癒しの存在

「おはようございます、所有物さん」


「おはよう、所有物くん」


 チャイムが鳴ったので朝に扉を開けたら、神崎兄妹が立っていた。もうこれくらいのことで驚かないぞ。GPSを使って俺の住所を調べたんでしょうね、所有物ですもんね!


 すこしずつ慣れてきたことにうんざりとしながらも家の中に入ると堂々と入ってきて用意されている朝食を食べ始めた。こいつらが初めて俺の家に来て朝食を用意しろと言い始めたときには本当に頭がおかしい兄弟なのだろうと思ったな。


 おいしそうに頬いっぱいに頬張ったところで可愛くないからな。


「猫かんたちって生徒会とか入るつもりとか・・・」


「「ない」」


 ですよね。風紀を整える生徒会というよりも風紀を確実に乱す側だもんな。うちの学校は単純に魔法が強いものを生徒会に入れる風習のようなものがあるためそこまで生徒そのものの素質というわけでもないが。


 そういえば、猫かんはもちろんつよいことは分かっているのだが座っているだけで絵になる男、成人先輩も生徒会に入れてほしいと頼まれていた。


「もしかして成人先輩も強いのか?」


「・・・お兄さんは、すごく強いですよ。あなたにはばれていると思いますが、弱い人ではないです」


 ばれているというのは、やはり、あのことだろう。


 特に本人から語られない限り言うことはないが猫かんの口調からしてさらに確信になった。


「とにかく生徒会に入るつもりはないわ。他校との闘いとかどうでもええし」


 そういって成人先輩は手を合わせて制服に着替え始める。まぁここ俺の家なんですけどね?イケメンって何をしてもいい法律でもありましたっけ。


 猫かんもいつものように困ったように微笑んでいた。





「失礼しまーす」


「おはよう、奏多くん」


 生徒会室に入った俺に挨拶をしてくれた少女は、同じクラスの河合友奈。生徒会長の古城先輩ほど派手ではないものの、素朴でありながらも目を引く可愛らしい顔立ちをしている。人気のある子だが、それを鼻にかけるわけでもない性格から男女ともに支持されている。


 俺はBクラスで友奈で魔力はAクラスほどは多くないものの貴重な回復魔法所持者なことから生徒会入りを果たした子だ。


 最近は友奈と話すことが楽しみになっている。普通に話すことが出来る存在ってまじで必要。


「今日は他の人たちがまだ来てないんだ。奏多くんが来てくれてよかった」


 うーん、笑顔がまぶしい。


 存在自体が回復魔法なのではないかというくらいに、マイナスイオンを感じる。生徒会室に来てこんなに心が休まる時が来るなんて。ちなみにいつもは生徒会の雑務をさせられていたり、毎日マッサージをさせられている。


 かと思ったら猫かんたちに呼びつけられておちょくられる。


「友奈は早いんだな」


「うん。あたしは生徒会の仕事と救護班としての仕事もあるから。これから忙しくもなるしね」


「大きなイベントって何かあったっけ?」


「それがね、体育祭があるんだよ。だからもう大変で」


 ああ、もうそんな時期か。


「俺たちの学校体育祭とかド派手だよな」


 魔法を使って競技をするため、他の学校の体育祭とは質が違う。ただの身体能力の差だけではどうしようもないものであり、どれだけ競技向けの魔法を持っているかに関わってくるものの、逆に運動音痴でも一位になれる。


 救護班だと確かに仕事が多そうだ。


 ホッチキス作業を手伝う。これこそ適切な魔法を持っている人がいたとしたらすぐに終わるのだろうが、あいにく俺と友奈は特殊な魔法ではあるものの作業に役に立つとはいいがたい。


 だが、友奈が挟んでいる資料が違う気がする。


「それなんだ?」


「えっとねぇ」


 少し照れるように、資料で顔を隠しながら照れている姿は小動物のようで可愛らしい。ほわほわとした口調で話す。


  しかし、それでちらりと資料の中身が見える。

 



 ・・・おーっとぉ???????毎日よく見るサイコ兄妹の兄と目があったよう気がしますね?嘘ですよね、あの恐らく顔面のために倫理観や道徳心を失った極端に偏った男に騙されていませんよね?


 盗撮しているようには見えないくらいカメラ目線なのが気になるが、確実に成人先輩だ。


 まさかの俺の癒しがもう毒牙にかかっているとは。



「あ、み、見えたかな」


「いや、全然」


 まさか友奈が成人先輩のことを好きだったとは。いい子だからおうえんしたいという思いはあるものの、相手が応援できない。知らないふりをしておいて、さりげなくサポートするにとどめよう。




(まさか成人先輩に奏多くんとのツーショットを頼んでることがばれたとしたらどうしたらいいかと思っていたけど、良かった。どうしてこんなにこの二人のことが気になるのかわからないけど・・・一緒に朝食食べてみてほしいって言ったら本当にしてくれたのには驚いたなぁ)



 なんて、友奈が考えていることなんて奏多は知らない。


 奏多の癒しの存在が新たなる扉を開いて、それを面白がって受け入れている成人によりさらに苦しめられているということには気づかずに、勘違いをしていた。









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