明日天気になぁれっ!!!!

カム菜

第1話

「美空ももう15歳、私たちの家系にまつわるその秘密を知ってもらわなければなりません」

 中三の夏、大事な受験生の夏、大事な私の誕生日!迎えてくれたのはケーキでもプレゼントでもなくて何やら物々しい雰囲気の母だった。いつものやさしい雰囲気と違っていて今日はなんだかピリピリしてるような、少し怖い様子だった。なんだろう?

「秘密……?」

 恐る恐るたずねると、母は真剣な眼差しで答えてくれた。

「そう、秘密。いい?美空、私たちの家系には重大な秘密があって、15になったら女たちが代々その秘密を受け継いできたの」

 いかにもファンタジーな母の話を聞きながら、私は心のどこかで納得していた。なぜなら母は昔から少し不思議なところがあったからだ。天気予報がどんなに晴れだと言っていても、突然降る雨を必ず感知して傘を持たせてくれたし、どこか浮世離れした雰囲気をもっていた。何かを隠してるのだと言われると、そうなのだろうと思える何かがあった。

「そう、なんだ……うん、うすうすは分かってたよ……やっぱり私たち普通の人とは違うんだ……」

「そう、美空、分かってたのね……」

 そう答えた母の目は少し憂いをたたえているように見えた。普通の人からズレた存在であるらしい私たちの、運命を思っているのだろうか……

「私たちは、龍神様に嫁いだ巫女の家系……その加護の名残で15歳になると……」

 龍神様に嫁いだ巫女の家系……すごい運命を背負ってそうだ。これはやはり……

「明日の天気がわかる異能に目覚めるの」

 そういう話じゃなかったみたい。

「え、天気?」

「そうよ、伊龍家の女は代々明後日の天気を夢に見る能力をもつ運命にあるのよ」

「からの?」

「徹夜する時は事前に二日分見るわね」

「からの?」

「あと基本的に悪夢は見なくなるわよ」

「からの?」

「えーと……」

「ごめん、もういいよ」

 天気がわかる異能、それが秘密だった。天気予報じゃだめなん?という考えが頭によぎる。ちょっとワクワクした気持ちを返して欲しい。なんか無駄にシリアスになってしまった。なんだか冷静になってしまって、先程までの自分が恥ずかしくなる。

「大丈夫?美空?自分を壮大な運命を背負った特別な存在だと思いかけたのに思ってたよりしょうもないなとか思ってない?」

「なんでそういうこというの?」

「お母さん、美空のそういう年相応の痛々しいところ見るの大好きなの。昔の自分思い出してぞくぞくするから」

「うん、ありがとう、自分の母親がクソサイコパスだったことの方が衝撃的な程度だし大丈夫だよ」

 そうして適当に喧嘩をして、そろそろご飯にするかと撤収する。このことは将来結婚する人にしか教えちゃダメなのよとか言われた気もするけど、なんかもう脱力しちゃってどうでもよかった。


 その後、確かに私の異能は目覚めた。毎晩夢で明後日の天気を見るようになった。でも、だからといってそれがどうということもない。強いて言うなら降水確率40%のときに傘を持って歩くか悩むあの煩わしさから解放されたくらいだった。

 そうして、いつもの日常がいつも通りに続いていったある日、いつもと違う夢をみた。


――天が裂け、巨大な何かが降りてくる。その何かは人類なんかよりよっぽど偉大な存在で、災厄なことに人類に明確な敵意を持っていた。


「おかーーーさーーーん!!!!なんか変な夢見たんだけど?!?!?!」

「あら、美空も?じゃあやっぱり明後日の天気は終末なのねぇ……水曜日なのに笑」

「笑ってる場合じゃないよね?!?!どうしたらいいのこれ?!?!ていうか天気なのこれ?!?!?!」

「空から降るから天気なんじゃない?私たちじゃどうしようも無いわよ。明後日の天気が分かるだけだし。まぁ、5年に一回くらい外れることあるし、それを願うしか無いわね」

「ちなみに前回は?」

「去年の2月」

「だめじゃんか!!!!!」

 ぎゃあぎゃあと騒ぐ私を遅刻するわよーと、お母さんは家から追い出した。この人やっぱりサイコ入ってる……と思うけど、やっぱり私もどうしようもなくて自然と足は学校に向かっていった。

 これで見るのも最後かもしれないと思うと、嫌になる程通った通学路も美しく思える……とまではいかないけど、なんだかいつもとは違って見えた。ふざけるな。私には未練しかないぞ!!!!!!


 未練。そうだ未練。憧れの先輩に話しかけに行こう。

 唐突かつ、私にとっては当然に決意した。竜弘先輩。密かに憧れていたけど話かけることすら出来なかった先輩。死ぬ前に話しかけるくらいの勇気なら、私も振り絞れる。ちなみに告白とかはしない。だって、死ぬ前に振られるとか最悪じゃ無い?そこ、意気地なしとか言わない。女子にとって恋の終わりは世界の終わりなんかよりもよっぽと大きな問題なのである。


 というわけで、私は先輩を屋上に呼び出した。先輩は透き通るようなイケメンで、急な呼び出しに少し不思議そうにしながらも、快く着いてきてくれた。もうすでにちょっと後悔してる。何話したらいいんだろう。終末今にならないかな?

「え、ええと、えと、えと」

「干支?」

 うわー顔がいい……じゃなくて、何か話さないと……何か……何か……


「あの、私明後日の天気がわかるんですけど、私の能力によると明後日の天気は邪神降臨で世界が滅びるそうです!!!!」

 何言ってんだ私。

「え?そうなの?俺明日の天気を晴れにする異能持ちなんだけど晴れにしようか?」

 何言ってんだこいつ。


「……えーーと、じゃあ、よろしくお願いしま、す……?」

「うん、ところで君名前なんだっけ?」

「あ、美空っていいます。伊龍美空……」

「そっか、美空ちゃん、じゃあ明日晴れたらまたここで会おうよ。ちゃんとできてるか気になるし。いいかな?」

「あ、はい……」

「よかった。じゃあねー」


 あ、はい……と答える私の声と予鈴の音が響く中、先輩は教室に帰っていった。今何が起こったのかよくわからなかったけど、私も帰ったほうが、いいよね……?


 そうして授業に戻った後は友達におそかったじゃーんどこいってたのなにしてたの?どこすみ?らいんとかしてるー?と聞かれてえーひみつーと答えておーいおまえら授業だぞーと先生に邪魔されてつまらない授業を眠気とたたかいながら受けてと、呆れるほど普段通りの日常を過ごして帰路に着いた。

 家に帰ると少しご機嫌なお母さんがいつもより少しだけ豪華な晩御飯を作って待っていた。他の家族は世界の終わりみたいな顔をして、それを食べていた。みたいなっていうか終わるかもしれないもんね。お母さんがおかしいよ。

 最後の晩餐めいた空気の中、今日あったことを報告すると、普段無口な、今は一層地蔵みたいになっていたお父さんがこう言った。

「異能の話は将来の伴侶にしか話しちゃダメなんじゃなかったか。お父さんそんな怪しいやつ許さないぞ」

 明日世界が終わろうとしているのにこの発言である。

 なんだかお父さんのズレた発言で少し空気が緩んで、そのあとはなんだかんだ楽しい時間を過ごしたと思う。そうしてみんな、いつもより遅く眠りについた。


――夢を見る。よく晴れた空の夢。


 そして目を覚ます。青い空は雲ひとつなく綺麗で。平和で。

「美空ーー!起きたのー?!遅刻するわよーー!あと掟は絶対だからねー!先輩落としてくるのよー!!」


 世界の終わりよりもよっぽど重要な難題を私に突きつけてくるのであった。


「起きてる今いくーー!ていうかどうしよーーー?!?!」



「お父さん、やっぱその先輩とやらなんか怪しいしどうかと思うなぁ……」

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明日天気になぁれっ!!!! カム菜 @kamodaikon

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