楽園時代

パッと、視界に映る世界が変わる。一瞬で。


無視されたことを咎めるなんてことが出来なくなるほど、心に余裕がなくなるような現象。


「ここって……」


「あなたの通っていた小学校です」


パチパチと目を瞬かせる。


校庭に設置された遊具。ブランコは乗れないように固定されている。近くの砂場やすべり台、鉄棒には子供たちがたくさん。きゃいきゃいと楽しそうな声が響く。



「あの子、あなたですよね?」


指さされた方を見る。肩につかないほどのボサボサな髪の毛にふりふりの可愛らしい服というミスマッチな格好。ニコニコ笑って友人たちと砂場で遊んでいる。


間違いない、小学二年生、七歳の頃の私だ。


「あれ、何してるんです?」


「…落とし穴」


「おとしあな?」


「そう。落とし穴掘ってんの。先生を落として遊ぶのが、あの頃の楽しみ」


「やんちゃだったんですね」


「…よく言えばね。先生からしたら迷惑だっただろうな〜」


「でも本当は?」


「ふふ、ちょ〜楽しかったぁ♡」


「なかなかですね」


「クズだって言いたいの?」


「いえ別に」


無表情のままノートになにかを書き記す死神さん。もしかしたら発言に気をつけないといけないのかもしれない。天国行き地獄行きかの判断材料にされるとしたら、今の発言絶対地獄行き決定のものだ。


「私のノートにそんな大それた意味はありませんよ」


「えっ、あそっか。心読まれてるんでしたね」


「はい。読みたくなくても読めちゃいます。で、このノートですが、私の趣味なだけなので。気にしないでください」


はい、と言えるほど気持ちのいいものではないから、何も答えなかった。自分の発言全部記録されるのは、後々マイナスなことにしかならない気がして。



「この頃なにか嫌なことはありましたか?」


「んー、ないかな。当時すっごい嫌だったことは今考えたら子供らしくて可愛いし。なんだかんだ毎日楽しかったからね」


そうだ、大きな嫌なことはなかった気がする。クラスメイトに無視されても砂をかけられても持ち前の図太い性格のおかげが、全く気にならなかった。今考えても特になにも思わない。


なにより、誰もあれをいじめだと思っていなかったから。



「分かりました。では次にいきましょう」


「次って?」


「中学時代です。いきましょう」


「ちょ、ちょっとまって」


「はい?」


「中学はー、ほら、飛ばさない?」


「いいえ。いきますよ」


「いやいやいや、ちょまって、ちょまってってえええええ!!!」

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