第5話 家と手料理

「夕凪さんの姿じゃない!? どういうこと!?」


 目の前で宙に浮かんでパタパタと羽をはためかせながらこういうことと笑顔で両手を広げながら言うが、どういうことなのかと疑問しか増えない。

 リーンを見るのを止めて美桜を見ると、とりあえずこっから離れましょうと話しかけられた。


「いつまでもこのままじゃいけないし、人除けの効果が薄くなるわ。ここから動きましょう」

「私はもう疲れたよー。この人除けの陣を使ったりあの鬼に使った精霊魔法の両立は精神的にもう無理ぃ……」


 美桜が陣を解除してと地面に座り込んだリーン言うと、右手を上げて解除と甲高い声で叫んだ。すると、瞬く間に展開をされていた柔らかい膜が消えて次第に人通りが多くなっていく。


「これが人除けと精霊魔法の力? 魔法って現実にあったんだ……」

「現実っていうか、この世界にはないわよ。私達の世界の力ね。あ、武器を持っていると不審がられるから早くしまって」

「しまってといわれても、どうすればいいか分からないよ……」


 腰に差している武器を見ながら美桜にどうすればいいのか聞くと、武器を触りながら戻ってと念じるのよと教えてくれた。


「やってみる!」


 腰に差している剣と刀を触りながら戻ってくれと何度も念じると、武器が体の中に光となって入っていく。

 この短時間で驚くことばかりであるので驚くことに疲れてしまっていた。リーンはそんな出雲に気が付いたのか、大丈夫と言いながら下から覗き込んでくる。


「あ、だ、大丈夫……これが現実だなんて思えなくて。おとぎ話の中みたいでさ」

「この世界の人だとそう思うかもね! でも私達の世界じゃ普通のことだよ?」


 普通のことと言われても想像がつかない。

 それほどまで世界の作りが違うのかと考えるしかなかった。美桜に違う世界のことを聞こうとすると、とりあえず移動をしましょうと言われてしまう。

 世界のことを聞きたかったのに……でも仕方ないか。ここじゃ人通りが多くなるようだし、変に思われて通報でもされたら面倒になるしな。


「人通りも多くなったし、さっきの戦闘での被害で周囲の人達がざわめいているから早くここから移動しましょう」

「分かった」


 そう言われて周囲を見ると先ほどとは違い人通りが多くなっているとに加えて、戦闘時には気が付いていなかったが、地面にひび割れがあることに気が付いてしまう。


「そうだね……地面が割れているし、何か言われる前に移動をした方がよさそうだ。あ、リーンさんの姿は大丈夫なの?」

「リーンは平気よ。精霊の姿になるとこの世界の人には見えないから。私の力をあげた黒羽君が見えるようになっただけよ」

「そうなんだね。どれだけ凄い力なんだろう……それにあの時は考えなかったけど、体の中が弄られた感覚が今更気持ち悪く感じてきた……うっぷ……」


 口元を抑えて弄られた感覚を思い出して気持ち悪くなってしまい、何度か吐きそうになると美桜が大丈夫なのと心配をしてくれた。


「力をもらった時に体を弄られた感覚を思い出して気持ち悪くなって……」

「そんなことがあったの!? その時に言ってよ!」

「言える雰囲気じゃなかったし、早く夕凪さんを助けたくてね。ごめん」


 急に怒られてしまうが助けたかったことを伝えると、ごめんなさいと謝られた。


「謝らないで大丈夫! 助けてくれたし、力をくれたおかげで二人を救えたからさ!」


 救えてよかったと言うと、リーンが早く行こうと美桜の袖を引っ張って早く帰ろうと何度も言っている姿が目に入る。


「そうね。ここにいても仕方ないし、私も戦闘で疲れたわ……早く帰りましょう」


 美桜の肩にリーンが座り、そのまま歩き始める。

 そんな風に移動をしていたんだなと二人を見ていると、美桜が早く行きましょうと急かしてきた。


「分かった! すぐに行くよ!」


 先を歩く美桜を追いかける形で歩き始める。

 これからどのような状況になるのか分からないが、とりあえず美桜に付いていくしかないと考えていた。どこに連れられるのか、どのような説明をされるのか不安な部分もあるが、この力のことなどを知りたいことの方が大きかった。 


 そして美桜に付いていくこと三十分。

 会社街から駅に戻り、そこから離れた場所にある閑静な住宅街に移動をしているようであった。自身の家とは学校を挟んで真逆の位置の美桜の目的地があるように見える。


「結構歩いたけどまだなの?」

「もう少しよ。この世界での活動拠点があるから、そこで説明をするわね」

「狭い家だけど我慢してねー!」


 リーンの言葉を発すると美桜は頭部を軽く叩いた。

 痛いよと言っているリーンだが、余計なことを言わないのと怒られているようだ。


「日も陰ってきて夕食時ね。家に何かあったから食べていく?」

「そうしたいけど、ちょっと電話して確認をするね」

「分かったわ」


 歩きながらスマートフォンで祖母に電話をかけることにした。何て言えばいいのか考えるが、素直に友達の家で食べてくるでいいかと決める。

 友達の家で食べるって言えば大丈夫だと思うけど、何も言わないよな? 多分喜んでくれると思いたいな。


「あ、婆ちゃん? ちょっと友達の家で晩御飯食べてくるよ。うん、うん。気を付けるね。ありがとう」


 ものの数分で通話が終わり、簡単に了承をしてくれたので驚いてしまう。

 祖母は気を付けて楽しんできなと言ってくれたので、少し嬉しいと感じつつ今度何か買って帰ろうと考えることにした。


「どうだった?」


 美桜が後ろを向いて聞いてくる。

 すぐに出雲が大丈夫だよと返答をすると、良かったと無縁を撫で下ろして安堵をしているようだ。


「気を付けて楽しんでだって。すんなり良いよって言うとは思わなかったよ」

「意外と通るものよ。家族は子供の幸せが一番だからね。普通の家族なら仲良くいれるものよ」


 そんなことを話していると、リーンがここだよと指を差して笑顔になっている。

 指の先には二階建ての一軒家がそこにあった。一軒家とはいえ小さな家であり、ここに二人で暮らしているのかと思うとと広くて寂しくはないのだろうかと考えてしまう。


「さ、入って。狭い家だけど住み心地は良いと思うわよ」

「やっと家に帰って来たー! お風呂入りたーい!」


 リーンは美桜が開けたドアにすぐさま入って、お風呂お風呂と連呼をしていた。

 二人が入るのを見ると、お邪魔しますと言って家の中に入ることにした。家の中は綺麗に掃除がされているようで、埃一つ見当たらない綺麗な廊下が目に入る。

 一階には部屋が二つあり、二階にリビングと部屋が二つに風呂とトイレが一つずつ設置されているようだ。意外と外から見るよりは部屋数もあって、広く見える作りとなっていた。


「狭くないよ。充分に広い家だと思うよ」

「ありがとう。さ、リビングに入って。昨日の残りのカレーだけど大丈夫?」

「平気だよ。ありがとう」


 リビングに入ると入り口側にテレビが一台と、その前に二人掛けのソファーが一つ。そして奥にある窓側にダイニングテーブルが設置されていた。また、入り口側から見て右側に台所が設置してあるのが見える。


「ちょっと待っててね。今から温めるから、ソファーに座ってゆっくり休んでてね」

「そうするよ。ありがとう」


 台所で美桜が夕食の準備を進めていると、風呂場から鼻歌が聞こえてくることに気が付いた。


「鼻歌? リーンさんかな?」

「そうよ。リーンは精霊だからね体を清めるのが好きなのよ。多い時には一日で十回はお風呂に入っているわ」

「精霊ってそういうものなの? ていうか、十回は凄いね」

「リーンだけかもしれないけどね。私も全ての精霊に聞いたわけじゃないし」


 そんな話をしながらテレビの前にあるソファーに座っていると、リーンが宙に浮かびながらさっぱりしたと笑顔で言っている姿が視界に入る。

 小さなタオルを体に巻き付けてサッパリしたと言いながら髪を小さなハンカチで拭いているようである。突然ほぼ裸のリーンが現れたので目を見開いてその体を凝視してしまったのである。


「あ、私の体を見てるー? 見ちゃダメだよー精霊の裸を見たら死んじゃうよ?」

「し、死んじゃうの!? まだ死にたくないよ!?」


 両目を素早く閉じると、料理を進めている美桜がリーンはそんな精霊じゃないわよと淡々とした口調で教えてくれたので、勢いよく肩を落として安堵をしたのであった。

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