第17話
僕はまんじりともせず夜明けを迎えようとしていた。
夕べのはるおみからの電話が耳について離れない。
「…プロポーズしました…挨拶に行きます…」
どうしてこんなことになったのかを考えている時間などなかった。
旅行日程通りなら、明日には二人が帰ってくるはずだ。
今日中にまゆを見つけ出さないといけないのに、焦る気持ちばかりが先走る。
「『まゆの願いが叶う場所』っていったいどこなんだよ。」
僕はいら立ちを隠せず、たばこに火をつける。
「願い?そもそもまゆの願いっていったい…」
そんなの全然心当たりがなくって、頭がパンクしそうだった。
まゆは一緒に出かけると大抵、
「楽しかった、また連れてきてね。」
なんてたわいもないお願いをしていたから。
でもその程度の事でないことぐらいは僕にだってわかっていた。
「…きっととても大事な事なのになんでわからないんだ、お前は。」
自分の不甲斐なさに半ばあきれるものの、はいそうですかと答えが出るはずもなかった。
僕は、全く口をつけずただ燃えていただけのたばこの火を消す。
ともすると諦めて考えることを放棄しようとする思考を懸命に繋ぎとめるが、憔悴してしまった僕はソファに身体を投げ出した。
ふわり、カーテンが優しく揺れる。
一陣の風を感じ、僕は顔を挙げた。
夕べから窓を開けたままだった事をすっかり忘れてしまっていた。
億劫に思いながらも立ち上がり、窓を閉めようと手をかける。
ふと空を見上げると、夜に置いて行かれたようにまだ月がそこにいた。
「ああ、そういえば昨日は満月だったっけ…」
月の光に導かれるように、僕の中のぼんやりとした記憶が蘇る。
そういえば、まゆと初めて朝を迎えた日も満月だった。
僕はまるであの日に戻ったかのように、一人物思いにふけってしまった。
どれくらいそうしていただろう、ふいに頭の中で幼い女の子の声が僕に呼び掛けるように響いた。
「…約束よ…かずき君のお姫様はまゆだからね…」
僕はハッとする。
突然、霧が晴れるように目の前がクリアになった気がした。
「間違いない、絶対間違いない。」
僕は車のカギを握りしめると、淡く光る月を背に急いで玄関のドアを開けた。
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