第12話 エルフ領 1

【イクステリア王国王都 王宮ウィルティアナ】


「そうですか、無事に転移しましたか」


「はい、配下の者が確認致しました。まずはエルフ族の統治領アルフヘルムにて身支度をされた後、明後日こちらにご帰還となると思われます」


「分かりました。此方からの迎えは最小限で。決して大事にはしないように。それから、エルフ領から王都までの道中、王女のめいは私の命同様と心得よ」


「仰せのままに、陛下」


側近のラウル ハイデマン公が恭しくお辞儀をして行政室から退室する。


女王、セレスティーナ イクステリアは窓辺に立ち、外を見ながら感慨深げに呟く。

「ようやく、再会出来るのですね。愛しい我が娘、アリスティア・・・・」


エルフ領アルフヘルム〈深遠の森〉


「そろそろ、行きますよー。茜様ー!」

まだ高原をはしゃいで走り回る茜を呼ぶエレナ。


「は~い、今行くー!」

元気一杯な茜は笑顔で答え、こちらに走って来た。


「お待たせ~って、あれ?エレナさん、姿変わってる?わぁ・・・スゴイ!キレイ!可愛い!」

興奮が留まる事を知らない茜。 


「ありがとうございます、茜様」

笑顔で茜の賛美を受けるエレナ。


そして、響達の様子がおかしい事に気付いた茜。

「・・・あれ?お姉ちゃん達どうしたの?顔赤いよ、何かあった?」

素朴な疑問をぶつける茜。


「「何でもない(です)!!」」

響と将は揃って答えた。

相変わらず頬は赤いが。


「茜様、この年頃は色々悩み事があるのです。そっとしてあげましょう?」

エレナが微笑みながら茜に言った。


((お前が言うか!!!))

と、内心思いながら響と将はエレナを睨み付けるが、エレナは涼しい顔でそれをスルー。


「ふ~ん?分かった。悩みなら私にも相談してね?話を聞く位は出来るから」


響達に慈愛に満ちた笑顔で言う茜。実に優しい妹である。


「まぁまぁ茜様。今夜辺り響様から聞けますよ、きっと。ですよね?」

ニンマリと笑い、響を見るエレナ。


このエルフ娘の爆弾投下も留まる事を知らない様だった。


((・・・いつか、コロス))

決意する響と将。


そんな殺気も軽やかにスルーして、エレナは目の前の森を見る。

「そろそろ来る筈ですが・・・」


響達もエレナの見る方向に目を凝らしていると、森の中から数人の気配がした。


響と将がほぼ同時に腰の刀を掴み構えた。

エレナが響と将に首を横に振り言った。


「大丈夫ですよ。迎えの者達ですから」


エレナはそう言うと、森の中に声をかけて呼ぶ。


「皆、遅いですよー。早く来てくださーい」


すると、4人ほど森から此方に向かって歩いて来た。耳が人族より長く整った顔立ち。全員エルフである。


「遅くはない筈だけどね?久しぶり、エレナ」

「相変わらずだな、エレナ。元気そうだ」

「エレナは変わらないでしょ。性格が特に」

「フフフ、言えてる」


そんな事を言いながら、響達の所に着く。


「久しぶりです。ルシア、カイル、ミアナ、サリア」

やって来たエルフ達に挨拶するエレナ。そして一言。

「で?ルシアはともかく、カイル達は私に何か言いたい事でも?」


「「「まさか、ないよ」」」

三人が見事にハモって答える。

「後で詳しく」

エレナは全く納得しなかった。


そんなエレナ達のやりとりを見ていた響がエレナに尋ねる。

「あの、宜しければ紹介してもらえますか?」


「あ、はい、すみません響様。承知しました」

エレナはそう言うと、エルフ達を紹介した。


「まずはこちらが、ルシア レスティーク。私の姉であり、エルフ族族長の長女です。エルフ族騎士団、総括団長でもあります」


「初めまして。エレナの姉、ルシア レスティークと申します。以後、皆様の護衛をさせて頂きます。お見知りおきを」

お辞儀をして自己紹介をするルシア。

ミディアムショートのブロンドヘアで今のエレナに似ているが少し年上の顔立ちで、やはり容姿端麗である。


「そして彼は、カイル レスティーク。私の弟で同じくエルフ族族長の長男であり、エルフ族騎士団所属、第一騎士団団長をしています」

誰が見ても美男子と言える顔立ちで、少し長めの髪を後ろで束ね180㎝ほどの身長、細身だが鍛え上げているのは服の上からでも分かる程だ。


「初めまして、お会い出来て光栄でございます。同じく皆様の護衛を仰せつかりました。カイル レスティークと申します。よろしくお願いいたします」

こちらは、騎士団の敬礼、右手を握りしめ左胸に当てた。


「あと二人は、主に響様達の身の回りのお世話をさせて頂く、ミアナ、サリア。私の幼なじみです」

今のエレナと変わらない背丈で、綺麗と言うより、可愛らしさが目立つ。

ミアナはセミロング、サリアはショートカットのブロンドヘア。

「ミアナと申します。よろしくお願いいたします」

「サリアと申します。よろしくお願いいたします」


それぞれの紹介を受けて、響達も自己紹介をする。

「西蓮寺 響と申します。よろしくお願いいたします」

「西蓮寺 将と申します。よろしくお願いいたします」

「西蓮寺 茜です。よろしくお願いします!」


エルフ達が改めて、全員揃ってお辞儀をする。


「「「「よろしくお願いいたします」」」」


「さて、早速私達の里に行きましょうか」


エレナが言って森の中に行こうと歩き出した、響達もついていこうとするとルシアが呼びかける。


「エレナ、行く前に一つ報告があります」

「何ですか?」


「城から近衛騎士団が数名迎えに来ます。恐らくは今夜か明日朝に。最小限の人数との事ですが・・・」


それを聞いたエレナが思い切り嫌そうな顔をした。

「え?何でです。護衛とお城までの案内は我々で行う予定になっていましたよね?」

「あちらにも事情があるのでしょう。ハイデマン公の指示のようです」

「あー、あの腰巾着ですか。まったく、鬱陶しいったらありませんね」

その名を聞いてさらに嫌そうに言うエレナ。


「そう言うな、仕方あるまい。何しろ王女殿下の18年ぶりのご帰郷だ。張り切るのも分かる」

カイルが苦笑いをしながら言った。


『王女殿下』


その言葉に響の顔が強ばった。自分はまだ自覚はないが、この国イクステリアの女王の娘であり、王女である事を再認識させられた。


「姉さん?大丈夫?」

響の様子が変わった事に気付いた将が心配そうに尋ねた。

「はい、大丈夫です。心配かけてごめんなさい」


「いや、気分が悪かったらすぐに言ってね?」

「はい。分かりました」

響が微笑んで答えると、将も安心したように頷いた。


「ハァ、まぁ来てしまうのは仕方ありませんね。先ずは里で一休みしましょう。全てはそれからです」

エレナが諦めた風のため息をして一同に言う。


響達とエルフ達も頷いてエルフの里に向かうのだった。

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