第4話 恐れと決意

「夕凪さんの戦いが見える……俺の体に何が起きたんだ?」


 自身に変化が起きたのは分かるがどのような変化なのか理解ができない。

 だけど動きが見えるということは、協力をして戦える可能性があることだけは分かっていた。


「俺も戦う! 夕凪さんと一緒に!」


 しかしどのように戦えばいいのか。

 美桜が持っているような武器はないので、刀を持つ敵とどう相対すればいいのか一向に答えが出ない。

 武器があればいいのか? でもどうやって武器を手に入れればいいんだろう?

 武器がないことを悩んでいても仕方ないと考え、とりあえず武器が欲しいと美桜に剥けって叫ぶことにした。


「夕凪さん! 俺にも武器を!」


 美桜を見ながら武器をと叫ぶ、と自身の胸が淡く光り、そこから鞘に入っている剣と刀が現れた。


「こ、これが俺の武器!」


 剣と刀を腰に差して、美桜と同じ武器である刀を鞘から引き抜く。

 全く手に馴染まない刀であるのだが、どこか守ってくれるという不思議な確信を感じる。どうしてか理由は分からないが、刀から伝わる暖かさで感覚的に理解できた。

 そんなことを1人でやっていると、悲痛な声が耳に入った。一人で高揚したり悩んでいるうちに頬や腕を斬られて美桜が押されてしまっていた。


「夕凪さん! くそ!」


 叫びながら刀を握る手力を入れると、雄叫びを上げながら二人の間に割って入る。

 出雲の姿を見た角の生えている男性は、攻撃の手を止めて距離を取った。


「夕凪さんはリーンって人を助けてあげて!」

「黒羽君!? 成功したの!?」

「何が成功か分からないけど、傷が治って武器が体から出たよ! これで一緒に戦える!」


 美桜の前に立っているので顔は見えないが、耳に入る吐息や反応から安堵をしていることだけは分かった。

 助けられて良かった……これで夕凪さんを助けられる! 隣に立って戦うんだ!


「俺が相手だ! これ以上、夕凪さんを傷つけさせない!」

「力を得たばかりの雑魚が何を言う!」


 刀を力強く振るわれた出雲は目を瞑りながら刀で防ぐが、柔らかい膜に勢いよく吹き飛ばされてしまう。膜による反動を使って片足で地面に立とうとした瞬間を狙われてしまい、頭部を掴まれて体全体を地面に叩きつけられた。


「がっふ!?」


 叩きつけられた影響で、全身に激痛が走る。痛みによって起き上がれない。

 クソ! 痛みで起きれない……こんな簡単に倒されてたまるか!

 両腕に力を入れて起きようとしていると、角を生やした男性が美桜に話しかけて何やら話し始めている声が聞こえてきた。


「やはり力がその男に馴染んでいないようだな。無理やりお前の力を押し込んだせいだろうな。それにお前の自身の力が弱まっているんじゃないか? その男に力を分け与えたせいで半分以下に落ちているぞ? 力の大半を取られたのではないか?」

「そんなはずはないわ! 私は少しだけ力を与えただけよ!」


 出雲は倒れながらも話を聞き続ける。

 その話から自身のこの力が美桜から分け与えられた力であることが判明した。しかも角を生やした男性の話いよると力の大半を奪ってしまったらしい。

 力を奪ってしまった……夕凪美桜の不思議な力を俺が奪ってしまった……だけど、二人を救うためにはこの力を使って戦うしかない……武器なんて使ったことないけど……それでも俺は!


「戦わないと守れないんだ!」


 地面から立ち上がって刀を握る手に力を入れる。

 負けられない、勝つしかない。それしか考えていなかった。


「夕凪さんに近寄るな……俺が相手になるぞ!」

「力も満足に扱えない人間が、生意気を言うな!」

「言うさ! 力を奪っちゃったかもしれないけど、俺が追いかけてここに来たせいかもしれないけど! それでも俺は守りたいんだ!」


 刀を握りながら角を生やした男性の前に移動をすると、弱い人間がよく吠えると口角を上げながら言われてしまう。


「ならばやって見せろ! 弱い人間の抗いを!」

「見せてやるさ! 俺だって男なんだ! 守るくらい出来るはずだ!」


 その言葉を発すると、角を生やした男性は刀を持つ右腕を振り上げて勢いよく振り下ろしてくる。刀を振るったことがないので、先ほどの美桜の戦い方を意識してその攻撃を辛くも防ぐことができた。


「夕凪さんの戦い方を真似てギリギリ防げたけど、迫って来る刀の威力が強すぎる!」


 先ほどまで戦っていた美桜の戦い方を真似て防ぐのが精一杯である。連続で需要談下段と斬りかかられている際に、迫る刀の切先が顔の右側数ミリを通り過ぎる。

 もうすぐ斬られるところだった。夕凪さんの力を使いこなせられないからか。でも、これが命を懸けた戦いか……迫る刀が怖いけど、恐怖を乗り越えないと!

 

 恐れる心に鞭を打って気持ちを奮い立たせるが防戦一方なことに不安を抱いていると、角を生やした男性が終わりだと言い距離を取って右手に持つ刀に左手を添える。

 すると次第に刀身が黒く染まっていき、禍々しいオーラを放ち始めた。その刀を持ちながら目を細めて角を生やした男性が口を開く。


「技術を真似ようとしても意味がない。やはり人間は滅ぼすべき種族だ! これで終わりにする!」

「俺は負けられない! 夕凪さん達を守るらないといけないんだ!」

「弱い人間に守れるものか!」


 守れるはずがないと叫びながら黒く染まった刀が出雲に迫る。先ほどと同じように受けるが、防いだ瞬間に重さが増して刀が弾かれてしまった。


「な、何が起きたんだ!? 俺はちゃんと防いだのに!」

「分からないか? 魔法が使えない人種には分からないのも無理はない。分からないまま死んでいけ!」

 

 刀を幾度も弾かれながら斬られないように防いでいると、リーンの側にいる美桜が誘導をしてと叫んでいるようだ。

 どこにと返答をすると、どこからか取り出した小さな端末を操作して角を生やした男性の背後に人が入れる大きさの空間を美桜は出現させた。


「その空間に押し込んで! そうすればそいつはこの世界から消えるわ!」

「そうなの!? やってみる!」


 美桜の言葉を聞いて押し込めばいいのかと思うが、空間に気が付いたのか何か技を出そうとしているその姿を見て警戒をする。

 どのような技を出そうとしているのか警戒を続けていると、受けてみろと角を生やした男性が刀を横に振るった。


「な、なんだよそれ!」


 体ごと吹き飛ばされそうになるその一撃はとても重く、重心を下半身に移動をさせてなんとか吹き飛ばされるのを防ぐことができた。

 守ると決意をしたのだが、すぐにこの場から逃げ出したい気持ちが溢れしまう。しかしこの攻撃を防がなければ、後ろにいる美桜とリーンに危害が及んでしまうので逃げることはできない。


 どうすればこの状況を打開できるのかと考えていると、不意に脳裏に美桜が戦っている姿が映った。

 刀に手を添えてそこから何か衝撃波のようなものを出す姿や、不思議な力を全身に巡らせて身体能力を上げている姿が思い浮かぶ。


「こ、この映像は……夕凪さんからもらった力の影響なのか?」


 美桜の戦闘を思い出し、身体能力を上げるために全身に意識を集中させる。

 自身の体の中心から溢れる不思議な力を巡らせるイメージをすると、徐々に防いでいる刀を押し返すことが出来るようになり始めていた。

 出雲が押し返していることに驚愕をした角を生やした男性だが、今更なにをするのかとさらに力を籠めてくる。


「俺は逃げない! 夕凪さんに生かされたから、お前と戦うんだ!」

「生かされたから戦うとは、それではただの人形ではないか!」

「人形じゃない! これは俺の意志だ!」


 全身に不思議な力を巡らせると一気に角を生やした男性の刀を上部に弾いて腰に体当たりをして空間に押し込もうとするが、あと少しのところで防がれてしまった。


「それ以上はやらせるものか! あまり舐めるな!」


 角を生やした男性が叫びながら押し返そうとすると、出雲の背後から右手にサッカーボール大の輝く球体を出現させながら美桜が現れた。


「よく頑張ったわ! 流石ね!」


 そう言いながら輝く球体を角を生やした男性の顔に勢いよくぶつけると、悲痛な声を上げながら一歩下がった。

 その隙を見逃さずに刀を握った美桜は、横にいる出雲に押し込みましょうと話しかける。


「分かった! 早く元の世界に帰れ!」

「早く消えなさい!」


 美桜と共に刀を勢いよく振り下ろすが、二人の攻撃は顔の左側を焦がしながらも態勢を素早く整えられてしまって防がれてしまう。

 しかし攻撃を防がれても美桜は攻撃の手を止めずに勢いよく腹部を数回蹴って空間に押し込むことに成功をした。


「ここはあなたのいるべき世界じゃないわ! 元の世界に帰りなさい!」

「くそ! 俺は諦めないぞ! 何度でも戻って支配をしてやる!」


 そう言いながら名前も分からない角を生やした男性は空間に消えた。

 突然始まり、突然終わった戦い。出雲は必死で戦うことで生かしてくれた夕凪美桜を守ることに成功をしたのであった。


「やったわね! これで一段落よ!」

「ありがとう……何度も死ぬかと思ったよ……」


 よくやったわと言われながら何度も背中を軽く叩かれる。

 微妙な痛みを背中に感じていると、倒れているリーンは無事なのか気になった。


「リーンさんは大丈夫なの?」

「あ、リーンなら無事よ。ほら、あそこでピンピンとしているわよ」


 美桜が伸ばした指先を見ると、そこには全長30センチで薄い桃色の肩を超す長さの髪を持つリーンの姿が目に入った。水色のワンピースを着ているようで、背中から一対二枚の白い翼を生やしてパタパタと音を上げながら宙に浮いているように見える。

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