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こうして、プロジェクト・フェニックスはようやく活動を開始した。インドネシアの工場でナノ粒子が量産され、放出が始まった。とは言え、結果が出るまでは数十年……下手すれば数百年の時間がかかるだろう。僕らは気温の推移を見守り、粉塵の降下の様子を調査した。事は概ね僕らの予想通りに進んでいるようだった。緩慢ではあるが、寒冷化の促進に歯止めがかかりつつあった。そして、その確証が得られた頃には、実に噴火から60年という時間が過ぎていた。
僕は90歳を迎えていた。ここまでやれば十分だろう。僕はようやく絵瑠沙が冷却を担当している冬眠室にやってきた。彼女との約束を果たすために。
ロボットの指示に従って準備を済ませ、貫頭衣タイプの冬眠着に着替えると、僕はカプセルに身を横たえる。カバーが下ろされ、入眠プロセスが開始される。入眠するまでは気温はそれほど低くない。が……クッションから背中に伝わる、妙に馴染みのある、温度。
ふいに、思い出す。
これは……絵瑠沙の体温だ。ひんやりとする中に伝わる、微かなぬくもり。
考えてみれば、ここは彼女の体内と言えるのかもしれない。そうか……何十年ぶりかで、僕は彼女に包まれているのだ。涙が零れ落ちる。
ただいま、絵瑠沙。ようやく会えたね。僕も随分な爺さんになっちまったが……
”おかえりなさい、あなた。よく頑張ったわね。これからはずっと一緒よ……”
意識が遠のく。夢うつつの中で、彼女の声が聞こえたような気がした。
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