Episode2:右往左往

「学武祭の話しで持ちきりだね……どこもかしこも」


 右に行ったり左に行ったり──文字通り右往左往して入手した情報を総合すると、来週にがくぶさい──学武祭なるものがあるらしい。そこは学園内で武を競う場であり、己自身を確かめる場らしい。私の勘では学武祭は──匂う。恐らくだが、陰謀的なものが働くに違いない。



「よし、次は……こっちに行こう」



 排気口の中を進み続ける。ぶっちゃけ──迷子である。排気口、分岐点多すぎ問題。行く先々に分岐点があるせいで正直来た道も行ったことのある道も覚えていない。



「……ん? 何か聞こえる」



 《聴力強化》を使い、耳を澄ます。



「……あの件、どうします?」


「ううむ……しかし、皇帝陛下も見に来られる学武祭を安易に中止にするのもな……」


「生徒の安全を第一に考えるべきだと思いますが……」


「こうして文書も実際手元に送られてきてる訳ですし……」


「しかし、伝統ある学武祭を中止にするというのも、我が学園の威厳に関わりますぞ」



 ──だから、あの件って何!? 迂遠だよ、言い回しが! あの方とかあれとかこれとかかんとか……まあ、文書がどうのこうのは分かったけど……皇帝陛下も見に来るんだね。



「なるほどね──何かが、起こる」



 ハードボイルドを気取って言った。その後も会話を聞いてたけど、結局新しい情報は掴めなかった。



◇◆◇◆◇



 ……解せぬ。


 昨日私は怒られた。母に。なんと、学園に潜入してから四時間が経過していたのだ。というのも────



『あれ? ここだっけ?』



 中々出口にたどり着かなかったのだ。まあ、最悪、《すり抜け》で空き教室に行って脱出でも良かったのだが。そもそも教室に人がいたり、空き教室もあったが、周りに人がいて《すり抜け》使ってもどうにもならないやつだったり……散々だった。母には、ちょっと散歩行ってくるー! 的なノリで出てきたから、帰ったら「こんな長い時間一人でどこ行ってたの!」と叱られた。帝都の治安も比較的落ち着いているが、それでも危険はある。心配だったのだろう。私ももう十三歳なのに……まあ、悪漢の一人や二人、ミジンコだけどね!



「昨日わかったことを改めて整理してみよう……」



 私は家の自室で真剣な顔で考えていた。昨日わかったこと──あの方とあれと文書と皇帝陛下、以上。



「──匂う」



 ……全部推定だけど、恐らく文書は怪文書だろう。皇帝陛下が来るんだし、命でも狙ってるに違いない。学武祭を中止にしないと皇帝陛下を殺す──こんな感じのはずだ。そこを私が颯爽と助け、「お、お前は何者だ……?」的に問われ、何も言わず去っていく……いい感じだ……! いや、「貴様が知る必要はない……」もありかもしれない。皇帝陛下に不敬かもしれないが、ありよりのあり。そもそも不法侵入? ──憧れの前に法は破れるのよ。



「──腕がなるわね」



 闇の組織が暗躍するかはわからないが──学武祭、非常に楽しみである。

 



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