兄と妹のπ難

「うひょわあああああああああ!!!」


 またあのバカの叫び声がした。

 今日の声は普段いつもより八割増くらいで気持ち悪い。兄の声はキモいのではなく、気持ち悪いのだ。


「つか、うひょわあーって何だよ。マジで気持ち悪いな…」


 思わず呟いた私の耳にドタドタとうるさい足音が近付いてきた。

 来やがった…

 兄が二階の自室から一階のリビングへと下りてきたのだ。

 転けろ!転けろ!転けろ!転けろ!頼むから転けろ!

 思わず祈っていた。出来ればここにたどり着く前にトラブルが発生してほしかった。

 別に私は兄の不幸を願っているわけではない。ただ一つの不安感があるだけだ。

 兄が叫び、私の下へ来る。

 このパターンにはいい思い出がない。

 かつて私の身に降りかかった二度の出来事は二度共に同一おなじパターンから始まったのだ。


「おい里美!聞いてくれ!大変なんだ!…ぐぼあっ!!」


「ああ!私は今まさに現在進行形で大変だよ変態!テメエ何で全裸なんだよ!見てるだけで寒いだろうが!もうチ○コ凍傷になって取れちまえ!」


 私は兄は服を着ているのを見たことがない。

 だが、外の気温が摂氏四度の今日、各部屋はともかく廊下は信じられないくらい寒い。そんな日に全裸で廊下を通って下りてくるのはバカとしか言い様がない。

 そしてムカつくことに兄のチ○コは私の歴代の彼氏の誰よりもデカイ。寒さで縮こまる様子が全くないのもぷん殴りたくなる。


「ち…違っ…いや全裸なのは間違いないけどそっちじゃなくて…くそ…チ○コ超いてえ…つか寧ろ熱い…ヒリヒリする…ぐおおお……」


 私の投げた冷めかけのトムヤムクンの汁がチ○コに掛かったらしい。

 ザマーミロだ。

 いくら室内とはいえ妹(一応は年頃の女)である私の前に毎度まいど々々まいど全裸で現れる変態にはいい薬だろう。


「…痛い痛い痛い…燃える…死ぬほどヒリヒリする…ねえこれチ○コあるか?ちゃんとあるか?もげてない?」


「あるっての。…つか、え?そんなに痛いの?大じょ…って、テメエふざけんな!カッチカチじゃねえか!?死ね!ぱっとお手軽に死ね!!クソドM野郎が!」


 悶える兄が手を離した股間には私の今の彼氏よりも遥かに広角度でそそったチ○コがあった。

 デカさに加えて角度まで備えているのが本当に腹が立つ。

 私は今すぐに兄のチ○コを切り落としてやりたい衝動に駆られたがそれよりも先にあるものが目についた。

 それは…


「ふぁいいいいいいいいいい!!?ななな、なんじゃそりゃああああああ!!?」


 私は思わず叫んでいた。

 チ○コがある股間から五十センチほど上、兄の胸にがあった。


「テメエそれなんだ!?何で男のテメエにモンローばりのデカチチがついてんだよ!!カップ数測定不能(AAA未満)の私への当て付けか!?乳首以外に高低差ナッシングとか言ってバカにするつもりか!?テメエそのチチどこで手に入れた!教えねえとそれぞ!!」


「もがないで!つか俺は知らんって!昼寝して起きたら自然とこうなってたんだって!」


「嘘つくなテメエ!昼寝してデカチチになんなら埼玉県民は胸で悩まねえんだよ!」


 とある調査によると埼玉県民(女性)の平均胸囲はダントツで都道府県最下位らしい。因みに私は埼玉県民ではない。


「マジなんだって!なんか窓の外が赤く光ったと思ったら即寝落ちして、そんで変な夢を見て起きたらこうなってたんだよ!つかメチャクチャやわっこいから触ってみ?」


「だから当て付けかっての!………でもまあちょっと触らせろ。…うっわナニコレ!やっわらか!吸い付く!密着感すごい!一生揉める!………ちっ!」


「うぎゃあああああああ!!!痛い痛い痛い痛い!もげるって!マジもげるって!お前握力60キロ近いんだからやめろって!痛い痛い痛い痛い!!!」


 昼寝して起きたら云々とわけのわからない話をしながら巨乳を見せびらかして触れと言う兄に無性に腹が立った私は握り潰してやるくらい思いっきり鷲掴みにした。

 兄は60キロと言ったがそれは中学のデータであり、現在いまの私の握力は右手が83キロ、左手が72キロだ。

 私は男でもそうそういない恵まれたその握力で偽物としか思えない兄のデカチチをもいでやろうと思ったが、どうやら兄の痛がり方からして偽物ではないらしい。

 どういう事だ?つかこれ大丈夫なのか?

 何があったか知らないが、男の胸にデカチチがある。しかもそいつはチ○コが規格外にデカイ。

 さしずめデカチチにデカチンを備えたダブルジェンダーモンスターと言ったところだろう。

 ………ふざけんな!


「いぎゃああああああああ!!!」


 ブヂュ…


 本気で握り潰してやろうとして力を込めた瞬間イヤな音がした。

 前に一度、調理実習の授業中に友達に唆されてリンゴを握り潰して周囲まわりの男共にドン引きされた事があるが、それとは似て非なる初体験の感触がてのひらに伝わってきた。


 


 直感的にそう感じ、私は瞼を閉じて現実から目を背けた。

 だが、その直後に聞こえた音が私を現実に引き戻した。


 プギャアアアアア!!!


「な、ナニ!?うわキモ!ナニこいつ!!?気持ち悪っ!!」


「うわっ!?なんか出てる!!緑のベタベタ出てる!!助けてくれ里美!!痛いの我慢するからそのままこれ引き千切ってくれ!!」


「ごめんマジ無理!!!自分でなんとか…って、ひいいいいいい!!!」


 私のてのひらの中にいるその物体は緑色のベタついた液体を全身(?)から噴き出しながら、谷間辺りについている口の様なモノから音を発していた。

 そいつの体液と思われるベタつく液体の粘度は凄まじく、私が手を引き剥がそうとしても強力なトリモチの様に引っ付き、私の手は兄の胸から離れなかった。


 プギャアアアアア!!!


 私が握り潰した兄のデカチチから再びその音が聞こえた。

 どうやら何らかの生命体が兄の胸に寄生していたらしい。

 これはあくまでも私の推論だが、兄の見た赤い光はその生命体を寄生させた黒幕が兄を拐った際に使用した何らかの作用があるエネルギーなのだろう…

 そんな事を考えながら私は自身の鼻を刺激するミントの匂いに二度とミントガムを喰わない事を心に誓った。

 てのひらに引っ付いて離れないそのベタつく液体の匂いは爽やかなミントの匂いだった。




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