五百文字で始まる恋
教室で僕の前の席には大原さんという女子が座っていた。細身で高身長のその背中には真っ黒な漆でも混ぜたのかと思ってしまうような素晴らしくつややかな髪が肩甲骨辺りまで伸びている。どんなにつまらない授業でも、彼女を見ていると時間があっという間に過ぎていった。僕はきっと、彼女に恋をしていたんだと思う。彼女を見ているたび胸がキュッとしてサイダーを飲みたくなるのだが、いかんせん彼女と話すきっかけがない。心の中で炭酸がどんどん抜けていく音がした。僕はなにもせずに終わっていくのか、蝉の声を聴きながら僕はそう思う。思えば思うほど、蝉は勢いを潜めて陽ざしは雲にさえぎられていく気がした。授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。僕の恋心を知らない友達がつかつかとこちらに歩み寄っていく音がした。僕は諦めて顔を上げ振り返ろうとした。その時、大原さんの消しゴムが彼女の肘に当たって僕と大原さんの間に落ちていくのが見えた。その瞬間、僕は一歩を踏み出した。
「大原さん、消しゴム落ちてるよ」
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