数学の問題

 太郎くんと花子さんがいた。太郎くんは花子さんのことを好いていた。花子さん茂太郎くんのことを好いていた。だが、「もし告白して断られたらもう喋ることも叶わない」といった妄想が頭をよぎって、二人はあと一歩のところを踏み出せなかった。そんな中、暑い夏の日のことだった。突然花子さんは遠方の町に引っ越すこととなった。

 別れの日、彼らは二人でいた。言うべき言葉を言えずまま、伝えたい想いを伝えずまま、それぞれ同じ思いを胸に秘めていた。

 そうこうしていると別れの時間がやってきた。「じゃあね、太郎君」「そうだね、花子さん」最後にしては味気ない二人の会話が終わり、花子さんは名残惜しそうに立ち上がって駅へと向かう。

 このままでいいんだろうか、太郎君は一人で頭を抱えた。

 これから離れ離れになって、僕たちは違う道を歩むんだろうなぁ。

 これからこの恋の味を忘れていって、僕たちは他の人を好きになるんだろうなぁ。

 あるいは、これを後悔して、もっと後悔して、みじめに生きていくんだろうなぁ。

 そう思った太郎君は急に立ち上がって花子さんを追いかけていた。これが花子さんが立ち上がった二十分後のこと。

 [問題]

駅まで1.5kmあり、花子さんが分速50mで進んでいる。太郎くんは本気を出すと分速400mで走ることができる。さて、太郎君は花子さんに追いつき、想いを伝えることはできるだろうか。

なお、愛の力は無限なので、太郎君は常に全力で走ることができるものとする。


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