第44話「いきなり黄金水アフターEX(後編)」


 いやいや、何言ってんだこいつ。

 豊富なスキルポイント使って建築スキルでも取るの? それで作るの? これから?

 そもそも素材どうすんだよ。建築舐めてんの? 間に合う訳ねぇじゃん。


 ……って思われそうな発言だとは思う。自分でもそう思う。


 が、ここは魔法の世界。不可能なんて無いのだ。



――少なくとも、魔力SSSで黒魔法スキルS+の俺ならね。



 という訳で。


 黒魔法式、お手軽風呂作成三分クッキング~。


 ……いや、クッキングではないな。まぁ、それはそれとして、と。


 まず、素材なんてものは一切必要ありません。


 建築スキルなんてものも全然いりません。


 まぁ、あったらあったで完成度の高い絢爛豪華ラグジュアリー壮大華麗ゴージャスにして芸術的アーティスティックな感じの高級感溢れるド派手で凄い奴が作れるようなのだが……口から水吐くライオン像とかね。欲しいけどね。今回は我慢だ。それほど本格的で精巧な造りのものを求めないなら、建築スキルとかは多分、いらないと思う。


 必要なのは――。


 俺は全身に意識を集中させ、体内の魔力に意識を流し込み、体外へと放出する。

 散布された俺の魔力は大気中にたゆたう魔素マナ達と融合する。

 俺の魔力に干渉された魔素マナに、呪文詠唱により術式を刻み込んでこれから行われる秘儀の内容を指示オーダーする。


 我が願望を、望むがままに具現せよ、と。



――そう、必要なのは素材でも建築スキルでもない。魔力と、黒魔法スキルと、それが可能な魔法だ。



 詠唱を開始する。


「空にあまねくたゆたいし、万能なる力、根源たるマナよ。我が意に従いことを成せ」


 獲得したスキルのおかげで、勉強とか暗記をした訳でも無いのに脳内に記憶として刻まれた長文を一言一句間違えることなく紡いでいく。


 ちなみに詠唱に用いられる言語は普段使いの大陸共有用会話言語とは異なり、古代魔法文明に使われていたとされる共有古代言語であるらしい。

 この古代言語が元となって崩されてできたのが大陸共有用の会話言語らしいので、似ている部分も多いのだが、一部単語や文法が異なり古めかしいものだったりするので学校なんかでスキル習得のために自力で暗記するのはけっこう骨が折れる作業らしい。


 けどまぁ、そんな苦労を俺は知らない。なんせ異世界チート名物、謎の言語翻訳機能があるからな。

 そしてスキル習得方法までチートと来ている。まさに異世界転生様々だな。


「不分たる始源の欠片、原初の波に命ず。湧現せよ、仮初の黒を纏いて」


 ちなみに、最初の一文は白、黒、使役、三大魔法共有の出だしだったりする。

 で、次の一文でどんな系統かを選択する。


 この二文の術式だと『黒魔法の物質化系統を使うよー』といった感じだ。


「集結、凝固、具現。固く、堅く、硬く。纏繞てんじょう、圧縮し、凝結せよ」


 で、この一文で「硬い奴でおなしゃーす」と注文オーダーを通す。

 黒魔法の物質化系には、粘着性の強いものを生み出して敵を妨害する絡め手の支援魔法もある。だからその区分用の式だ。


 そして――。


「そは堅牢にして堅固なる黒瑪瑙めのう。剛性と靭性併せ持つ不壊なる悲願の黒魔鋼」


 まぁなんていうか「中でもめっちゃ硬い奴かもーん」って所か。


 ここまでの術式を簡潔に纏めるなら「魔法使いまーす。黒魔法の物質化で。固い奴を。中でもうんと固い奴でおなしゃーす」って感じだな。


 とどのつまり魔法の詠唱なんてものは「大将~、ラーメン一丁大盛りで~。ニンニクカラメアブラマシマシね~」みたいなもんだ。

 こうして使用する魔法の系統を周囲に浮かぶ魔素マナ達に刻印オーダーしたら、いよいよ各魔法毎の固有詠唱に入る。


「形成、創出、集積。黒き幻鉄よ、今こそ自由なる思念の導きのままに踊れ。構築せよ。妄言たる虚像を現実に」


 意訳すると『できた奴、思い通りに操作させてねー』って感じかな?


「夢想たる絵空事を語るがままに遊び、夢見るままに体現すれば、我が望みたるは安息の地。それすなわち金城湯池にして難攻不落の牙城なり」


 まぁ要するに『無茶なお願いするけど超頑丈な砦作りたいです』って所か。


 ちなみに、四文字熟語の部分は翻訳機能による意訳の部分だ。

 例えば難攻不落は……四竜護殿? つまりこっちの世界の故事成語っていうか慣用句みたいなもんを省略した熟語みたいなもんで「四方を古代竜エンシェントドラゴンに守られた神代遺跡の神殿が如し」を短縮した奴を翻訳したようなもんだ。で、金城湯地は……神鋼魔城? オリハルコン製の城に魔法で罠が張り巡らされているような無理ゲー地獄を表す感じの奴を意訳したもんだと思って欲しい。

 ちなみにこっちでも古い言い回しなんかを言語省略して使うケースってのは割と多いようで、例えば四竜護殿を口語で用いる場合は「『四方に古代竜エンシェントドラゴン』だな」みたいに言ったりするらしい。どこの世界だろうと同じ人間。似ているもんなんだなぁ。などと無駄な思考を片隅で行いつつも、いよいよ詠唱は佳境を迎える。


「我、堅塞固塁なる天蓋と堅城鉄壁なる城壁持ちて、一時の秩序と安寧をもたらさん。寂静の園、按甲休兵あんこうきゅうへいの浄土を今ここに。いざ、常楽にして我浄なる聖域を創出せん! ――さぁ、共に澹然無極たんぜんむきょくたる夜を明かそうぞ」


 と、まぁラストは締めたる仕上げの一文で終える訳だ。

 意味としてはあれだ「即席インスタントの仮宿、カモーン!!」といった所か。


 で、一通り詠唱も完了したら、お約束とも言える締めの一言でフィニッシュを決める。


魔黒城塞ブラックフォート!」


 発動のために定められたいわゆる解放の言葉パワーワードって奴だ。

 これが無いといくら詠唱とか必死にがんばろうと発動しない。せちがらいね。


 なんて余裕で無駄思考をしながらも、俺の体内から周囲へと散布された魔素マナにより干渉され、詠唱と共に魔力操作で浸透させた術式を刻み込まれた大気中の魔素マナ達が呼応し、煉瓦サイズの黒塊が無数に、虚空へと具現化、展開されてゆく。


 黒魔法の物質化で創出できるものは総じて、深淵の闇を煮詰めて凝縮させ生み出された虚無をも彷彿とさせる純粋で艶やかな黒一色に統一されている。


 これこそが黒魔法と呼ばれる所以ゆえんなのだそうな。

 余談だが、白魔法はこの黒魔法と言う名前が先にあり、それに対して相反する効能から白の名を冠するようになったのではないか、というのが近代魔術師学会での定説らしい。


 まぁそれはそれとして、この魔黒城塞ブラックフォートという魔法は、具現展開された無数の小黒塊を意のままに形状変化させ、集積して組み立てて、仮初の居城を建設するというものだ。


 ちなみにランクはSと割と高度な魔法に分類される。


 硬度、大きさの限界と持続時間は使用者の魔力とスキルのランク次第。

 持続時間、という言葉から推察されるとおりこの魔法は永続ではない。


 ゆえに仮初。


 存在維持の限界時間が来ると明滅して後数分以内に自壊すると警告はしてくれる。が、調子に乗って四階建てとかにしてしまうと、寝てる最中に限界が来て、警告に気付かずに落下してそのまま永久に目を覚まさない、なんてオチもありえる訳で。

 実際に起きたんだろうね。そうならないよう使用の際の注意として口を酸っぱくして教えられるらしい。


 一応、似たような魔法で、一瞬で壁とかドームとかを作る物理防御や強制監禁拘束用の魔法もあるにはあるのだが、あっちは効果時間が短く形状の自由度が皆無だ。


 なので今回はこっちを使用した。魔黒城塞ブラックフォートは完成までに多少の時間がかかる上、作業中は集中を維持しなければならないという、戦闘時などの緊急状態では使えない上に魔力消費も多めな不遇魔法ではあるのだが、その代わりに大分形状を好き勝手自由にできるというのが売りだったりする。

 なので大型の要塞拠点から小型の家、犬小屋だって作成可能。もちろん、風呂もね。


 案外、黒魔法にも便利な魔法は存在してたりするのである。現代地球のありがちなゲームの世界とは違うのだよ。攻撃と妨害の魔法ばっかな訳じゃねーのよ? 黒魔法舐めんな?


 という訳で、今からここに、この魔法で風呂を作っていきたいと思いまーす。



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