嘆きの場とお説教

叫び終わる前に、パッとまた視界が変わる。


死神さんの言う通り、真っ暗だった。


でも不思議と怖くはない。むしろ穏やかな気持ち。と思ったら、今度はたくさんの感情が襲ってくる。


私これからどうなるんだろう。


あの人とお仕事したい。


私なんかにはできない。


私はやればできる子。


なんで行けなかったんだろう。


行かなくてよかった。


否定する声肯定する声、うるさいくらい頭に響く。



なんだかとてつもなく叫びたくなった。


けれど声は出せなくて、溢れる感情の行き場がなくて押しつぶされそう。


怖い?楽しい?不安?嬉しい?辛い?


幸せ?


プツリと、なにか切れた。


声が出せる、体が動かせる。


目を押しつぶして、頭を抱えて、髪を引っ張って、体を引っ掻いて、涙を流して。


叫んで、叫んで、叫んで。


怖いと、嫌だと、無理だと、出来ないと、生きたくないと。


でもやりたいと。


あの人と仕事がしたい。酒が飲みたい。諦めたくない。


矛盾しまくりのわがままだけど。



「生きたい!!」



そう大きな声で叫んだ。


「お疲れ様です」


「はっ?」


パッと、真っ暗な中な場所は真っ白に変わって死神さんが現れた。


「それがあなたの本音です。あなたは生きたいんです」


「あー、はは、そうみたいです」


なんだか苦笑してしまう。死にたいと、もう死ぬしかないと思って行動を起こしたのに、結局これ。なにやってんだ私。



「これでようやく言えますね。…私、ずっとあなたに説教したいことがあったんで」


「な、なによ」


「あなたは逃げに頼りすぎています」


「…はぁ?」


「たしかに、逃げることは別に悪いことではありません。動物にとって必要なことです。でも、死という最大の逃げに頼ったら、もうそれで終わりなんです。なにも戻ってこないんです。やり直すことも出来ないんです。やり直したいとも、思えなくなるんです」


変わらない無表情だけれど、強い感情が奥にあるような話し方。クレッシェンドがついているみたいに、どんどん強くなる。



「逃げるが勝ちなんて言葉は、生きている人しか言っちゃだめです。生きて、またやり直そうとしている人しか言っちゃ駄目なんです。死んで勝ちなんてことある訳ない、死んだら負けです」


「そ、だね」


聞いてるだけなのに、涙が出ていた。理由なんてことを考える必要、今はない。



「…あなたがどれだけ下を向いて希望を捨て闇を吐き、世界を憎んだとしても。晴れた時には太陽が輝き、雨が降った時は太陽は輝きません」


「…?何が言いたいの」


「輝く時は勝手に輝くし輝かない時は輝かない。まあ、なるようになるってことです」


「意味わかんない」


「意味分からないのが世の中ってもんです」


「はは、なにそれ」


ボロボロと流れる涙をとめようとは思わなくて。この綺麗だと思える感情から出た生ぬるい雫が頬を滑る感覚は、嫌いじゃない。



「でも私もう死んじゃったんだよね、」


「いえ、まだ死んでいません」


「?それどういう、」


「私が話しかけたタイミングを覚えていませんか?」


「落ちてる途中、だっけ?」


「そうです。時間はそこで止まっています。つまり、まだ落ちてない。あなたは死んでいないのです」


そう言い切ると、死神さんは電話でどこかに連絡して、また私の方を見た。



「あなたを生かすことが決定しました」


「えっいいの!?」


「はい。あなたは道端に死んでいるミミズがいたら90%の確率で土に埋める、という行為をしていました。それが神様に認められたのです」


「お、おぉ…世の中色々やっとくものだね」


「私は元の世界に戻れば周りの人には見えなくなり、霊体化します。ちゃんと傍にいるのでご安心を。サポートはまかせてください」


「頼みます、ありがとう」



「では早速元の世界にかえりますよ。涙を拭いてください」


「あ、うん」


言われるまま目元を拭い、心の中で今までのミミズに感謝の意を伝える。



「では」


「うん」


今度こそ自分らしく、夢を叶えるために。


生きましょう。



「あ、落下してる途中なんで心臓ふわっとしますけど、ジェットコースターだと思ってください」


「えっ、いや私さっきはノリで大丈夫だったねどほんとは絶叫系苦手で、ちょまって話きいてちょねえ!!?!?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る