第15話 手合わせ

エルフ領アルフヘルム 〈深緑の里〉


色々有りはしたが、族長邸での挨拶と夕食も滞りなく済み、響達は食後のゆったりした時間を過ごしていた。

茜は夕食後しばらくは楽しげにミアナ達とお喋りをしていたが睡魔には勝てず、サリアが付き添い族長邸の客間で眠っている。


しばらくして、族長邸宅の見回りをしていたカイルが戻ってきた。


「ルシア、エレナ。先程、近衛騎士団から通達が来た。こちらには明日朝に到着との事だ」


声をかけられ、ルシア達が少しホッとした顔を見せて言った。


「そうですか。今夜はゆっくり休めそうで何よりです」


「それは言えてるわね。あまり早く来られてもねぇ・・・・」


響が単刀直入に2人に尋ねた。


「エルフ族の皆さんと近衛騎士団の方々は仲が悪いのですか?」


「いえ、そう言う訳ではないですが、お互い種族の違いや立場上、話が合わないと言うか・・・」


ルシアが言葉を濁して答え、カイルが続けて答えた。


「彼らは、基本的に王族の為だけの騎士団ですから。我々のような異種族の騎士団とは考え方自体が違います。エルフ族騎士団や獣人族騎士団のように国全体を守る事が業務ではないですしね」


「なるほど・・・。でも同じ国の騎士団なのに、何だか寂しいですね」


響がそう言うと、エレナが更に説明した。


「致し方ない事ではあります。しかし異種族にとっては、他の国よりイクステリア王国はかなり暮らしやすいですから」


「そうなのですか?他の国と言うと?」


響が尋ねるとルシアが答えた。


「三大国家の一国、神聖国ラースは人族のみ優遇されています。異種族は殆どが使用人か奴隷ですね」


「そんな!奴隷なんて酷いじゃないですか!」

話を聞いていた将が驚き叫んだ。


「将様、こちらの世界では当たり前の事ですから。だからこそ、この国は私たち異種族には無くてはならない守るべき大切な国なのです」


エレナが優しく将を諭した。


「そうなんですね。・・・でも僕はこうしてエレナさんや、エルフ族の皆さんに会えて嬉しいです」


「本当にそうですね。エレナさんは私たちにとっては掛け替えのない、大好きで大切な家族ですから」


「・・・もう!お二人ともお止め下さい!恥ずかしいですから!」


将と響が感慨深げに答えると、エレナが頬を赤らめ恥ずかしそうに2人の言葉を止めた。


「ほぉ、エレナが照れるとは珍しいな」


「フフッ、本当に。良かったわねエレナ、大切にされていて。大好き、だそうよ?どう、嬉しい?」


カイルとルシアが追撃する。


「なっ!?ルシア達まで何ですか、もう!ちょっと出てきます!」


エレナが精神的に限界らしく、中庭に出ていってしまった。


皆が笑い、少しするとカイルが将に尋ねた。


「将様、食後の運動にお手合わせ頂けますか?」


その手には細めの木剣が握られていた。


「はい、喜んで」


将も嬉しそうに答え、カイルと共に庭に出ていく。

響はそんな様子の将を少し不思議そうに見ていた。


「あら、カイルったら悪いクセが出たわね?」


「悪いクセ、ですか?」


ルシアが呟き、響が小首を傾げる。


「はい、カイルは腕がたつ人を見ると勝負をしたがるのです。将様もかなりのようですし...」


「でもカイルさんには敵わないと思いますけど?」


響がルシアに言うとルシアが意味ありげな微笑みをして答える。


「響様。将様を過小評価しすぎですよ?私からみても、かなり鍛え上げているのが分かります」


「え?でも日頃の稽古では私に勝った事が殆どありませんけど?・・・」


ルシアの言葉にまだ半信半疑な様子の響にルシアがニヤリと笑い誘った。


「では、2人の手合わせを見に行きましょう」  


将はトレーニングウェアに着替え、カイルも動きやすい服に替えてきた。

族長の屋敷だけあり、かなり広い中庭に出てた。

手合わせ前に身体をほぐすように、柔軟運動をする将。

そこにカイルが一振の木刀を差し出してきた。


「将様は木剣より、木刀こちらの方が扱いやすいでしょう?どうぞお使い下さい」


「こちらにも木刀があるんですね」

木刀を受け取り、確かめるように軽く振りながら将が尋ねた。


「これは以前、こちらに来た真様が置いていかれた物です。ただ、大陸より東の島国に、将様方がお使いになる日本刀に良く似た剣があるそうです。もしかしたら剣術も似ているかも知れませんね」


「へぇ、それは機会があれば行ってみたいですね」


カイルも柔軟をして木剣を手に取り、数回素振りをした。改めて木剣を見ると、レイピアを模していると思われるが、柄が少し長めの木剣だった。


(さすがに無駄な動きがない。かなり強そうだ)


カイルの素振りを見ていた将は確信した。


「さて、準備は良いですか?」


「はい、大丈夫です。始めましょう」


2人はお互い確認して、中庭の中央に出て向かい合った。

すると、エレナがいつの間にか2人の間に立っていた。

エレナは何か期待している様な微笑みをしながら、申し出た。


「合図しましょうか?」


「頼む」

「お願いします」


そう言って各々構えを取る。


「では、始め!」


エレナの合図とほぼ同時にカイルが突進してきた。


はやい!)


カイルの構えから突き技と判断して回避する将。しかし、回避した先で更に木剣の柄で打ち込んで来た。

辛うじて、木刀で払い避ける。


そして将は間合いを取るために数歩下がった。

まさに一瞬の攻防である。


「ほぅ、やりますね。あの攻撃を躱(かわ)すとは。お見事です」


「いえ、ギリギリでした」


カイルが称賛し、将は木刀を構え直しつつ答える。


(確かに見事な回避と防御。先程のカイルの攻撃は魔力の身体強化はしていない。とはいえ予想以上に強いですね将様)


エレナも心の中で称賛した。


「では、これは如何でしょう!」


カイルは更に加速して突撃。そして、突きをくり出す。

将は、また辛うじて回避するが、カイルが将に向き直り更に突きを連続でくり出す。


(連撃か!?)


全てを回避するのは無理と判断して、途中木刀で払いカイルの攻撃の隙を突き、斜め下から斬り上げた。


今度はカイルが数歩下がった。


「ハハッ、これ程とは!エレナ、見たか?今の動きを!」


カイルが称賛と驚きの声を上げた。


「はい、本当にお見事です。既に予想を越えています」

  

エレナも驚きと共に称賛する。


「いえ、姉さんに比べたら、僕なんてまだまだですから」


「あまり長くなると、こちらも不利ですね。これで終わりにしましょうか」


カイルがそう言うと、先程までの右手から左手に替え木剣をやや低めに構えた。 


(カイル?まさか、あれをやる気ですか?)


エレナが内心驚いていると、将が居合の構えを取る。


(将様、木刀でその技は不利では....)


将を見てエレナが思考する。


ザッ!!!

カイルが高速で将に突進。やや低めの突き技。しかも木剣に捻りを加えて来た。

将は居合の構えのまま突進して、カイルの攻撃がくり出される刹那、先程以上に斜め下からカイル左腕に打ち込む。


カイルの木剣が将の身体すれすれで止まり、将の木刀もカイルの左手首付近で止まった。


「そこまで!!!」


エレナが終了の掛け声をする。


「フゥ、ありがとうございました。カイルさん」


「こちらこそ、お付きあい頂き感謝します。お見事でした」


将がお辞儀をして、お礼をしてカイルが称賛と共に答えた。


「将様、何処かお怪我はされていませんか?」


エレナが心配そうに尋ねた。


「大丈夫です。エレナさんもありがとうございました」


将が答えると、エレナが首を横に振り感想を述べた。


「本当にお見事でした。再会した日に上達ぶりはある程度把握していたつもりでしたが、これ程とは驚きました」


「いえ、姉さんの方がもっと強いですから」


将はそう言って、汗を拭う為にカイルと井戸に向かった。

将を見送りながらエレナは思った。


(確かに響様は強いですが、将様の上達の早さも尋常では無いですね。やはり、天賦てんぷの才と日頃の修練の賜物でしょうか?)


エレナは将の更なる成長があるであろう事を確信した。

そして、屋敷の近くから将とカイルの試合を見ていた響とルシアの所に向かった。

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うちの姉が最強すぎる理由~異世界修業録~ 月詠穹 @tukuyomi12

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