第20話「いきなり冒険者(前編)」


 そんなこんなで冒険の準備が完了し、依頼を受ける算段となった。

 一階の酒場へと下り、適当な採集依頼を受けるべくカウンターに立つと……。


「あいよ。薬草採集ね」


 気さくに応対してくれる酒場のマスター。

 だがしかし――。


 なんかチラチラと俺の顔を見ていらっしゃる。

 よく監察すると、例の手配書と俺を見比べているようだ。


「何か?」

「いやね。種族的に一致してるよなぁ、なんてね」


 フィルナと俺を交互に見ながらおっしゃる。

 やばい。


「あぁ、あの手配書ですか」


 俺はやれやれといった感じで肩をすくめると、


「あんな怪物に見えます?」


 どうどうととぼけることにした。


 あんな似顔絵どう見ても別人だ。バレやしないだろ。

 逃げた俺に対しよほどお怒りだったのだろう。その絵は凶悪に盛りすぎていた。

 そもそもあの手配書、俺の犯罪履歴の項目に強姦殺人窃盗強盗だのあらゆる罪が羅列されていたんだけどさ……。


「まぁ、そう言われるとねぇ……そうだよね」


 納得してくれるおやっさん。


「っていうか帝国のことなんざ知ったこっちゃないしなぁ。そもそもこいつが本当にこんな悪さしたのかも怪しいもんさ。こんなあからさまな犯罪履歴。ここまでくると逆に怪しいってもんよ。報奨金だって本当に出るんだか」


 帝国に対するイメージはだいぶ悪いらしい。

 助かったっぽい?


「疑って悪かったな。がんばってくれ。生きてかえって来いよ」


 結果、おっちゃんは普通に対応してくれるのだった。



 ちなみにルティエラ達。カルナ、ルッソ、ディジナ村のマスターらは、なんとなく察したが黙っていてくれた、とのこと。

 俺達が去ったすぐ後に早馬で村に手配書が来たのだとか。

 命の恩人だし売るわけにはいかない、と律儀に「知らない」と言ってくれたそうだ。


 あと、あの棘付きケルベロス達に関しては、


「この犯罪歴見ればわかりやす。兄貴のはずがねぇ」


 とのこと。


「仮に、もしそうだったとしても何か事情があるんでしょう。帝国はいけすかねぇ。本人だったとしても兄貴を売ったりしませんよ」


 なんだ案外いい奴じゃないか。

 と思った矢先。


「それに、この犯罪歴がもし本当だったら報復が怖いっすからね」

「あぁ、兄貴なら牢屋くらい素手で壊して逃げかねねぇ」

「しーっ、それは言うな」


 単純に、恐怖から従順になってるだけのようだ。



 さて、そんなこんなもありまして。

 街から徒歩で半日ほどの距離。比較的近隣にあるパグロダの森。

 ここには栽培がほぼ不可能とされている珍しい薬草がいくつか自生している。


「あ、ありましたです」


 とてとてと駆け出してしゃがみこみ薬草を採集するルティエラ。

 実に頼りになる。

 戦闘面においては二人よりわずかに劣るルティエラだが、こういった雑用面では素晴らしい活躍を見せる。


「はい。これがマディエラ草です」


 見せてくれるがちっとも雑草との区別がつかない。


「この花の色や形、葉っぱの形で見分けるといいですよ」


 色々とレクチャーしてもらうものの。


「さすが動植物知識B。博識」

「うん、覚えるの結構大変だよねこれ」


 この森で採集できる薬草は十種類を越える。

 当然雑草も多い。

 覚えるのはわりと難しい。

 そして見つけ出すのも。


 ゆえに探索スキルを持つルティエラにとってこのクエストは適任と言えた。

 そんなこんなで、薬草採集のクエストはルティエラの活躍により想像以上に早くクリアできたのだった。


 途中何度か魔物にも襲われたがなんなく撃破。

 ジャイアントベアをソロで瞬殺する俺とフィルナを見てルティエラは驚愕していた。

 ちなみにセルフィは自分が出る幕も無いだろうと干し肉食ってやがった。


 ちなみにジャイアントベアは魔物ではなく動物にカテゴライズされている。

 魔物に該当するのは主にブレスや魔法など危険な能力を持つ存在をさすらしい。

 単純にでかくて強いだけなら危険で討伐対象でも魔物とは言わないのだそうな。

 棘付きケルベロスの連中はDランクの魔物と言ってはいたが……。

 その辺の知識は疎いんだろうな。魔物知識Aを持つルティエラが言っているんだから間違いない。


 それはともかく、討伐の証として両耳を切り取っておく。

 時間とスキルがあれば解体して肉とか毛皮なんかも取りたい所なんだけどね。


 そんなこんながありまして、野営となる。

 行きに半日かかるから帰りにも半日かかる。

 探索にも時間がかかるため、無理に日帰りにしようとすると夜間歩くことになる。

 飛べばわりと何とかなるのだが、三人を抱えるのは流石に無理だ。

 ということで野営である。


 貧乏なためテントは一つしか買えなかった。

 となると――。


「見回りはフィオナ、セルフィ。んで次に俺とルティエラ組な」

「おっけー」

「了解」

「わかりました」


 夜襲対策の見張り番も組み別けて就寝。


 ……しようとしていたのだが。


「にゃあ」


 セルフィが寝袋にもぐりこんできた。


「お前なぁ」

「がまんできないの」

「見張りはどうした」

「忘れ物取りに行くって言って抜け出してきた。フィオナがいれば十分」

「だからってさぼるな」

「てへ」

「てへじゃない」


 俺の体にすりよりながら股間をまさぐってくる。

 まったく、ビッチに育ちおって。けしからん。

 俺だって溜まってるんだ。やりたくなっちまうじゃないか。


「十分だけ。十分だけでいいから」


 先っちょだけみたいに言うなし。


「ルティエラがいるだろ」

「もう寝てるの」


 見てみるとすやすやと寝息を立てている……ようにも見える。


「静寂かければワンチャンいける」


 そういって静寂をかけるセルフィ。

 さすが魔力操作Sランク。テントの半分だけを対象に静寂かけるとか器用なことするなぁ。


「さぁ、時間が無いの」


 貪るような熱烈なキスとともに舌をねじ込んで来るセルフィ。

 その手はすでに俺のビッグマグナムを握り込んでいる訳で……当然マックス状態に持っていかれる訳で……。


 うん、そのあとしこたまいたしました。

 十分間一本勝負。

 勝者、俺。

 決め技、ポルチオ絶頂。


 セルフィはへろへろの腰砕けになりながらテントの外へと出て行くのだった。


 そしてやっと寝られると思っていたら。


「……っ……ふっ……っは……んっ」


 隣がなんかもぞもぞしていらっしゃる。

 見ればルティエラさんがなんか色っぽい声を出して……。


「はぁ……はぁ……んくっ……~~っ」


 なんかビクンビクンしてらっしゃる。

 可愛い。


 ……うん、ごめん。

 隣であんなことされたらそりゃあそうなるよね。


 俺は察して、全てを見なかった事にして静かに眠りにつくのだった。




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