第15話

 たった一行のメッセージを残して、まゆはいなくなってしまった。

「ごめんなさい。旅行には行けません。」

 こちらからの電話は何度かけてもつながらず、メッセージに既読が付く事もなかった。

 僕にはいったい何が起こっているのか全く分からなかった。

 あんなに楽しみにしていたのに、キャンセルなんてありえない。

 けれどスマホがつながらない以上、どうすることも出来なかった。

 途方に暮れた僕は、仕方なく最終手段に出る事にした。

 コール音をが鳴る間、緊張で鼓動が早くなっていくのをどうすることも出来なかった。

「もしもし?」

「こんにちは、かずきです。」

「かずき君?久しぶり、元気だった?」

「おかげさまで。はなさんも元気そうで何よりです。」

「今日はどうしたの?こう君ならスマホにかけた方がつながると思うけど。」

「えっ、そうですよね。別に急ぎの用事じゃないんですけど。」

 こうたがいない事に心底ほっとしている自分がいた。

「…まゆも元気ですか?」

「まゆ?元気よ。ここだけの話なんだけど。」

 はなが少し声を潜め、楽しそうに話す。

「あの子、彼氏がいるみたいなの。」

 僕は一瞬言葉に詰まってしまった。

「…そうなんですか。まゆがそう言ってるんですか?」

「言わないけど分かるわよ、なんとなくね。こう君は気付いてないかもしれないけど。」

 僕の心臓はもうパンクしてしまいそうだ。

「今日もね、旅行に行ってるのよ。誰とかは言わなかったけど、きっと彼氏ね。」

「…まゆ、今出かけちゃってるんですね。」

「そう。週末には帰って来るわよ。」

「分かりました。はなさん、また今度遊びに行ってもいいですか?」

「もちろん、いつでも連絡してちょうだい。」

「ありがとうございます。」

 電話を切ると、再びまゆへと電話をかけメッセージを送ったが、何のリアクションも帰ってこなかった。

 うんともすんとも言わないスマホを眺めながら僕は途方に暮れ、旅行先を聞き出しておかなかった事を心の底から後悔していた。

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