第0章「最後の一人の地球人」

「最後の一人の地球人」part1

 筆者前書き


 本作品は縦書きで表示すると多少読みやすくなるかと思います。画面右上にある「ぁあ」というボタンを押して、ビュワー設定の「縦読み」を選んでからお読みください。併せて背景色も「生成り」が比較的目が疲れにくいかと思います。もちろん、横書きや背景色の白がお好みの場合は、どうぞそのままご利用ください。

 お読みいただく方に操作をお願いし恐縮ですが「逆異世界転移物語」をお楽しみくださいませ。



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 新しい朝がきた。


『希望の朝だ』と強気なことは言えないけど、風邪をひいている様子もないし、いつもどおりの極めて普通の朝だ。大人はよく『いつもどおり』とか『普通』は良いことだと言うがよくわからない。

 そんなことを思いながら、おそらく普通の高校生の俺、はせとおるはまっすぐ伸びるサイクリングロードを歩いて最寄駅へ歩みを進めていた。サイクリングロードではあるが徒歩での移動が制限されているわけではなく最寄駅まで一直線。車の心配をせず歩くことができるので地域の人々に愛される便利な道だ。


「あー、静かだ」


 冬空に両手をまっすぐ伸ばし、アクビをしたばかりの口から目に映る景色の感想が自然と漏れ出た。その言葉通り、サイクリングロードを走る自転車はおろか、近くの県道を車が走っている気配もない。

 二月のはじめ、過疎が進んだ田舎道を行く。四月からはこの地元を離れ首都圏の大学に進学する予定なので、地元で過ごす時間もあと僅かだ。

 その前に一か月後には高校の卒業式もある。

 今は自由登校期間なので目的もなく高校がある県庁所在地の都市へと出かけていきブラブラ散歩をしたり、意味もなく高校に顔を出して顔なじみの先生とお喋りしたりといった日々。今日は映画でも見に行こうかと思っている。自宅の近辺には映画館もない。

 生まれ育った土地だからもちろん愛着はあるが、それにしても……。


「マジでなんも無いなぁ……」


 思わず声が出た。

 大学進学が決まり一人暮らしのためのアパートを探しに行ったとき、そこの近くのコンビニが誰でも知っている24時間営業のコンビニだったというだけで感動してしまった。この辺りのコンビニはたいてい夜11時頃には閉まってしまう。だからといって不便ということはない。そもそも、そんな時間に外を出歩くこと自体がまずありえないのだ。

 そんな考え事をしているうちに、最寄りの駅に着いた。時間の自由があるから朝のラッシュを避けたとはいえ、全く人がいない。無人駅だから駅員はそもそもいない。これが田舎だ。

 入場用の改札機にICカードを読み取らせ、ホームに出て時刻表を確認する。現在時刻は十時五分前。次の電車はピッタリ十時だからぼんやりしていればあっという間に来るだろう。冬真っ只中とはいえ、風がなければそこまで苦痛ではない。電車は一時間におよそ一本だから乗り損ねることがないよう早めに駅に来ることが習慣化している。

 俺はスマホを操作しつつベンチに腰掛け、電車が来るまでの暇つぶしがてら音楽を聞き始めた。イギリスの有名なロックバンドが好きでほぼ毎日そのバンドの曲を聞いているが、その中でも一番好きな曲のイントロが流れてきた。


 『僕がいなくなっても 同じように月は輝くよ 風は吹いているんだよ』


 歌詞の一部を日本語訳するとこんな感じだろうか。大半は英語なものの、サビは日本語で聞きやすかったのが好きになるきっかけだった。それに、改めて全体を聞くと本当にきれいな歌詞でそこにも惹かれた。

 どこかにいなくなりたいなどという願望があるわけではないが。



 このとき俺は本能的に孤独を感じていたのかもしれない。

 今思えば、道を歩いていて静かだと思ったのは俺が感じた最初の異変だった。


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 元ネタ集


 ・「新しい朝が来た。『希望の朝だ』」

 ご存知ラジオ体操の歌。

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