Episode3:生徒として侵入しよう

 帝都──それは、このブレスリー帝国の中心である。人が入り乱れ、馬車を伴った商人だったり、旅人だったりが出入りし、交易も活発である。露店も多く立ち並んでおり、中には有名店も数多く存在する。



 そんな帝都に位置するノーラン学園(エリノアいわく、なんたら学園)。ここには優秀な平民の他、数多くの貴族の子弟が通っている。ここに通うものの多くは将来的に国を担う役職に就いたり、研究者の道を志す者もいる。



「よし……これで完璧ね」



 時刻は──丁度朝。姉が学園に行った時間帯。私は魔力マナ気力プラーナを操り、学園の制服を再現した。今日は──大胆に正面から、生徒として侵入するつもりである。授業の時は身を隠し、休み時間の間だけ紛れ込むつもりである。これで細かい情報を掴めるわ。



「ついでに我が姉の様子も見に行かないとね……」



 サブミッション、姉の観察である。友人とかコネとか作ってたら、私としては満足。ついでにお金の永久機関も作ってくれたらベストかもしれない。まあ、姉の幸せ第一だから、お金云々はいいわ。ほ、本当よ?



「よし……行こう」


 私は自室から出て、階段を降りる。我が家は二階建てなのだ。私は玄関に立ち靴を履き、そして──……ああ、忘れてた。
























「──お母さぁーん! ウィンドウショッピングしてくる!」


 

 リビングにいるであろう母に向けて私はそう叫ぶと、外へと駆け出した。



◇◆◇◆◇



「──代わり映えしないな」


 

 当たり前である。ただ言ってみたかっただけ──つまり、ハードボイルドである。私は学園に向かって歩いていた。足音は立てていない。日頃からの訓練は大事なのである。



「それにしても……」



 正面から侵入するのは──ありだろうか?  忍者的には裏から侵入したいところであるが──正面から堂々というのも悪くないと思う。なんというか……かっこいい。いつか正面から侵入せざるを得ない時が来るかもしれないし──練習しておくのも悪くない。



 なんて考えているが、実は理由が欲しいだけだったりする。正面から侵入する理由が。



 というわけで……正面から侵入することにした。



 その後もつらつらと余計なことを考えていると、学園の門が見えてきた。昨日とは違う警備が二人。内心ドキドキしつつも、門へと歩んでいく。警備の横を通る時、声をかけられる。



「早く教室に行かないと遅刻するぞ、学生さん」


「急げ」



 警備の二人は優しく声をかけてくれた。よし、いけるわ。ちょろっ。



「──……って、鞄はどうしたんだ?」


「……あれ、そういえばそうだな。忘れたのか?」



 ドキッ。……そういえば学生に鞄は付き物だった。やっば、どうしよう……ちょろかったはずなのに。警備員二人の目は鋭──くなかった。まだいけるっ、踏ん張るんだわっ。



「え、えっとぉ、鞄は──……」



 絞り出せ。超一流の言い訳なら私の得意分野。警備員の目つきが……変わってる。まずい。



「──鞄は、池にポチャしちゃったので……今は手元にありません」



 ──我ながら完璧(?)な言い訳ではないだろうか。これならきっとすぐに通してくれることだろう。



「──池? ポチャ? ここら辺に池なんてないはずなんだけど」


「ああ、そうだよな?」



 ──しまった。言葉遣いも色々やってしまった。よく考えたら、素直に忘れたと言った方が良かった。警備員の人も忘れたのか? とか聞いてきてたし。


「あ、あれです、私有地に池があって……そこにポ……落としてしまったので、教科書諸々今乾かしてる最中なんですよ。あはは……」



 公共の場になければ私有地。とりあえず私有地。さて……どう?



「……それは災難だったな」


「今日はいいことがあるといいな」



 警備員二人共私を慰めてくれた。……まあ、結果オーライだろう。……別に災難でもないけど。



「……そうですね」



 なんか、やるせない気持ちになった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

《忍者》に憧れた少女は、暗躍がしたい Mei @reifolen

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ