているといつもペースを握られているような気がする。

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