第4話

結局二人の事は、しばらくの間パパとママには内緒にする事になった。

「こうたやはなさんに心配させたくないからね。」

かずきはそう言うけれど、特にパパの反応が気になるのだろう。

その気持ちはよく分かったので、しぶしぶだがその意見に従う事にした。

「…わかった。その代わり、私の事大切にしてくれる?」

「もちろん、今まで以上に大切にするよ。」

「心の良心に誓って?」

「誓うよ。」

「私の事、好き?」

「好きだよ、まゆ。昨日までよりずっとね。」

かずきは昨日までとは少し感じの違う表情で私を見つめ、軽くキスをすると家の近くまで送ってくれた。


部屋に入るとすぐに私は電話をかけた。

私の唯一の相談者には、数コールののちつながった。

「まゆ?卒業おめでとう。」

 いつも通りの爽やかなで明るい声が耳元に響く。

「ありがとう、はるおみ。」

「それでどう?昨日はうまくいった?」

はるおみは面白がるように聞いてきた。。

「何とかね。」

「そっか、とうとうかずきさんも陥落しちゃったか。」

「そうよ。いいでしょ。うらやましい?」

「まあね。それで、今は幸せの絶頂って奴?」

「そう言う事。はるおみもそろそろパートナー作れば。人生薔薇色よ。」

首元で光るネックレスを触りながら、浮かれ調子で私が言う。

「パートナーね。僕の場合、なかなか難しいんだけど。まゆは知ってるだろう。」

「そうね。はるおみの場合はちょっと大変な時もあるからね。」

はるおみは、男女どちらでも愛せるLGBTだった。この事は、私以外は知らない事。

私とはるおみは、秘密を共有する仲間で心からの親友だった。

「女の子ならまゆが良かったんだけどなあ。」

残念そうにはるおみが言うので、笑ってしまった。

「はるおみがそう言えば、私の周りの大抵の女の子はイチコロなんだけどね。」

「あーあ、僕かずきさんもタイプだったんだけどなあ。」

「知ってる。だからあんまり会わせたくなかったんだよね。」

「何だか二重に失恋した気分。」

「そんな悲しい事言わないでよ。」

「でもまあ、長い片思いが終わって良かったじゃない。」

気持ちを吹っ切るようにかずおみが言う。

「そうでしょ。だって私はかずき君のお姫様になるために頑張ったんだもの。」

「お姫様って、昔から言ってたやつ?」

「そうよ、約束したんだから。誰のためにこんなに面倒くさいロングヘアー維持してると思ってるの?」

「…あんな小さい頃の約束を真に受けたんだから、まゆはえらいよねえ。」

はるおみは感心したように言った。

「そうでしょう?愛の力は偉大なのよ。」

「はいはい、おのろけはもういいよ。どうぞ末永くお幸せに。」

「ありがとう。はるおみも新しく好きな人が出来たら紹介してよ。」

「分かってるって。じゃあまたね。」

はるおみはそう言うと、あっという間に電話を切ってしまう。

切れたスマホを眺めながら私は、昨日の事を思い出してこぼれる笑みを抑えることが出来なかった。

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