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「!」


 にわかには信じられなかった。絵瑠沙が……人間じゃ、ない?


「冗談ならやめてくれ」


「冗談ではないわ」絵瑠沙は真顔のままで続ける。「一か月前に啓示があったの。そして私は思い出した。私は、余剰次元の知性体に作られたアンドロイド……いえ、トランスヒューマンと言うべきなのかもしれない」


 ……。


 これも普通なら到底信じられない話だ。だが、確かに彼女には人間離れした特殊能力がある。そして一か月前と言えば、彼女の態度がおかしくなったのもその頃だ。


「トランス……ヒューマン?」


「ええ。かつては確かに私も金石かないわ 絵瑠沙という人間だった。しかし小学生の頃、余剰次元の知性体との破壊的なコンタクトにより、私の肉体は消滅したの。そして、私の記憶とDNAを受け継いだ今の私を、余剰次元の知性体が作り上げた」


「余剰次元の知性体?」


「ええ。その辺りはあなたの方が詳しいでしょう?」


 ……。


 余剰次元というのは、今の3次元+時間の4次元時空とは別の次元軸方向を意味する。万物理論の有力な候補である超弦スーパーストリング理論でも登場するが……その余剰次元に、何らかの知性を持った存在がいる、ということなのか? もしそうだとしたら、それはおそらく我々とは比べ物にならない知識を有しているのではないか。


「君はその、余剰次元の知性体……とやらに作られた、人間の形をした……別なもの、ということなのか? だから特殊能力があるのか? だから……君とは子供が出来なかった……のか?」


 絵瑠沙はうなずくと、相変わらず無表情で淡々と話す。


「ええ。私は少なくとも、人間を模したもの、であることは確かね。私の細胞はオリジナルの細胞の機能をコピーした機械なの。と言っても、今の私を形作っている細胞にもオリジナルの私の DNA がプログラミングされているから、オリジナルのそれと同じように分裂し、新陳代謝も行われる。しかもオリジナルの細胞よりも効率的だし信号伝達速度も速い。病気になることもないし、人間にない特殊能力も操れる。でも……人間とは根本的に違う存在だから、人間と子供を作ることはできない」


「その……余剰次元の知性体とやらは、何のために君を作ったんだ?」


「三つ理由があるわ。一つは、人間というものを詳しく知るため。もう一つは……自分たちと人間とのインターフェースの役割を与えるため。そもそも彼らが用いている言語は二進数だから、そのままでは人間は理解できない。たぶんコンピュータの方が彼らと会話しやすいかもしれないわ」


 ……。


「そして、最後の一つは……このような状況が起こった時のため。晴男さん、私の物を冷やす能力の正体、分かった?」


「ああ。なんとなくは、ね」


「なんとなく?」


 僕は、今まで心の中で温めていた仮説を、とうとう口にした。


「もしかして……君は、『マクスウェルの悪魔』なんじゃないのか?」

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