走馬灯の旅

ひらた

雑な出会い

午後2時。


みんなが学校で勉強をしているこの時間。私はひとり屋上にいる。一つ階を降りればクラスメイトがいるけれど、ここに人がくることはない。


私はこれから、ここから飛び降りて死ぬ。


もうすでにフェンスは超えている。あとは、ここから一歩前に進み身を投げ出すだけ。


ヒュウヒュウと流れる風が冷たい。


「ふぅ…」


息をひとつ吐き出し、真っ直ぐ前を見つめる。


今日は天気がいい。雲ひとつ無い晴天だ。


ちらりと下を見ると、裏庭が見える。


普段の裏庭と全く違うような印象を覚え、やっぱり高いんだなぁと背筋がぞくりとする。


でもそんな恐怖心よりも、同時にきたわくわくの方が勝ってしまって。


今からあの雑草だらけの地面に綺麗な真っ赤な花が咲くのだ。自分で見れないのが惜しい。


「ふふ」


そんなことを考えていたら、小さな笑みがもれていた。


さっきまでの妙な緊張も解け、なんだか穏やかな気持ち。



「さよーなら!」


小学生の挨拶のように大きな声を出してから、空に身を投げた。



空を見上げながら落ちていく。


思いのほか落下速度がゆっくりに感じる。大嫌いな浮遊感すらも心地よく、訪れるであろう衝撃を待ちながら澄んだ空を見つめる。


「こんにちは」


「っ!?」


視界いっぱいに、女の子?が映った。


驚いてすぐ、私は地面の上に立っていた。


………立っていた?


「いやぁ、突然すみませんね。じゃあお願いします」


「はっ?いや、え、なにだれ?どゆこと?私なんで死んでないの?立ってる??」


「まあまあ落ち着いて。深呼吸してください」


目の前に現れた女の子?に促されるまま深呼吸して状況を確認する。


飛び降りて空中から綺麗な空を見ていたはずの私は、なぜか今真っ白な世界にいる。どこを見ても白。物も置いてなくて、部屋という感じではない。


目の前の子は無表情のまま佇んでいる。中性的な顔立ちで、性別が分からない。ザ・死神、みたいなコスプレをしている。個人的に顔が好み。



しばらく何回か大きく呼吸したら、ここがどことか目の前にいる子が誰とか、少しどうでもよくなった。私の神経図太いの性格が役に立った。



「あなたにはこれから、走馬灯を見てもらいます」


「走馬灯って、勝手に見れるものじゃないの?」


「いいえ。私たち死神が管理し見せています」


「えっほんとに死神なの!?」


「そうです。気軽にしーちゃんとでも呼んでください」


「いやそれは嫌だけど…」


しーちゃん…会った?時から性別がよく分からなかったけれど、女の子、かな。


「性別不詳です」


「え?」


「男でも女でもありません。性別不詳です」


「あ、そうなの。……え?」


考えてたこと、バレてる…?


「そりゃあ死神ですからね。心の中くらい読めますよ」


「あーえー、なるほど。さすが。はは」


死神ってすごい、うわ、厄介だな。あ、こういうのも読まれるのか。


……なんだか恥ずかしいから、私はすぐに思考回路というものを捨てた。



「私たちのいう走馬灯とは簡単にいうと過去の映像記録です。過去に幽霊的な存在として入り込み、自分を第三者目線で見てもらい、その時の心境や今考えたらどうか等をお話してもらいます」


「…それって必ずやらないといけないものなんですか?」


「はい。これをやっていただかなければ黄泉の国には連れて行けません」


「へぇー…」


すっごく嫌だと思った。


自分の過去を自分で見て、その心境を赤の他人に言う?嫌すぎる。普通に。誰だって嫌だろ。


チラリと死神さんを見る。思考が読めるのならば私が今これだけ嫌がっているのも伝わっているはず。


「えーと、まずは小学生時代ですか。それじゃあ早速いきましょう」


「え、どこに?」


「過去です」


「はっ?ちょまって、ちょ、わああああ!!」

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