逆異世界転移物語 〜エルフ・ドワーフ・魔法使いと地球でゆるくぬるく暮らす物語〜

シンドー・ケンイチ

プロローグ

筆者前書き


 本作品は縦書きで表示すると多少読みやすくなるかと思います。画面右上にある「ぁあ」というボタンを押して、ビュワー設定の「縦書き」を選んでからお読みください。併せて背景色も「生成り」が比較的目が疲れにくいかと思います。もちろん、横書きや背景色の白がお好みの場合は、どうぞそのままご利用ください。

 お読みいただく方に操作をお願いし恐縮ですが「逆異世界転移物語」をお楽しみくださいませ。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 田舎道。

 寒風が身体を打つ中、田んぼと畑だけで街灯も電柱もほとんど見当たらない道を俺は歩いている。背中には一人の少女を背負って。

 一歩一歩踏み出すたびに『べっちゃべっちゃ』と音が出る。

 アスファルトスニーカーで踏みつけながら、田舎道歩き抜ける。


「トール、ごめんね……」

「大丈夫。オリサのせいじゃない」


 背中の少女、オリサは俺に力なく謝る。


「ルルちゃんにも、リーフちゃんにも、なんて言ったらいいかわかんない……」

「ドラゴンと戦って泥だらけになったんだ。それでいい」


 俺たちはいま自宅を目指して一歩一歩ゆっくりと歩いている。

 家ではルルとリーフ、二人の女性が俺たちの帰りを待っている。四人で住む自宅までもう少し。帰宅したらみんなで朝食だ。その前に風呂に入りたいけど。寒い。

 オリサを含め彼女たちは皆、人類ではない。

 ルルは栗色のくせ毛に俺の胸くらいの身長のドワーフ、リーフは目を見張るほどの長身と流れる黄金の髪を持つエルフ、そして背中の黒髪の少女、オリサは魔法使い。他の二人に比べるとオリサの容姿は人間の俺に近いのだが、今の姿じゃそう考えるのは無理な話だろう。

 いや、そもそも俺も人間には見えないはずだ。なにせ俺も彼女も今は全身泥だらけ。泥だらけの俺が泥だらけのオリサを背負っているので、遠目には畑から這い出てきた新生物が彷徨さまよっている恐怖映像にしか見えない。

 彼女たちが我が家に来てから、いや来る直前から地球規模でいろいろあったが、今朝の出来事は群を抜いてインパクトのあるイベントだった。


「ごめん、ごべん。ぐ、うう、ううううう……」

「大丈夫だから」


 もしこんな泥だらけのひどい姿を軽トラで通りかかったご近所さんに見られたら


はせさんとこの長男け?どうしたんで?早く風呂入んねぇと風邪引くど?」


 と、茨城弁全開で言われるに違いない。



 だが、今この世界に偶然通りかかる人などいない。見渡す限りの田畑と所々建つ家屋に人の気配などない。それは田舎だからというわけではなく、俺を残して人類そのものが消えてしまったからだ。

 これは単なる偶然で地球にただ一人残された人間の俺、トールことはせとおると異世界からやってきたオリサ、ルル、リーフという気のいい仲間たちの奮闘の物語である!


「うひゃあっ!」


 うなじに何かドロっとした物体が触れ、そのまま背中目指して服の中に流れ込んでいく。思わず悲鳴を上げてしまった。

 背負ったオリサの顔から涙と鼻水と涎のブレンドされた泥が落ちたらしい。


「う、うう。トール、ごめんね。ごべんね。うううう……」

「わかったわかった」

「ううう、うあああああ!!」


 奮闘の物語である。

 たぶんね。



・・・・・・・・・・・・



「ルルさん、それはわたくしが」

「すまんな。わたしじゃその高さは干せない」

「お気になさらず。あら?」

「ん?どうした、リーフ?」

「いま、オリサさんの声が聞こえた気がしまして」

「気づかなかった。もうすぐ帰宅か。ならさっさと干してしまおう」

「ええ、今日も素敵な一日になりそうですね」

「ああ、今日もいい天気だ」

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