(竹)なんということでしょう
第45話「いきなり桃色バス炉マンX(前編)」
そんなこんなで、完成しちまった訳だ。
マイ・バスルーム……というか、ほぼほぼ完コピレベルで再現されたプチ銭湯もどきがな。
「出来たぜ。まさにパーフェクトだ」
目の前に広がるあまりに完璧な仕事っぷりに我ながら惚れ惚れしちまうぜ。
「これが、お風呂……」
フィルナが感嘆の声を上げる。
無理も無い。
――なんということでしょう。
今、俺の目の前に広がっている光景とはそう――まさに
と言っても。
実は銭湯の奥側だけをパッとここに出現させたような、その程度の感じなんだけどな。
規則正しく並べられた白タイルに覆われた壁や天井。
そして、細かい水色タイルで敷き詰められた床。
その奥にある物こそが、今回のド本命様よぉっ!
横長にでで~んっと伸びた長方形のドでかい浴槽。
そう、あの見慣れた銭湯のお湯船様だ。
もうね。銭湯から直接転移でもしてきたのか? ってくらいには精巧な出来に作れたんじゃないかと自負している。
ちなみに色はグレーの大理石模様だ。
近所にあった銭湯がこんな色合いだったんだよ。
その大きさはなんと、部屋の約半分を埋め尽くす程。
まぁ、広いとはいえ奥行きが足りねぇからな。
銭湯の奥側だけを切り取って設置したみたいになっちまった。
もちろん、体を洗うスペースなんざ、あるわきゃ無ぇ。
蛇口も無ぇ。
ソープもリンスもある訳ねぇ。
おらこんな風呂いやだぁ~ってか?
とんでもねぇ。魔法があれば
どれもこれもBランク以内の生活魔法だ。
まさに、魔法があればなんでもできるっ!
明かりだって電灯なんざ無いからな。今も
そしてもちろん、アレが無きゃ銭湯とは言えねぇよなぁ?
浴槽の後ろの壁には、そう、富・士・山~っ!
銭湯と言えば欠かせない。あの名物たる、フジヤマ・アンド・サクラの風景画だ。
ちなみにこれも近所にあった銭湯の奴を丸パクりだ。
さ~て、嫁達の反応は?
「すごく……大きいの」
背後を振り返ると、セルフィがうっとりと、目を輝かせんばかりに見開きながら感嘆の声を漏らす。
うれしいこと言ってくれるじゃないの。それじゃあとことん喜ばせてやらないとな。
もっとも、今日は予定があるので体力的な問題でそっちの方で悦ばせられるのは夜になりそうなんだがな。
さて、そんな戯言はさておき。
他の嫁達の反応はどうだろう。
「うわ~、綺麗~っ」
フィルナさんってば無邪気にパタパタと中へと駆け込んで、何やらはしゃいでいらっしゃるご様子。可愛ぇのぅ。
なんかもう、君ってば最近はもっぱら、嫁というよりは娘みたいな感じになってるね。
まったく。
もっとパパに甘えてもいいんだからね。
微笑ましい気持ちでみつめていると、
「んにゅ?」
小鳥のように小首を傾げてくる。
てぇてぇ……。
そんなほっこりハートの俺をよそに、ルティエラさんはというと。
「……」
何やら唖然と言うか呆然と言うか、言葉を無くしていらっしゃるご様子。
俺、何かやっちゃいました?
「……変、かな?」
まぁ、あきらかに和風と言うか現代地球的というか、完全異文化デザインなんだからおかしな所しかないとは思うのだが。
特に富士山とかね。どこの山やねんってね。思うよね。
だが、俺の問いに返って来たのは、
「い、いえっ、そ、その、大変、非常に素晴らしい、出来栄え、かと、思われますの、です」
意外にも肯定の言葉だった。
というかルティエラさん、何やら俺と部屋をキョロキョロ交互に見比べながらきょどっていらっしゃる。
どうしたん? 何か悩みとかあるなら相談乗るよ?
などと心配になる俺をよそに、ルティエラは静かに語り出した。
「……特にこの壁や天井の材質。まるで
まるで、某究極至高のメニューを探究する厳格な美術親子の食レポか、はたまた唐突に全裸アへ顔絶頂リアクションを始める某ソーマな美食少年漫画か、もしくはわざわざ律儀に敵の攻撃エフェクトを説明しながら真上に吹き飛ぶ某聖なる小宇宙の闘士が如き、こと細かな感想を述べ始めんとするルティエラさん。だがしかし――。
「ねーねー、これ何でできてるのー?」
ここで無慈悲なフィルナからのインターセプトぉぉっ!
いや、空気読もうな。可愛いけど。
「ん~。なんだろな。俺の元いた世界の素材というかなんというか」
「え~? 自分で作ったのにわからないの~?」
「まぁ、実際に再現したって訳じゃないからなぁ」
ちなみに、ルティエラさんが食レポめいた長文を垂れ流し始めるのも無理は無い。
壁や天井を覆う純白のタイルなのだが、新品ばりに綺麗な感じで模倣したからか、なんか磨き抜かれた鏡の如く煌めいていて、今も電灯代わりに浮遊させてる
……しかし、言われてみれば。
風呂場の壁やら床やらの材質って、よくよく考えてみたらわからんもんだよな。
例えばさ、テレビがどんな原理で映っていて、それをリモコンがどんな理屈でつけているのか。普通そんなこと知らずに使ってるだろ?
それと同じようにさ。あらためて問われてみると素材どころか、普段使っていたあらゆるものについて、俺は何一つとして知らないままに、何の疑問も感じずに使ってき続けてきたってことになるんだよな。
当たり前にあるものだと思い過ぎて、そんなことにさえ気付かずに。俺ってば知らないことだらけだったんだな。
もうちょっと真面目に勉強しておくべきだったのかもな。なんてちょっとおセンチな気分になってしまったのだった。
ってかさ。考えれば考えるほど、あの文明マジやばくね? 現代地球の科学こそチートなんじゃね?
そもそもさ。砂糖の作り方なんて知ってるか? 手押しポンプの作り方は? 石鹸の材料と製造法ならどうよ。畑の土壌改良方法は? 三なんちゃら農法とかいうアレだよ。 なんなら農具についての知識でもいいぞ?
知らねぇだろ? 普通。これらをウィキ〇ディアやグ〇グル先生に頼らずに丸暗記してる奴なんている? いねぇよなぁ!
いても全体の何割よ? 普通わかんねえよ。それが
そう考えてみると、なろう小説の知識チート主人公って凄かったんだな。正直異常だよ。ありえない。現実的じゃなさすぎるぜ。
……まぁ、異世界に飛んでる時点で何が“現実的”だって話なんだけどな。
あ、でも俺、今実際“現実的”に異世界来てるんですけど~。ヨホホホホ~。異世界転生者ジョーク。
まぁ、そんな超特例の異常者はおいとくとしてさ。普通の人間だったら異世界に来ても何もできなくて詰むよな? 普通。
だって俺がそうだもん。正直、チートスキルが無かったら何もできんかったわ。オ〇ロしか作れんよ。将棋のルールすら知らん。
なので、俺には風呂やらトイレやらの真っ白なタイルの材質なんざ知らんのよ。
コンクリートとモルタルの違いもわからんし、作れと言われても作れねぇよ。黒色火薬なんざもっと無理。現代知識チートなんて選ばれし者にのみ許された奇跡の所業だよ。
……それとも、俺が不勉強なだけなのか?
そんなこんなで、俺は偉大なる叡智の積み重ねたる文明の利器を享受しながらも、知らないということさえ知らないままに生き続けて来た無知蒙昧にして愚かたる己の業に気付いてしまい軽く
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